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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
アリーの悩み 樹の悩み
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悪魔固有の能力

「アリー・サンタモニカ……その女の子は本当にそう名乗ったんですね?」

 潮干狩りから帰宅後、俺、町村樹のことを助けてくれた少女のことを話すと、高梨沙良は確認するようにそう聞いた。

「ああ。色欲の悪魔見習いとも言ってたぞ」

「……まさか、この町に私の知り合いがもう一人いたなんて」

 沙良は驚愕したようにそう呟く。

「あいつは何者なんだよ? 知り合いなら分かるんだろ?」

「アリーは私の友人です」

 彼女はそう一言だけ返す。

「友人ったって、じゃあ何でわざわざ隠れて俺たちを監視する必要があるんだよ。それこそこっちまで会いに来ればいいじゃねーか」

 俺はもっともな疑問をぶつける。

「私に聞かれても分かりませんよ。試験中だからってわざわざ会うのをためらうほど距離感があった訳でもありませんし、向こうにも何か事情があるんだと思いますよ」

「事情ねえ……」

 オウム返しをしてみる。

「それに樹さんを助けたことから考えても、ケンのように人間に迷惑をかけることはないと思いますよ。心配するだけ時間の無駄ですって」

「それはそうだろうが……」

 俺の中でどうにも引っかかっていることがあるのだ。それは、アリーが別れる直前に言ったこの言葉だった。



「でも、あなたかわいい。あなたにもちょっとだけ興味がわいた。また近いうちに遊びに行く」



 このことは沙良には言っていない。近いうちに、というのがどのくらいなのかと言うのも分からないし、何より沙良に言ったところでおそらく、

「では、私の能力を使ってみましょう。それですべて解決です」

と返されるのが目に見えていたからである。

「で、色欲の悪魔見習いってのはやっぱりお前とかケンみたいにいろいろな能力を使えるのか?」

代わりに俺はそんなことを聞く。

「珍しいですね。樹さんが悪魔について知りたがるなんて。まあ、知ってくれる分には何の問題もないので説明しますけど」

 そう言って彼女は話し始めた。

「色欲の悪魔見習いが司っているのは、私たち悪魔の中でも特別なものです」

「特別?」

「はい。簡単に言ってしまえば性欲ですね。色欲の悪魔見習いがすることは主に誘惑です」

「誘惑?」

 言われてみると彼女の言動の中にはいくつか俺を誘っているとも取れるようなものがあった。

「なので、色欲の悪魔見習いは他の悪魔見習いとは違ってある特殊な能力を使用できます。それが変身能力ですね」

「変身能力……? お前だって人間に変身してるよな?」

 俺は首を傾げる。普段沙良たちが使っているのも変身能力ではないのか。

「私たちもここに来る前にある程度特訓をしているので、人間の姿になること自体はできます。ただ、私はこの姿にしかなれないのに対して、アリーのような色欲の悪魔見習いは老若男女、それこそ動物や物にまで変身することが可能なんです」

「へー……」

 つまり、沙良の場合は変身能力、アリーの場合は変化能力とでもいうのが正しいのかもしれない。沙良は1つのものにしかなれないが、アリーはどんなものにでも変身できるということなのだろう。

「と言っても、ケンは普通に使えるみたいなのでその辺りは謎なんですけど。大方広い人脈を使って少しだけ他の人間に化けられるように練習したんでしょう」

 沙良はそう推測する。実際その辺りはスイカ割りと称してケンにお仕置きしていたせいで聞きそびれたのだそうだ。

「ただ、アリーが樹さんのことを助けに来たってことは、たぶん変身は不完全だったんでしょうね。もしくは、アリーにだけ見破れる何かがあったか。いずれにしても彼女が固有でもっている能力はこの変身能力だけで、残りは私たちと基本的には同じですよ」

「げっ、じゃああいつは瞬間移動の能力も使えるのかよ」

 彼女が姿を消したのはあっと言う間だったし、そう考えるのが自然だ。

「まあ私と同じクラスでしたし、そのくらいは使えますって」

「さらっと恐ろしいこと言うなお前……」

 俺は恐怖を覚える。が、そこであることに気付いた。

「そういえば、お前には固有の能力はないのか?」

「ああ、一応ありますよ。あんまり使い道はないですけど」

 沙良はそんな言い方をする。

「私の固有の能力は吸収です。暴食の悪魔見習いなので、あらゆるものを吸い込むことができるんです。もっとも、考えなしに吸い込むと結構とんでもないことになるので大変なんですけど」

「ん? ってことはつまり掃除機いらずってことか?」

 俺は希望に満ちた目で沙良を見る。

「私が吸引力の変わらないただ一人の悪魔見習いだと思ったら大間違いですからね。ごみ掃除はきちんと自分でしてくださいよ。私の能力はそういうものを吸うためにあるんじゃないんですから」

 彼女は俺にそんな文句をつける。彼女としてはそんなつまらないことに自分の能力を使われるのが癪なのだろう。

「ちぇっ、分かったよ」

 俺は残念そうに布団に横になる。

「ああ、明日は買い出しに行くけどついてくるか?」

「買い物ですか? ええ、それはもちろん!」

 彼女は途端に目を輝かせる。

(現金なやつ……)

 俺はそんなことをひそかに思いながら横になった。

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