見落としていた場所
「やっぱりか……」
1時間後、桜と合流した俺はこう呟いていた。捜索前の予想通り、俺と桜の探した場所にはやはり沙良もケンもいなかったのだ。
「そもそもこんなところに沙良さんが来るとは思えないわね」
「それもそうなんだよな」
俺は頷く。沙良はこんなごちゃごちゃ物が置いてあるところには隠れないような気がする。とすると、やはりここにはいないと考えるのが妥当なのかもしれない。
「そもそもまだ探してない場所があるんじゃない?」
「探してない場所ったってもう残ってるのはさっきの見通しのいい机の上しか……」
そこまで言った俺は何か違和感を覚えて言葉を発するのをやめてしまう。
「なあ、あいつ隠れるとは言ったけど、どこに隠れるとは言ってなかったよな?」
「そうね……。樹君が聞いてた時にもそうだったの?」
桜の問いに俺は頷く。
「ということは、そもそもあいつが隠れてる場所が普通じゃない可能性は十分にありうるな……」
残り時間は1時間、彼女たちを見つけるにはもう時間がない。あてずっぽうに片っ端から探している時間がない以上、ある程度推理しながら探していくしかないだろう。
「普通じゃない?」
「ああ。例えばだ。あの二人には透明になることのできる能力があるよな。ということは、見通しのいい場所に普通に隠れている可能性だって否定できないと思うんだ」
「で、でもたかがかくれんぼでそこまでするかしら?」
桜はそう反論してくるが、
「確かにたかがかくれんぼだが、今回はそれだけじゃなくて、あいつが俺に願いをしてもらえるかどうかの大きな賭けに出てるからな。そのくらい重要なゲームなら、沙良がそのくらいのことはやりかねないと思うんだ」
「おーすごいなタツッキー。まさかそこまで読んでくるとは」
隠れていたケンはそう声を上げる。もちろん二人に聞こえないようにだが。悪魔の耳はかなりいいので、結構な距離が離れていても会話くらいを聞き取ることはできるのだ。
「だから言ったじゃないですか。あの樹さんを相手にしようとしたら、こちらもそれなりに準備しないと簡単にやられてしまうんですよ」
沙良は以前私利私欲の願いを叶えたと確信して油断したとき、樹に一杯食わされたことを思い出しながら舌を噛む。
「サラっちも今回は本気なんだな」
「ええ。何としても樹さんをぎゃふんと言わせて願いを叶えて見せます」
死語を交えて自信満々に沙良は答えた。
「でも、だとしたら沙良さんはいったいどこにいるの?」
桜が聞く。
「そこなんだよな。俺もそこまでは分からない。ただ、まだ探してないところであいつが隠れそうな場所が1つだけあるんだ」
「隠れそうな場所? それはどこなの?」
もちろん分からない桜は俺に聞いてくる。
「まあいいからついて来いって」
「おい、こっちにまっすぐ向かってきたぞサラっち」
「そんな馬鹿な!」
そのケンの声に沙良は隠れていた場所からそっと顔を出す。もっとも姿は消しているのでこっそりと顔を出す意味はそんなにないのだが、今ここでそれを言っても始まらない。
「まさか、たったこれだけの情報で樹さんはこの場所が分かったって言うんですか?」
「俺に聞かれても分かんねーよ。とりあえずしばらく様子を見ようぜ」
「……そうですね」
彼女はポテトチップスを食べていた手を止めると、二人の動向を見守ることにした。
「よしっと」
俺は沙良から借りている高さを調節するリモコンを取り出すと、最初に彼らがいたスタート地点のテーブルに向けてボタンを押す。すると、そのテーブルの高さが下がり簡単に上れるようになった。
「変だと思ってたんだ。何で沙良があのタイミングでリモコンの話をしたのか」
「リモコン?」
桜は俺の手に握られたリモコンを見る。
「ああ。最初に探し始めたタイミングで教えてもらったこのリモコンのことだよ。よく考えたら俺たちはあの最初の発言でここには沙良はいないって勝手に思い込んでたんだ」
「そうね……」
確かに下に降りられるとまで言われてしまったら普通は最初に下を探すはずだ。
「それにこの机の上は見通しも良かったし、まさかこんなところにはいないだろうって俺たちも考えた。だから最初からここについてはスルーしていたわけだが……」
桜がテーブルによじ登ったのを確認すると、俺はテーブルの高さを元に戻す。
「でも、あいつらが悪魔の姿を消す能力を使ってかくれんぼしているんだとしたら、もっと別のところでヒントを出してると思うんだ」
「別のところ?」
俺はああ、と呟きながらある方向へとまっすぐ歩きだす。
「例えば沙良が食い意地の張った奴だってこと。そして彼女が暴食の悪魔見習いだってこと。そして俺を出し抜こうと考えているのにどこか詰めの甘いところがあること……」
俺はある場所で立ち止まると、桜の方を向く。
「だから、俺はここに沙良が隠れていると思うんだ」
俺はそう自信満々に桜の方を向いた。




