沙良の食欲の秘密
「そんなの簡単ですよ。私たち以外にもこの人間界に来ている悪魔見習いが何人もいるんです。魔界にある学校は1つじゃありませんからね。それに、複数の大罪を悪魔見習いが兼ねている場合もありますし」
沙良はこともなげにそう答える。
「とは言っても、私たちとは違う国違うエリアに配属されているはずです。同じ国に違う学校から何人も悪魔見習いは来ませんからね。おそらく日本に来ていたとしても多くて2校分くらいでしょう」
「だから俺とサラっちが会ったのはかなり運のいい偶然ってことになるんだろうな」
ケンがそう補足する。
「私とケンは同じ学校から来た仲間のような存在です。同じ罪の名を持つ者同士ならこう穏便にはいきませんけど、違う罪の名を持つなら基本的にはこうやって仲良くしたりもできるんですよ」
「同じ罪の名を持つ者ならそいつらはライバル同士になっちまうからな。あとは大罪の名を得るために切磋琢磨していく毎日さ」
「結構大変なんだな悪魔の世界も」
こうして聞いてると優秀な悪魔を選び出す仕組みは受験に近いものがあるんだな、と俺は勝手に納得していた。
「あ、それじゃあもう1つ聞きたいんだけど、そっちの世界に何か珍しいものとか売ってたりしないの?」
話題が一段落した時、桜が新たな話題を振る。魔界にしかない物とかないの? ということらしい。
「そうですね、何かありましたっけ?」
「うーん、俺もこれと言って思いつくものはねーな」
だが、意外にも二人とも何も思い浮かばない様子だった。
「基本的に置いてあるものはこっちの世界とあんまり変わりませんからね。あるとしたら、向こうにしかいない生き物くらいでしょうか。ガーゴイルとかならまあ食料品売り場にあったと思います」
「そんな簡単にあったと思いますで片付けていいもんじゃねーよそれ。でもそういえばお前こっち来てからたこ焼きだのフランクフルトだの普通の食べ物しか食ってねーな」
俺は沙良の食べていた物を思い出す。人間の食べるものと同じものくらいしか彼女が食べていた物はなかった。
「願いを叶えるのはあくまでノルマであって、空腹は満たされないんですよ。願いを叶えてお腹いっぱいになる悪魔もいるみたいですけど、私は暴食の悪魔見習いなのでたくさん食べないとやっていけないんです。最初の契約内容のままで本当に1年過ごすことになったら多分死んでたでしょうね」
沙良は恨みがましい目で俺を見る。
「それを聞いてたら俺だってもう少し契約内容に気を使ったよ多分。それでも食べる量はお金の都合上セーブしてもらってたけどな」
「じゃあ、もう少し食べても……!」
「それはダメだ。これ以上お前の食費に生活費割けるか」
俺は即座に否定する。実際契約内容は彼女におやつは自己負担してもらうことだったのだが、今となっては既にあってないようなものとなっていたからだ。
「えー、分かりましたよ、じゃあこっちも食べない努力をしてみます。あーあ、お金持ちの家に行きたかったですよまったく」
「俺の家に来たのが運のツキだ。諦めるんだな」
その俺の言葉に落ち込む沙良。その様子を見た桜とケンは顔を見合わせて笑うのだった。
「それじゃ、最後にもう1つ聞きたいことがあるの」
桜はそう言う。どうやら聞きたいことの大方は聞くことができたらしい。
「と言っても、これは沙良さんじゃなくてケンの方にだけど」
「俺かい? 一体何だ?」
名指しされたケンは戸惑いながら桜に聞く。
「あなたの願いを叶える能力がどの程度のものなのか知りたいわ」
「ああー、そういえば桜の願いを叶えたことはまだなかったっけなあ……」
ケンはそれすら忘れていたらしく、そんな反応をする。
「ということは二人とも契約したのか?」
「ええ、おかげさまであの後すぐにね」
桜は答える。どうやら以前よりも関係は良好のようだ。もっとも、そうでもなければ休日にわざわざ俺と沙良を呼ぶことなどなかっただろう。
「それで、俺に能力を使わせるくらいなんだからものすごい願いを叶えてほしいって願いなんだろうな?」
ケンはそう桜に前振りをする。
「そうね、いろいろ考えたんだけど、今の私に叶えてほしい願いは1つね。これ以上に叶えてほしい願いはないわ」
「桜にそこまで言わせるくらいの願いか……」
俺は考える。彼女の望む願いとは一体何なのだろうか。




