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ケンの思惑とわがままな女の子

 時は少し前、樹がケンの能力で気を失ったところまで遡る。

「おいタツッキー大丈夫か?」

 ケンは自分で気絶させておきながら、樹にそんな言葉をかける。もちろん今の樹は気絶しているのでケンの言葉は届いていない。

「樹さんそんなに調子悪かったんですか?」

「いや、どうもサラっちがここまで連れてくる時の高速飛行が原因だったみたいだ。いつもなら飲んでるはずの酔い止めを飲まなかったらしい」

 ケンはそんな説明をする。

「そうですか……。私が無理やり連れて来なかったらこんなことには……」

「沙良さんが気にすることはないわ。でも、この状態の樹君を直射日光に当てておくのは危険よね。どうする?」

 桜は心配そうに樹を見る。

「俺がどこか日の当たらなさそうな場所を探してくるよ。少しだけ待っててくれねーか?」

「そうしてくれるなら助かるわ。じゃあ私は沙良さんと少しお話してるわね」

「あいよ」

 そう言ったケンは姿を消すと持ち前の飛行能力を使い、誰も人が来なさそうな薄暗い場所を探すのだった。



「おっ、あったあった」

 ケンはしばらく付近を飛び回ると誰もいなさそうな倉庫を見つけた。

「さて、問題はここからだ」

 ケンは樹の体を自分の目でしっかりと観察する。

「使うのは初めてだが、行くぜ」

 そう言ったケンは目をつぶり、樹の体を鮮明に思い出す。

「転写!」

 ケンはそう叫ぶと、そのイメージを自分の体に張り付けていく。そのままケンが目を開くと、ケンの姿は樹と寸分の狂いもない状態になった。

 ケンのこの能力は本来ならば色欲の悪魔しか使用することのできない変身能力なのだが、彼もまた色欲の悪魔に知り合いがいたためにこの能力を使用可能となっている。ケンの場合はそれに加えて元々目をよく使う悪魔であるため、この能力の相性はかなり良かった。

「……なかなかうまく行ったみたいだな」

 鏡で自分の姿を確認するケン。問題がないことが分かると、次に彼は気絶している本物の樹の手に拘束具をつけ、それを手すりにつなぐ。その後、用意しておいたガムテープで樹の口をふさぐと、そのままその倉庫を出た。



 空を飛び、海の近くまで降りたケンは何気ない顔をして砂浜まで歩き、桜や沙良と合流、そして今に至るという訳である。つまり、今桜と沙良の目の前にいるのは樹の姿をしたケンということになる。

「ところで樹さん、ケンはどうしたんですか?」

「えっ、ケン? ああ、そういえばケンは確かちょっとフラフラしてくるから先に戻っててくれとか何とかって言ってたぜ」

 沙良に聞かれ、焦ったケンはとっさにそんな嘘をつく。

「そう。まったくあいつはいつも自分勝手なんだから」

 桜はそうため息をつく。

「まあまあ、ケンのそういう自由気ままなところは私も嫌いじゃないですし」

「……それもそうね。それじゃ、行きましょうか沙良さん樹君」

「はい! 潮干狩り楽しみですねえ樹さん」

 だが、その沙良の問いに樹に化けたケンは反応しない。

「樹さん?」

 沙良はケンの顔を覗き込む。

「ん? あ、ああ。そ、そうだな」

 ケンは今自分が町村樹であることを思い出し、慌てて返事をした。

「……?」

 沙良は不審な目でケンを見る。

「ちょっと樹君本当に大丈夫? 無理しないで日陰にいてもいいのよ?」

 桜は心配そうに声をかける。

「だ、大丈夫大丈夫。いいから二人とも潮干狩り行こうぜ。早くしないとアサリなくなっちまうぞ」

「うーん、それもそうですね。じゃあ行きましょう桜さん」

 沙良は頭に残った疑念を振り払うかのように桜を誘う。

「……そうしましょうか」

 桜は少しだけ樹の方を不思議そうな目で見て、沙良に同意した。



(さて、どうにか潜り込めたわけだが……)

 ケンは楽しそうに話している二人を見ながらそんなことを考える。

(桜は俺のことどう思ってんだろうな)

 ケンが樹に化けた理由は単純明快で、桜が悪魔見習いであるケンをどう思っているのかを外部から探るためだ。本人同士だとどうしても遠慮してしまうことがあるところを、他人に成りすますことで探ろうとしているのだ。

 もともとケンにはこの計画を行う意志どころか考えすらなかった。が、たまたま海に来た沙良と樹を見て突発的に思いついたのである。

(ま、タツッキーには悪いが、しばらくこのままでいさせてもらうぜ)

 ケンは遅れない程度に距離を取りながらそう決めるのだった。



「……ケンのやつ、何考えてるの」

 一方、その少し離れた場所では潮干狩り客にまぎれて私服姿の一人の悪魔見習いがその動向を監視していた。

「ちょっとアリー、せっかく海に来たんだからもっとあたしを目立たせなさいよ。あんたの能力ならできるでしょ。男どもにあたしの美貌を見せつけてやるのよ。さっきみたいに女が寄ってきたってどうしようもないの。分かる?」

 だが、その視線は一緒に来た契約者の女性によって遮られる。その女性は先ほど沙良と桜に暴言を吐いた女性だった。

「……麻梨乃まりの、ちょっとトイレに行きたい」

 アリーと呼ばれた彼女はそう麻梨乃に言う。先ほど沙良たちがいた時にも彼女は席を離れていたのだ。

「また? 調子でも悪いの? 仕方ないわね。早く戻ってきてよ」

「分かってる」

 彼女は麻梨乃から離れる許可を得る。

(ケンが化けてる男の子、確認するにはちょうどいい機会。急いで行かなきゃ)

 彼女、アリーは急いで海水浴場から出ていく。

「あの子、そんなにトイレに行きたかったのかしら」

 麻梨乃は一人そんな筋違いな感想を述べていた。

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