小さな冒険者たち
「でも、探すって言ってもどこを探すの?」
「そこなんだよなあ」
意気揚々と動き始めた俺と桜だったが、もちろんどこを探すという当てがあるわけでもない。すぐに立ち止まってしまった。すると、部屋から声がする。
「そういえば1つ言い忘れていたことがあったんですが、高いところに上りたい場合や低いところに下りたい場合は、樹さんのポケットの中に忍ばせておいたリモコンを使ってください。高さを変えたい対象に向けてリモコンのボタンを押せば大丈夫です」
ポケットをまさぐってみると、沙良のと違ってボタンの数は少なかったが、確かにリモコンがあった。
「赤い方が高いところに上りたい場合、青い方が低いところに下りたい場合です」
「了解した」
俺はリモコンを握りしめる。
「それと、私たちは一度隠れた場所からは動かないので、安心して探してください」
「はいはい」
俺は沙良にそう適当に答えると、今度は桜に声をかける。
「それじゃあ、とりあえずこの高い台の上から降りてみようか」
「そうね。ここは見通しがいいから隠れられるはずもないでしょうし」
桜も賛成してくれたので、俺はボタンをこたつの方に向けて押す。するとこたつの高さはみるみる低くなり、俺も桜も簡単に台から下りることができた。俺は青いボタンを押してこたつの高さを元に戻すと、
「それじゃあ、まずはこの部屋を重点的に探すか」
「そうしましょう。それじゃあ、まずはあそこからね」
桜と共に頷き合い、今自分たちがいた部屋の床を重点的に探すことにした。
「何ていうかガリバー旅行記みたいねこれ」
「そうだな」
俺は桜の発言にそう返す。ガリバー旅行記というのはガリバーが様々な国を冒険する話であり、その途中で小人の国や巨人の国などの珍しい国にも行ったのである。もっともその末路は悲惨なもので、最後には人間嫌いになり数十頭の馬と共に暮らすようだが。
(俺の最後が悲惨にならないことを祈るしかねーな)
俺は心の中でひそかにため息をつくのだった。
「樹君、沙良さんたちいた?」
「いや、こっちにはいなかった。そっちは?」
「ううん、こっちにもいなかったわ」
それから2時間、部屋の中をくまなく探したが、沙良たちを見つけることはとうとうできなかった。どうやらこの部屋にはいないと考えた方が良さそうだ。
「ということは次は隣のキッチンか……」
キッチンには結構面倒なものが放置してあるので、探すのは大変そうだ。だが、ここで俺はあることを思い出す。
「ルールは簡単です。この2部屋の中から私を見つけ出してください。ちなみに樹さんに探せないところには隠れていませんからご安心を」
ということは、つまり彼女が隠れているのは開けにくい引き出しの中ではないし、高い収納スペースの中でもないということになる。確かに先ほど上れるように高さを調節できるリモコンをもらってはいるものの、そもそもこの体で開けられないような場所に彼女が隠れるとは考えにくい。
「あのさ、ちょっと話があるんだけど」
俺は桜にこのゲームの開始前に沙良に言われたことを伝える。
「なるほど。ということは扉を開いたりする系のところには彼女たちはいないと考える方がいいわけね」
「そういうことになるな」
そう言った桜はキッチンの方を見る。
「でも、キッチンの方にそんな便利に隠れられるスペースなんかあったかしら?」
「だよなあ……」
俺も悩む。俺の家のキッチンは基本的に玄関に繋がっているので、広さはお世辞もあるとは言えない。つまり、探すなら必然的に玄関の下や食器の間ということになる。
「まあ、とりあえず探してみましょうか。沙良さんたちがいそうもなくても、一度全部探しておけば探す場所が減るから時間節約にもなるわ」
「そうするか」
俺は桜の意見に同調すると、手早く指示を出す。桜に食器棚を探させている間、俺は玄関口を探すことで、時間の節約を図るのだ。
一方、沙良とケンが隠れている場所では。
「なあサラっち。これって卑怯なんじゃねーか?」
ケンは隣にいる沙良にそう聞く。
「いいんですよ。このくらいしないと樹さんたちは欺けませんし」
一方の沙良は断固としていた。よほど樹に私利私欲の願いを叶えてほしいようだ。
(そこまで焦ることもないと思うんだが。さすがに透明になる能力まで使ったらタツッキーが俺たちを見つけられるとは思えないしなあ。もっとも、まだあいつらは俺たちのいるところを探しに来てすらいないから、サラっちの考えがあながち間違いともいえないのかもしれないが)
ケンは1人で考える。
(タツッキーはともかく、桜には頑張ってほしいところだな。俺は成り行きで参加したようなもんだし。今回は特にサラっちにもタツッキーにも肩入れする理由はねーからな)
ケンは必死で探している桜と樹の方を見てそんな視線を送る。が、その直後、何度目かの何かを食べる音が聞こえた。
「ところで、いい加減そのポテトチップス食べるのやめたらどうだ? 食べかすもずいぶん落ちてるし」
ケンは呆れたように沙良の方を見る。
「だってしけっちゃうじゃないですか」
沙良はそのケンの発言を意に介さずもぐもぐと食べ続けるのだった。




