暗躍するアリー
(何だ何だ何でこうなったんだ?)
俺は近くのカフェのような場所で吉永麻梨乃、そしてアリー・サンタモニカの3人で話をすることになってしまった。なぜこうなったのか詳しくは分からないが、今日はこの3人で出かけることになったらしい。
「えっと、吉永さんの趣味って何かある?」
俺がだんまりになってしまうと、せっかくアリーが作り出してくれた時間が無駄になってしまう。そう考えた俺はそう彼女に話を振った。
「え、えっと、あ、あたしは……」
だが、彼女はまるで話せる状態ではなさそうだ。顔を真っ赤にした麻梨乃を見かねたアリーが俺に耳打ちしてくる。
(事情は話せないけど、たぶん今日の麻梨乃はずっとこんな感じ。私の悩みよりも、今度は麻梨乃の方が大変そう)
(どういうことなんだよ。俺に悩みを解決して欲しかったんじゃなかったのか?)
俺は首を傾げる。
(それどころじゃなくなった。見ても分からないようなら言っても無駄。もしこのまま分からないなら、これから麻梨乃に会うときはいつもそんな感じの格好で来てほしい)
(……? まあいいけど)
俺は不思議そうな顔をして頷いた。
「じゃ、ちょっとトイレに行ってくる。しばらく二人で過ごしてて」
「あ、ちょ、ちょっとアリー!」
麻梨乃が呼びとめようとしたが、アリーはさっさと席を離れてしまう。
「……」
「……」
俺も麻梨乃も黙ってしまう。当然と言えば当然だ。俺たち2人にアリー以外の接点はないのだから。彼女に話しかけても反応がないのならと思い、俺は麻梨乃の観察をしてみることにした。
今の麻梨乃の様子は体をもじもじさせ、郵便ポストもびっくりな顔の赤さだった。とここで俺はある1つの可能性に思い当たる。
(まさか……)
俺は今回の作戦を思い出す。俺の作戦では今日のデートで彼女と仲良くなり、彼女の性格を改善させる彼氏役になることが目的だった。そのために彼女に気に入られる必要があったのだが、どうもこの様子だと気に入るどころか一目惚れされてしまった可能性が高い。その証拠に彼女はさっきから俺の顔を見ては目をそらしといったようにそわそわし続けているからだ。一応ズボンのチャックが開いてないかなど初歩的なミスがないかも確認してはみるが、そんな間抜けなミスはもちろんしていない。
(これは困ったことになったな……)
いざ彼女の気持ちに気付いてしまうと今度は彼女にどう対応していいものか非常に困る。当然ながら俺は彼女に対して何の感情も抱いていない。当初の予定では、麻梨乃が俺を気に入って告白したところでアリーから彼女がわがままであることを聞き、それを聞いた俺が彼女を諭し、フラれた彼女が自分を磨くことに精を出すようになるはずだったのだ。だが、アリーがわざわざトイレと言ってまで席を外したことを考えるに、これは予想以上の非常事態のようだ。
(しかし、この状態の彼女ならわがままだった自分を直すことができるはずとも思える訳で……。どうしたもんかな……)
俺は考え込んでしまうこととなった。
一方、トイレに行くと言って席を立ったはずのアリー・サンタモニカは、姿を消してカフェの外に出ていた。
(ちょっと予定外なことは起きたけど、おおむね予定通りにはなってる。後は2人に直接接触して確認するだけ)
「……サラ。いるなら返事をしてほしい」
アリーはそう呼びかける。
「何ですか?」
その言葉に反応した沙良は見えない姿のまま反応する。
「お願いがある」
「私にメリットはあるんですか?」
「特にない。でも、メリットなら作ることはできる」
「どういうことですか?」
沙良はアリーのその言葉に不思議な顔をする。
「その前にまずは私のお願いを聞いてほしい。話はその後」
「……あなた昔よりずいぶん交渉がうまくなりましたね。いいでしょう。あなたのそのお願いっていうやつから先に聞きましょうか」
「助かる。さすが私の友人」
アリーは見えない姿のまま笑みを浮かべる。
「私の契約者、吉永麻梨乃から町村樹に対する恋愛感情だけを抜き取ってほしい。そうすれば彼女は痛い子になる可能性はあるけど、自分磨きに徹してくれるはず」
「私の能力は吸収ですから、まあそのくらいなら簡単ですけど。それで、私にメリットがあるんですよね? それは何ですか?」
「……あなたの契約者」
アリーは沙良の質問にカフェで困った様子の町村樹を指差す。
「あなたの契約者にこのお願いを頼ませる。サラは町村樹に手を焼いているみたいだし、あなたの力にもなれる。決して悪い取引ではないと思う」
「……なるほど。樹さんの私利私欲の願いに変換してしまおうと、そういうわけですか。それならあなたのそのお願い、聞く価値はありますね」
沙良は頷く。
「しかし分かりませんね。何故麻梨乃さんと樹さんに能力をかけたんですか?」
「……何のこと?」
アリーは聞き返す。
「あくまでとぼける気ですか。いつの間にか樹さんと知り合いになってるどころか今度はその樹さんまで巻き込んでこんなことになってますし、本当に何が目的なんですかあなた」
「……それはノーコメント。私にもやることがあるとだけ言っておく」
アリーはそう言う。
「それは、この悪魔昇格の試験を受けるよりも大事なことなんですか?」
「少なくともそれと同じくらいには」
「……どういうことですか? あなた、まだ私に何か隠してるんじゃ……」
沙良は怪訝な顔をするが、
「……とにかく今は手筈通りにしてくれればそれでいい。それじゃ」
アリーはそう言って沙良の前から姿を消す。
「ちょっとアリー!」
沙良は叫ぶが、既にアリーの気配はない。
「いったい何なんでしょうまったく」
だが、何も話すつもりもない彼女に不平不満を言っても仕方ない。沙良は諦めて準備に取り掛かることにした。




