はた迷惑な友人
「あっいたいた……。おーい!」
俺はケンを見つけるなりそう声をかけた。
「タツッキー! 悪い負けちまった」
ケンは開口一番にそう謝ってくる。
「それはいいんだ。ところで、麻梨乃と桜がどこにいるか知らないか? あと、ティーナも」
「桜と麻梨乃はともかく、ティーナ……? 何でまた?」
ケンは当然訳も分からずに首を傾げていた。
「聞きたいことがあるんだ。俺の友人のことで」
俺は包み隠さずそうケンに言うのだった。
ケンに頼んでみると、ティーナはすぐに見つかった。元々同じブロックで戦っていた2人の場所はそんなに離れてはいなかったのだ。ケンには桜と麻梨乃を探しておくように言うと、俺は単身ティーナ・フレンディアの前に立った。
「あー、あなたはサラの契約者のー。お久しぶりですー」
相変わらずのんびりした口調でそう俺に話しかけてくるティーナ。
「久しぶり。単刀直入に聞きたいんだけど、片桐さつきって覚えてるか?」
「もちろんー。私を居候させてくれた人だからー。すごくお世話にもなったしー」
きちんと覚えているようだ。であるなら話は早い。
「じゃあ聞きたいんだけど、こっちに戻ってきてからあいつに会ったか?」
すると、ティーナは首を横に振る。
「ううんー、一度も会ってないよー。何でー?」
(やっぱりか……)
どうやら最悪の予想が当たってしまったらしい。
「……ここまで聞いといて話さないのも変な話だよな。分かった、説明するから協力してくれ」
俺は今までの出来事を包み隠さずティーナに説明することにしたのだった。
「……つまり、失楽の悪魔そのものが怪しいからそれを調べたいってことでいいのー?」
ティーナの理解もまた早く、彼女が俺の意図を汲み取るまでにそう時間はかからなかった。
「確かにさつきがこっちに来ててー、何かの事件に巻き込まれて行方不明の可能性があるっていうのならー、私ももちろん協力するけどー」
「おお、ありがとう!」
でもー、とティーナは少し考える。
「まずー、書き置きの文字が本当にさつきのものか見たいんだけどいいー?」
「ああ、それなら……」
俺は服の中からさつきの書き置きを取り出してティーナに見せる。
「……うーん、確かに文字そのものはさつきのもので間違いないかなー。でも、目的が果たせたっていうのがいまいちよく分からないんだけどー」
「そこなんだよな……。それが分からないことにはあいつが何をどうやって目的を果たしたのかがさっぱり分からないんだよ」
「それで事件の可能性を疑ったってわけねー」
納得したティーナはうーん、と少し考え、あー、と何かひらめいたような声を上げる。
「携帯に電話かけてみればいいんじゃないかなー?」
「……そういえばあの後あいつに一度も連絡してなかったな」
言われてみれば悪魔の考察やらバトルロイヤルの対策やらで一度も連絡を取っていなかった。このティーナの提案は目から鱗と言ったところだ。俺はすぐさま彼女にメールを打つ。
「……どうして電話じゃないのー?」
「あいつが許可取るまでは電話はかけてくるなって言うんだよ。どうも情報収集の邪魔になるからってさ。メールならマナーモードで音が出ないようにできるからいいらしい」
「それを律儀に守る辺りはあなたも義理深い性格だねー」
そんなことを話していると、程なくして返事が返ってきた。
(どしたのタツッキー?)
(今電話かけてもいいか?)
それから少ししてまた返事が来た。
(いいけど)
その返事があった直後、俺は急いで彼女の番号にコールをかける。
「もしもし? どうしたのいったい?」
「お前今どこで何やってんだ?」
あれから姿を消して音沙汰のないさつきだったが、連絡は案外あっさりとついた。
「ああ、今? 中間試験を見に来てたところだけど……何で?」
「……じゃあこの近くにいるのか?」
俺は恐る恐る尋ねる。ということはつまり彼女は自由気ままにこの2日間魔界観光をしていただけだというのか。
「うん。ティーナの活躍を見るためにね。負けちゃったみたいだけど」
「ちょっと聞きたいことがあるからいったん合流してくれ」
半分青筋を立てながら俺は彼女にそう言うのだった。
「お前勝手に行動しすぎだろ!」
さつきと合流するや否や、今にも彼女につかみかからんとする俺をティーナが必死に止めていた。
「いやー、だってあの待合室で待たされてた時にさあ、今日バトルロイヤルやるって書いてあったの見つけたんだよね。もしかしたらここに行けば会えるんじゃないかなーってさつきちゃんレーダーがビビっと来たのよ。だから、一昨日と昨日は1人でのんびりしてたわけ」
「何だよそれ! こっちは相当心配してたってのに……」
心配して損した。こういうのを親の心子知らずというのだろうか(ちょっと違うかもしれないが)。
「でも、ティーナにも会えたしあたしとしては万々歳よ。あ、でもこないだ来てた悪魔の人たちが路地裏に入ったっきり戻ってこないのはどうしたのかなーとは思ってるんだけど」
思い出したかのように考え込むさつき。
「どういうことだ!? その情報、詳しく聞かせてくれ!」
「えっ、い、いいけど……」
食い気味の俺に、さつきは若干戸惑いながらも頷くのだった。




