表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/181

危険な誘惑 色欲の悪魔見習いの謎

「あんた、何者なんだ?」

 俺は危険を感じ、助けてくれた恩人であるはずのアリーから距離を取る。沙良の本当の名前を知っているということは、この女の子がただの女の子ではないことを意味しているからだ。

「私は色欲の悪魔見習い、アリー・サンタモニカ。サラやケンとはクラスメイト。今は吉永麻梨乃って女の子の家で試験をしてる。立場的にはサラやケンと同じ試験生」

 だが、女の子は俺が警戒したことを察知したのか、お辞儀をしてそんな自己紹介をしてきた。

「何だ、じゃあ別に悪い奴ではないのか」

 そうだよな、と俺は構えるのをやめて思う。わざわざ悪い奴がちょっと監視していただけの俺を助けてくれるはずがない。

「まあ、悪い奴ではないけど。ただ、私は色欲の悪魔見習いだから……」

 そう言った彼女は一瞬で俺の目の前まで間合いを詰めると、俺の顎を軽く上げて自分の顔の目の前に来るようにした。

「こうやってあなたを誘惑するくらいはしちゃうかも」

 アリーの目は上目遣いで俺を誘う。俺はなぜだか彼女に対してドキドキしてしまい、目をそらしてしまう。

「ふふ、冗談。今のは特に何も効力のないただの女の武器。心配しなくてもサラの契約者であるあなたに危害は加えない」

 アリーは俺から離れる。

「脅かすなよ……」

「でも、あなたかわいい。あなたにもちょっとだけ興味がわいた。また近いうちに遊びに行く」

 そう言った彼女は俺に背中を向ける。

「おい、待てよ!」

「麻梨乃を待たせるわけにはいかないから。それよりあなたもここから海までは近いし、早くサラたちのところに向かうといい」

 そう言った彼女は俺を気にする様子もなく、一瞬で姿を消した。

(あいつも瞬間移動の能力を持ってるんだろうな。沙良は前に担任から教わったって言ってたし)

 沙良やケンとクラスメイトである以上、アリーも瞬間移動を使用できると考えた方が自然だろう。

(しかし分かんねーのはあいつの目的だな。何で俺をわざわざ助けに来たのか)

 それこそ興味がわいた、だけで片付くはずがない。掛け値なしに助けに来るような悪魔がいるとは思えないのだが、それは彼女がまだ悪魔見習いだからなのだろうか。

(ただそれより疑問なのは、何であいつが俺たちを監視してたのか。いや、正確には沙良とケンを監視してたのか、だな)

 今はまだ分からないことが多すぎる。ひとまず海に戻って全員に相談しよう。俺はそう考えて、倉庫を後にした。



「……で、お前ら何やってんだよ」

 だが、俺が海岸に戻ってくると、そこにはおかしな光景が広がっていた。

「いえ、樹さんを倉庫に閉じ込めたことをケンが白状したので、桜さんと二人でお仕置きをですね」

「そうそう。今人間スイカ割りしてるの」

 俺の目の前にいたのは砂浜に体をすべて埋められたケンの姿だった。桜の手に持たれた棒を何度も目隠しの状態で振り下ろされ、涙目になっているケンがそこにはいた。遠くの方では何かに男たちも群がっているし、何が何やらだ。

「助けてくれタツッキー! さっきから何度頭を割られそうになったことか!」

 ケンは今にも死にそうな目で俺を見てくる。

「お前らそんなことやってる暇があったら早く俺を助けに来いよ!」

『あ、それもそうね(でした)』

 2人は気付いたようにその手を休める。

「そういえばどうやって戻ってきたんですかここまで」

 沙良は今気付いたというように俺を見る。

「それは後で話す。とりあえず帰ったら話したいことがあるから、いろいろ答えてくれるな?」

「はい、それはもちろん」

 沙良は素直に頷く。

「あと、桜にもそれをまとめた話を後で話すから」

「ええ。分かったわ」

 桜も問題ないというように頷く。

「で、ケンは……そのままそこに埋まっとけ」

「そんな! それはあんまりだぜタツッキー!」

 ケンは叫ぶが、全く動けない様子を見るとどうやら沙良に本気で埋められたらしい。

「てめえのせいで俺は危うく死にかけてんだよ! ちょっとは反省しやがれ!」

 俺はそのままケンとは逆の方を向き、沙良と桜に帰宅を促した。

「分かった、悪かったから俺を引き上げてくれよー!」

 ケンの叫び声が砂浜に悲しくこだました。



 時は少し遡り、樹が戻ってくる少し前のこと。

「あら、帰ってきたのねアリー。遅かったじゃない」

 きわどい水着姿でくつろぐ麻梨乃の元にアリーは帰ってきていた。

「うん。ちょっとお腹が痛くて」

「悪魔もお腹壊すのね。それじゃ、戻ってきたことだし私の願い、叶えてくれるわよね?」

 麻梨乃は悪魔のような笑みを浮かべる。

「……分かった」

 少しためらったアリーは麻梨乃の頬を指差すと、自らの呪文を彼女にかけた。すると、

「あれ、あの子スゲーかわいくね?」

「ちょっと声かけてみようぜ」

と言った具合に砂浜を歩いていた男たちが次々と麻梨乃に声をかけていく。たちまち麻梨乃の周りはナンパ目的の男たちで溢れかえっていた。

(……今まで見ていた感じ、サラもケンもこんなにたくさんの私利私欲の願いを叶えているわけではないし、むしろそれどころか願いすら叶えている様子もない)

 アリーはそんなことを考える。

(おそらく原因は契約者にあるんだろうけど、このままだとすごくまずい気がする。あの人に会わせる顔もないし、私も少しサラの契約者の意識を変える方法を考えないと)

 彼女は物憂げな表情で沙良たちの方を見るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ