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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
エピローグ 我が家に悪魔がやってくる!
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そして……。

「ね、樹君」

「ん、どうした?」

 残った桜が俺に話しかけてくる。

「樹君は、沙良さんとどんな話をしたの?」

「うーん、特に何か話したってわけでもなかったなあ。いつもと同じような会話をちょっとしただけで。ただ、やっぱりあいつも俺のこと心配してたみたいで泣かれちゃったけどさ」

「そっか……」

 桜は少し考える。

「何かあったのか?」

「いや、あいつと……ケンと話したんだけどね。あいつが最後に言った言葉がちょっと引っかかっててさ」



「じゃあな桜。今まで楽しかったぜ」



「これ、何か引っかからない? まるでこれが最後みたいな感じするでしょ?」

 確かに、考えすぎと言われればそうなのかもしれないが、ちょっと引っかかる言い方ではある。だが、俺もケンがそう言った理由が何となく分かった気がした。

「……たぶんだけど、もしもう会えなくなった時のために、ケンはそう言ったんだと思う。これでもう思い残すことがないように。あいつだって本心じゃもう会えないとは思いたくないだろうしな。でも、いつまで会えなくなるか分からない以上、あいつもあの場ではそういう言葉しか言えなかったんだと思うぜ」

「……やっぱりそうなのかな。私ももうちょっと何か気の利いたこと言えたら良かった」

「いや、きっとケンは桜のそういうところも分かってると思う。だから、もしまた会えたら、その時は今思ってることも全部伝えてやれよ」

 俺はそう言って桜を励ました。



 そして桜の家の近くのバス停に停車するバス。桜は立ち上がった。

「それじゃ、今日はありがと。良かったらまた一緒に遊ぼ?」

「ああ。こっちこそ今日はありがとう。また、な」

「……? うん、またね」

 俺のまた、の言い方がちょっと引っかかったのか一瞬首を傾げた桜だったが、そう言うと彼女もまたバスを降りて行った。

(……長いようで短いあっという間の時間だったな)

 気付けば時間はもう6時。既に日も沈みかかって来た時間だった。

(俺は今日、沙良がいなくてもちゃんと人と関わりを持って楽しく遊ぶことができたんだろうか)

 答えをくれる人はいないし、それを証明する術もない。ただ、俺の中には今までにない充実感があふれていた。これがきっと俺の求めていた答えなのだろう。少なくとも1人でいる時よりもずっと疲れたし、楽しい時間を過ごすことができたと思う。やはりまだ沙良のいない寂しさはあるが、何とか自分1人でも人との関わりは作っていけそうだ。

(ありがとう沙良。お前のおかげで俺はちょっとずつ変われてる。今度お前と会う時は、もっと成長した俺を見せてやるからな)

 俺はそう決意すると、いつの間にか自宅近くについていたバスから降りた。



「ただいまー……」

 当然返事のないはずの家のドアを開ける。が、

「おかえりなさい、樹さん」

ドアを開けるとそこには彼女がいた。

「……さ、ら?」

 壊れたオルゴールのように、俺はそう言葉を発するのがやっとだった。

「はい。ちょっと早いんですけど、帰ってきちゃいました。ただ、これは私じゃないので、そこのところだけご了承ください」

 そう笑顔で返す彼女。

「どうして……?」

「こっちの世界に戻れるめどがついたので、ホログラムメッセージで連絡だけしておこうと思ったんです。おそらく戻るのは1週間後になると思います」

 彼女の言葉に俺は沙良の体に触れようと手を出してみるが、確かに彼女の体を手がすり抜けてしまった。にしてもよくできたホログラムだ。

「じゃあ、翔のことは……」

「ひとまずは解決しました。と言っても、拠点を完全に潰したわけでもないので次いつ向こうがどう出てくるかは未知数なんですけど、とりあえず試験に支障はないだろうという結論になったみたいです。で、1週間の準備期間を経て、試験再開することになりました」

 どうやら翔のことは完全に解決したわけではないみたいだが、また彼女と過ごせる時間が戻って来るという認識でいいらしい。

「……そっか。案外早くて良かったよ」

「私も、もう会えないかと思ってました。正直、あの場で別れを告げた時は、本当にもう会えないことも覚悟しないといけないと思ってましたし」

 沙良によると、俺にあんなことを言ったのは本当にもう会えないかもしれないと思ったから、自分のことも忘れてほしいと思ったのだそうだ。

「でも、樹さんがもう1度、私の契約者になってくれるって、そう言ってくれたから。私はまたあなたに会えるって、そう信じることができたんです。あなたが契約者で本当に良かった。本当は悪魔がこんなに人間に肩入れするのは良くないことなんですけどね」

 そう言った彼女は、俺の頬に顔を寄せてくる。

「ホログラムなので感触はないですけど」

 彼女は俺の頬に口づけを交わしてきた。

「ずっと会えなかった分、ちょっとだけサービスです」

 そう言った彼女の顔は、俺に直接触れたわけでもないのに真っ赤になっていた。

「それじゃ、1週間後、今度は本物の私が会いに来ます。……あ、今度はこういうことはしませんからね?」

「分かってるわ!」

 照れ隠しに俺も叫んでしまう。

「では、また」

 微笑んだ沙良のホログラムはその瞬間に空気に霧散していった。

(……そっか。またあいつと暮らせるんだな)

 彼女もずっと俺に会うことを心待ちにしてくれていたのだ。この数週間のもやもやが自分だけでなく、沙良とも共有できていたということが、俺にとってはこの上ない喜びだった。

(よし、あいつが戻ってきてもいつもと同じように迎えてやろう。そのためにもまずは部屋の片づけとか、夏休みの宿題とか、きちんと終わらせておかないとな)

 また沙良と一緒に過ごす楽しい日々が始まる。それが分かった時、俺のだらけきっていた毎日は今、ようやく前に進みだしていた。

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