沙良の機転
「……何でここにいるんだよ? 俺を探しに行ったはずだろお前ら?」
ケンは呆然と二人を見る。
「桜と合流した後にこれを見てお前を探そうとしたら俺の携帯にメールが入ってたんだよ。沙良のリモコンからな」
俺は携帯をケンに突きつける。そこにはこんなメッセージがあった。
(ケンは私と同じ部屋にいました。私が説得してみるのでこれを見たら戻ってきてください)
「何だよ、みんなお前の掌の上で転がされてたってことかよサラっち」
ケンはどさっと力が抜けたように座り込む。
「メールを送ったのは俺にリモコンを見せたあの時か?」
「はい。リモコンをしまうまでに赤ボタンを押しながらそっと念じておきました」
「やられたぜ。自然な流れだったから全然気付かなかったよ」
そう言ったケンは桜の方を向く。
「ケン……」
「桜、その……」
ケンが何か言おうとしたその時だった。ケンに近づいて行った桜は思いっきりケンの頬に平手打ちを食らわせた。そしてそのままケンに抱き着く。
「バカ! 勝手にいなくなって! どれだけ心配したと思ってんのよ!」
「……心配してくれてたのか?」
泣きながらそう言った桜にケンはそう聞く。
「当たり前じゃない! 2度とこんなことしないでよね!」
「……悪かった。もうこんなことはしない。約束する」
そうケンが答えると、桜はせきを切ったようにわんわんと泣き出した。どうやらよほどケンのことが心配だったのだろう。
(この短い間でどれだけ仲良くなったんだよ、とか言ってましたけど、あなたも人のこと言えないじゃないですかケン。あなたたち2人も私たちに負けないくらいの信頼関係ですよ)
沙良は心の中でそう呟くのだった。
「それじゃあ、今日はいろいろあったけどありがとね二人とも。また何かあったらよろしくお願いするわ」
「ああ、また学校でな」
俺は桜にそう挨拶する。
「ケン、あんまり桜さんに迷惑かけちゃダメですよ」
「分かってるって。それより今度またデートしようぜ!」
「……はあ」
沙良はため息だった。おそらくこの性格の軽さだけは本気で何とかならないものか、とでも思っているのだろう。
「それじゃあね。ほら、行くわよケン」
「おう」
だが、俺は二人の距離が確かに縮まったことを確認できた。二人が手をつないでいたからである。来た時少し距離があったように見えたことからすれば大した進歩だろう。
「あの2人もこれで距離がさらに縮まるといいですね」
「そうだな」
俺と沙良はそう頷き合う。
「それじゃあ、私たちも余った料理でも食べましょうか。ほら早く早く!」
「お前まだ食べるのかよ……」
今度は俺が代わってため息をつく番だった。
「なあ桜」
「何よケン」
ケンは桜に話しかける。
「その、契約のことなんだけど」
「……私とするのは嫌なの?」
「いや、そうじゃないんだけどさ……」
ケンははっきりものを言えず、口ごもっていた。
「私に迷惑がかかるから、なんて言ったら怒るわよ。そんなのあんたを助けた時からずっとなんだから」
「……そうか。悪かったな」
そう言ったケンは空を見上げる。
「今日は満月か」
「そうみたいね。すごくきれいな月」
桜もその月の美しさにうっとりした様子だった。
「なあ、ここで契約しようぜ」
ケンはしばらく月を眺めていたが、そう桜に言う。
「ここで?」
「ああ。なかなかロマンチックだろ?」
「あんたがロマンを語るなんて10年早いのよ。でもそうね、それも悪くないわ」
桜の返事を聞くと、ケンは砂で魔法陣を引き始めた。
「その魔法陣でどうやって契約するの?」
「ああ、桜は何もしなくていいんだ。俺のこの行動をずっと見ててくれればそれでいい」
「ふーん……」
桜はよく分からないままそのケンの行動を見つめる。ケンは魔法陣を引き終わると、その真ん中に立つ。その瞬間、フラッシュのような激しい光が桜とケンを一瞬だけ包んだ。
「ほらよっ、これで契約完了だ」
「こんなんでいいのね」
「本当はもっといろいろあるらしいんだが、悪魔見習いはこれしかできないんだと。まあ、所詮は見習いってことよ」
「位が低いとどこの世界でも苦労するのね」
桜はうんうんと頷く。
「それじゃ、もう遅いし帰ろうぜ」
「そうね」
2人はそう言って歩き出す。
「ねえケン」
「ん?」
今度は桜がケンに話しかける。
「帰り道、私のことちゃんと守ってよね」
「……当たり前だろ。桜は俺の契約者なんだから」
ケンはその言葉の意味を数秒かけて理解すると、当然のようにそう答えるのだった。




