桜の番外編コーナー①
「桜の番外編コーナー!」
私はそんな声を上げる。
「って、何で私こんなことしてるのよ」
セルフツッコミを入れるが、もちろん誰からの反応もない。とその時、私の手元にカンペのようなものが手渡された。
「えっと、なになに、桜さんの出番が次の話から本編中でしばらくないようなので、ここで番外編のコーナーを作らせていただいた次第です……って嘘? 私しばらく出てこないの?」
私の問いに近くにいるプロデューサーたちが全員無言で頷く。
「ええー……。じゃあ私何すればいいのよ」
少しだけ落ち込んだ私は、とりあえず何をすればいいのか聞く。すると再びカンペが私の手元に来る。
「ゲストが来るので、そのゲストとお話ししてください、か。はいはい、分かりました。それではゲストの方どうぞー!」
進行だけはつつがなくしておかないといけないと悟った私は番組を進めることにした。出番がない以上はここでぐだぐだしている暇はない。
「……こんにちは」
「あ、こんにちは。えっと、お名前をどうぞ」
「私は色欲の悪魔見習い。名前はアリー・サンタモニカ」
私の向かいに座った彼女はそう名乗った。
「アリーさんですね。樋口桜です。よろしくお願いします」
「よろしく」
彼女の口調はどこかミステリアスな雰囲気を感じさせるものがある。これも色欲の悪魔見習いが故の存在感なのだろうか。
「ってあれ、私この子のこと知らないんだけど」
私は気付く。色欲の悪魔見習いの話は樹君から聞いてはいたが、会うのは初めてだった。
「あなたと入れ替わりに本編に登場するようになったから仕方ない。たぶんこの初めて会ったくだりはもう一度することになると思う」
「何それ二度手間じゃない」
「作者の中でこのコーナーはあくまで二次創作的な扱いみたいだから」
「何なのよそれ」
私は憤慨するが、ここでどうこう言っても始まらない。そもそも作者はここにはいないのだから。
「それじゃあ最初のコーナー行きますね。最初のコーナーは……恋のお悩みSOS! って何よこのコーナー」
私は原稿の続きをそのまま読んでみることにした。
「ここでは女の子二人に本編中に出てきた気になる男の子のことについてトークしていただきます……だって」
「さすが二次創作的な扱いの作品。ここなら何を言わせても問題ないみたいな風潮が見て取れる」
アリーさんはそんなことを言う。
「ちょっとさすがにそれはどうなのよ。それにそもそもまだ樹君とケンしか本編に男性出てきてないじゃないの」
「その2人のことについて話せばいい」
「2人って……そうね。じゃあまずケンについて話してみましょうか」
このままだと進まないことを悟った私は、少し癪だったけどこのコーナーに乗っ取って話を進めることにした。
「ケンは学校にいた時からあんな感じだったの?」
「大体あんな感じ。コミュニケーション能力が高いところも変わってない。私に変身能力を聞きに来たこともあったくらいだから」
「へー……ってじゃあこないだのケンの変身能力はアリーさんから教わったの?」
「そんなところ。と言っても教えたのは私じゃなくて私の先生だけど。聞かれたから私が紹介してあげた」
「なるほど……」
なぜこんな裏設定のようなものをここでポンポン出してしまうのだろうかとも思ったが、たぶん本編では触れる予定のない設定なのだろう。私は手元のペットボトルに手を伸ばしながらそう勝手に納得する。
「ところで桜はケンのことどう思ってるの?」
「ぶっ!」
私は飲んでいた水を思いっきり吹き出した。吹き出した水がアリーさんの顔にかかってしまう。
「私そんなにおかしなこと言った?」
「ご、ごめんなさい……」
私は持っていたハンカチをアリーさんに差し出す。
「ありがとう」
アリーさんは顔を拭くと、私にハンカチを返す。
「それで、どう思ってるの?」
「え、えっと、そうね。悪魔見習いとしてはまだまだなところがあると思うけど、頑張っているとは思うわ」
私は目をそらしながらそう答える。
「……素直じゃない」
「えっ?」
「何でもない。じゃあ次、主人公について」
アリーさんはそんな風に司会進行をする。……ってあれ? 私の番組が乗っ取られてる?
「樹君は信頼できる男の子よね」
「私としてもあの人の印象はそこまで悪くない。実際これから本編では私との絡みが増えていくみたい」
アリーさんも頷く。
「……ん? まさか私の出番はそのせいで……」
何かに気付いたようにアリーさんを見る。
「その可能性は高い」
「これは本編に戻ってきたら何とかしないと……」
私は危機感を覚え、そんなことを呟く。
「心配しなくても桜の出番はすぐやってくる。私との話が一通り終わったらまた出番は戻る」
「その根拠はどこにあるのよ……」
言い切ったアリーさんの方を見る私。
「今これを書いてる作者が桜と麻梨乃を絡めて何か話を書こうとしてるみたいだから」
「その作者の思考をばらしていく電波的スタイルはやめましょうアリーさん……」
私はため息をつく。
「それでは次のコーナーは……って次回? この番外編まだ続くの?」
「そうみたい」
今度は二人で呆れることとなった。




