沙良からの挑戦状
ある日の休日、
「だから、そろそろ何かお願いを私にしてくださいよ樹さん」
ここで開けたてのポテトチップスを食べながら駄々をこねているのは高梨沙良、暴食の悪魔見習いである。本名はサラ・ファルホークと言うらしい。現在俺、町村樹の家で悪魔になるための修行中だ。
「今特に叶えてほしい願いがねーんだよ」
一方の俺はそう適当に返す。彼女が悪魔になろうと頑張っているのに対し、俺は彼女を悪魔にさせまいと必死に頑張っている。いわば根競べ対決に近い。もっとも俺がそう考えていることを沙良は知らないので、実際俺が一人で頑張っているような状態だ。
「そんなこと言ったってもうここに来てから1月くらい経つんですよ。さすがにそろそろ自宅を劣化しない純金にしたいとか、部屋を札束で埋め尽くしたいとかいう欲望が出てきてもおかしくない頃じゃないですか」
「何で金系限定なんだよ」
俺は突っ込む。彼女は時々ボケたいのか真面目にお願いをしてもらいたいのか分からなくなる時があるのだ。
「ましてこんなにかわいい女の子と1つ屋根の下なんですよ。この子を襲いたい、とかこの子を手籠めにしたい、とかそういう願いはないんですか」
「お前に襲い掛かったら俺の命がねーよ。お前こないだ悪魔の能力を自分で見せびらかしてただろうが。炎吹いたりもしてたろ」
俺はこないだ彼女が自分の能力を全て見せてくれたことを思い出す。仮にこいつと本気の喧嘩をしたら勝てるはずがない。
「……とにかく、何か願いを叶えてくださいよ。私だって暴食の悪魔になりたいんですから」
(こいつ途中で話逸らしやがったな)
「だから、特に叶えてほしいもんがねーんだって」
俺は繰り返す。その言葉に落ち込んだ様子の彼女だったが、突然何かを閃いたように俺の方を向いた。
「……うーん、じゃあこうしましょう。私が無理やりにでも願いを叶える状況を作ります。なので樹さんは困ったら私を頼ってください!」
沙良は少ししか食べていないポテトチップスを置くと、一枚だけ手に持っていたポテトチップスを一口で平らげそう叫ぶ。
「おいそれどういうことだよ」
「じゃあいきますね」
「おいこら俺の話を聞け!」
だが彼女は俺を無視すると、パチンと指を鳴らす。彼女は指鳴らし型の悪魔で、俺の願いを叶える時には指を鳴らすのだ。
「うわ、何だこれ……」
この間願いを叶えてもらった時は特に何も起こらなかったが、今回は俺の視界が急におかしくなった。
「少しの間ですよ。ちょっとだけ意識を失うことにはなりますけどね」
「ふざけ、んな……」
俺は抵抗しようとするが、時既に遅しだった。
「く、そ……」
視界がぐるぐると回る感覚を覚えながら、俺は意識を失った。
「……きて……さい」
何だか真上から声が聞こえるようなそんな気がする。俺は目をうっすらと開ける
「あ、気が付きましたね」
声の主はやはり沙良だった。しかし、彼女の姿はない。
「気が付きましたねじゃねーよお前のせいで俺は……」
とりあえず声の方向に向かって声を発してはみるが、俺はその途中で言葉を失ってしまった。
「お、おい、ここどこだよ」
俺の周りにあるのは俺の等身大よりはるかに大きなリモコンに落ちてきたら潰されそうな大きな制服、さらに一枚食べただけでお腹いっぱいになりそうなポテトチップスなどなど。少なくとも俺の知る場所にこんな場所はないはずだった。だが、
「あれ、ここは樹さんが一番よく知っている場所のはずですよ?」
沙良はそう意地悪く言う。
「沙良、お前俺に何しやがった?」
俺は沙良を睨む。
「まあ、このまま何も分からずここに放置されるのも大変でしょうから、状況説明はしますね」
「状況説明だあ?」
いまだに状況の呑み込めていない俺はその声に聞き返した。
「はい。今から樹さんにしていただくのはゲームです。あなたが元に戻るための」
「元に戻る、ってことはやっぱりお前俺に何かしたんだな?」
「今回はほんの余興ですけどね。別に私がこんなことしなくてもそのうち樹さんから私利私欲の願いを願ってくれるとは思いますから。まあでも負けっぱなしは悔しいので、ここで1つゲームをしようと。いかがですか?」
「くそっ……」
とはいえ、ここでこいつに逆らった場合俺は本当に元には戻れないのかもしれない。
「いいぜ。お前の言うその余興だかゲームだかってやつに乗っかってやろうじゃねーか」
俺は彼女の挑戦を受けることにした。
「そうこなくっちゃ面白くないですからね。それでは、ルールを説明させていただきますからよく聞いていてください」
沙良はそう前置きすると、俺に説明を始めた。




