樹の推理
「えっ? ここ?」
彼女は驚く。その場所とはポテトチップスの袋の中だったからだ。
「ああ。たぶんここだと思う」
「まあここなら確かに沙良さんが隠れる場所としても違和感ないし、私たちが2人を探してる間にもポテチ食べられるから合理的ではあるけど。でも、ここだって言っただけじゃ多分沙良さんもケンも出てこないわよ?」
桜はそんな疑問を投げかける。
「もちろんそうだろうな。だから、俺はある確実な証拠を突きつけてやろうと思う」
そう言った俺はその袋の中を覗き込む。もちろん二人の姿はないが、俺は代わりにいくつかそれを裏付ける証拠となるようなものがあるのを見つけた。
「まず、俺がかくれんぼを始めた時、この袋の中は満タンに近かったはずだ。開けたてだったからな。でも、今はもう半分以上なくなってる」
「確かに袋の中にはもうあんまりポテチは残ってないわね……」
桜は頷く。
「そして次だが、袋の中にやけに小さな食べかすが多く落ちてる。普通に食べたらあいつの口なら一口で食べてるし、そもそもこんなに袋の中に食べかすが落ちてるってのはおかしいよな?」
俺は今日このゲームを始める前に彼女が一口でポテトチップスを食べていたことを思い出したのだ。
「つまり、これは沙良さんの体のサイズが小さくなったから一口じゃ食べられなくなってできた食べかすってこと?」
「ああ。そして最後だが……」
俺は一枚のポテトチップスを中から引っ張り出す。
「このポテトチップス、食べかけだよな。沙良が食べかけの物を残すとは考えにくいことを考えると、これは何か急な事態があったから食べるのをやめざるを得なかったってことになる。例えば隠れている場所に俺たちが急にやってきたから焦ったとかな」
俺はそのポテトチップスを袋の中に戻すと、
「で、合ってるのか答えろよ暴食の悪魔見習いさん」
「……ううー!」
俺のその声に彼女はとうとう消していた姿を現した。
「絶対見つからないと思ったのに!」
彼女はその食べかけもポテトチップスをもぐもぐと食べながら目をうるうるさせる。
「さっきも言ったけど詰めが甘いんだよお前は。これだけヒントになるようなもんがあったらさすがに分かるっての」
「今回はタツッキーの頭脳勝ちってところだな。俺は一応食べるのはやめた方がって忠告はしたんだぜ?」
その後ろから姿を現したケンはそう俺を称賛する。
「まあ、こいつのことはそれなりに分かってたつもりだったからな。ある程度行動パターンも予測できたし、それで分かったようなもんさ」
「それを差し引いても見事な推理だったな。で、そういえば確かサラっちはタツッキーと何か約束してたんじゃなかったっけ?」
「うっ……」
沙良は目をそらす。
「確か、俺の言うことを聞いてくれるとか何とかって言ってたなそういえば」
俺も意地悪そうな目で沙良の方を見る。
「……あーもう分かりました! 何ですか、何を聞けばいいんですか?」
沙良はもう逃れることはできないと判断したのか、そういじけたように叫んだ。
「そうだな、いろいろ考えたんだが、この言うことを聞くっていうのは保留にしておこうと思う。俺が何かお前に頼みたくなったその時までな」
「何をお願いされるのかすごく怖いんですけど」
沙良は恐怖に震える。
「まあ心配するなって。変なことはしないからさ」
俺は意地悪そうに怪しく笑う。
「うわーんこんなはずじゃなかったのに酷いですー!」
沙良はそんな悲鳴を上げるのだった。
一方その頃、樹の住んでいるアパートの向かい側に樹たちを監視している影が2つあった。
「今日も進展なし、か」
「最近ずっとここに来てるけど、あの家がそんなに気になるわけ?」
女性は双眼鏡で沙良たちを覗き込みながらそんな話をする。
「あそこに私の知り合いがいる」
その女性の発言に彼女は答える。
「こんな遠くから観察してるより、知り合いなら話しかけに行けばいいじゃない。それにこんなことしてるくらいなら、もっとあたしにきらびやかな服とか豪華な食事とか出してよ。あなた悪魔なんでしょ?」
彼女はそんな私利私欲の願いをぶつける。
「……見習いとはいえ私は悪魔だけど、私だってやらなきゃいけないことはある」
双眼鏡の先をじっと見つめながら、彼女はぶっきらぼうに答える。
「釣れないのね。まだ顔を世界一美しくする願いだって叶えてもらえてないのよあたし」
「確かに私は色欲の悪魔見習いだから麻梨乃の願いはすぐに叶えられる。でも私は……」
何かを言いかけた彼女はそこで言葉を区切る。
「何?」
「……何でもない。行こう。麻梨乃の願い叶えてあげるから」
彼女はそう告げると、麻梨乃と呼ばれた女性をお姫様抱っこする。
「うふっ、今日はアリーに何してもらおうかしら」
機嫌を直した様子の麻梨乃は自分を抱えているアリーと呼ばれた女性を見つめて満足そうに笑みを浮かべるのだった。




