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3人目の悪魔見習い アリー・サンタモニカ

「そういえば樹さん、今日は何か叶えてほしい願いとかないんですか?」

 潮干狩りを始めた沙良はそんなことを聞く。彼女の本職は悪魔見習いであり、人間の私利私欲を叶えることが目的だ。

「え、えっ、願い?」

「はい。でもどうしたんですかそんな挙動不審な受け答えなんかして。樹さんらしくもないです」

「い、いや、このタイミングで聞かれるとは思ってなかったからだよ」

「私はいつでも突然聞いたりしますけど、いつもの樹さんならそんなこと言わずに突っ込みを入れているはず……。まさか樹さん……」

沙良は何かに気付いたようにケンを見る。

(気付かれたか?)

 ケンは動揺しているのを隠しながら沙良の返答を待つ。

「やっぱりまだ調子悪いんじゃないですか? 少し日陰で休んだ方がいいですよ」

「あ、ああ、そ、そうだな。じゃ、じゃあ少しだけ休んでくるよ」

(焦らすなよサラっち……)

 ケンはそんなことを思いながらひとまず彼女たちから離れることにした。



 だが、

「桜さん、少しお話良いですか?」

樹(だと思っているケン)がその場を離れた後、沙良はアサリを収穫する手を休め、桜にそう話しかける。

「何、沙良さん?」

 桜も沙良の方を向いて聞く。

「実は樹さんのことなんですが、やはり少し様子がおかしいと思うんです」

「……そうね。ちょっと全てにおいて樹君らしくない行動が目立つわね」

 桜も頷く。二人ともとっくに樹がいつもとおかしいことに気付いていたのだ。

「私、こういうやり口のできる知り合いに一人心当たりがいるんです」

「こういうやり口?」

 桜は疑問を投げかける。

「はい。他人に化けることができる悪魔見習い、その能力を持ち合わせているのが色欲の悪魔見習いなんです」

「色欲?」

 それは以前に聞いた7つの大罪の1つだった。

「はい。名前はアリー・サンタモニカ。私の友人の一人です。でも……」

「でも?」

 桜はそこで止まってしまう沙良の言葉の続きを促す。

「彼女が樹さんに化ける理由もメリットも思い浮かびません。なので、たぶんこの行動は彼女ではないと思います。アリーは別にケンのようないたずら好きな子ではなくて、むしろ隅の方で黙って本を読んでいるようなおとなしい子でしたから」

「じゃあ、こういうことができるやつが他にいるってこと?」

「ええ、たぶん」

 沙良は考え込む。もちろんそんな心当たりはない。すると桜がこんなことを言い出した。

「私考えたんだけど、ケンならやってもおかしくないと思うの。樹君を送り届けた後からずっと姿を見せてないでしょ?」

「ケンですか? 確かに理由としてはなくもないかもしれませんけど、ケンは私と同じで色欲系列の変身能力は使えないからせいぜいいつもの姿に擬態することしかできないはずですよ」

 沙良はそう言う。頭にはあったが最初からその可能性は捨てていたらしい。

「そうよね。でも、確か沙良さんも瞬間移動の能力を別の悪魔から教えてもらったんでしょ? それならケンに沙良さんの知らないところでパイプがあってもおかしくはないと思うの。例えばさっき言ってたそのアリーさんとか」

 桜は聞く。この情報は以前に樹から聞いたものだ。

「確かにケンの交友関係の広さは目を見張るものがありましたからね……。可能性としてないわけではありません」

 沙良は少し考え、突然立ち上がる。

「どうしたの?」

 桜は沙良を見上げる。

「考えていても埒があきません。直接本人に聞いてみましょう」



 一方、倉庫では。

(くそっ、鼻で呼吸はできるけどまだ車酔いが治ってないせいか気持ち悪いな……)

 蒸し暑い中倉庫の中に閉じ込められた俺は体力の限界を感じていた。

(でも、ケンの目的は何だってんだ。閉じ込められるまでの記憶がまるでないから見当もつかねえ。何で昼間から監禁されてんだよ俺は)

 そんな堂々巡りの思考が俺の頭の中をよぎる。夏日の中日陰とはいえ密室状態の倉庫の中にいては思考能力も削られてしまっていた。

(沙良も桜も気付いてないんだろうなこの様子だと)

 もちろんケンに気絶させられたことは沙良も桜も知らない。この状況だと誰かが助けに来てくれるのは絶望的と見ていい。だが、そんな時だった。突然倉庫の開く音がする。

(ケンか?)

 だが違った。目の前に立っていたのは見知らぬショートカットの女の子だった。年齢は俺と同じ高校生くらい、沙良とはまた違ったおとなしさを感じさせる子だった。

「今、助けてあげるから」

「ん?」

そう言った彼女はまず俺の口に張られていたガムテープをはがした。

「ありがとう。助かったよ。えっと、あんたの名前は?」

「アリー。アリー・サンタモニカ」

「そうか、アリーか。俺は町村樹だ」

「知ってる。ずっと監視してたから」

「……監視?」

 そう言っている間にも彼女は手と足の拘束具を手際良く外していく。

「はい、できた」

「あ、ありがとう」

 俺はようやく吸えるようになった空気を思い切り吸い込むと、そのまま吐き出す。おかげで車酔いは大分よくなった。

「それと、ケンがあなたに化けてる。目的は分からないけど気を付けた方がいい」

「ケンが? っていうかケンのことも知ってるのか?」

 俺は驚く。

「うん。ケンだけじゃなくてその契約者の樋口桜のことも、そしてあなたが契約してるサラ・ファルホークのこともよく知ってる」

 彼女はそんな衝撃の告白をしてきた。

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