見破られた嘘
「3人目の脱落者? 誰がですか? 傲慢の悪魔見習いさん?」
「なっ……」
水鉄砲を急に向けられたはずの沙良はしかし、なぜか不意打ちが来ることを分かっていたかのように放たれた水球から身を避けていた。その上でラミアに向かって素早く水鉄砲を放ち、命中させる。
「なぜ! なぜ分かったの!?」
水鉄砲を当てられて呆然としたまま、ラミアだったはずの者は叫ぶ。
「それより、まずなぜあなたがラミアさんに化けることができたのかを聞きましょうか。能力としてはおそらく色欲の悪魔見習いの能力をコピーしたのでしょうけど、私とラミアさんが知り合いであることを知りうる余地はなかったはずです」
「……それは言えない。言ったら私がどうなるか分からないもの」
変身を解くと、ラミアに化けていたベルガ・ジュアーヴォはそう言葉を濁す。翡翠色の美しい髪をした彼女本来の姿(と言っても彼女の変身した人間の姿だが)が現れる。
「へえー、そうですか。まあ別にいいですけど、その分だと他にも仲間がいるみたいですね。しかも、私たちに近しいであろう仲間が。大方その悪魔に何か吹き込まれたんでしょう」
「くっ……」
そこまでお見通しか、と舌を噛むベルガ。
「樹さんが伏せていたのはこのことでしょうか。ベルガさんでしたっけ。あなたは確か悪魔としては今回私たちの敵側に回っているはずですね」
「その通りだけど、私としては別に8つ目の大罪が設立されようが関係ないわ。たまたま上がそういう指示だったから協力しただけよ」
「だったら、別に誰に吹き込まれたのかくらい教えてくれても……」
沙良は頬を膨らます。
「それとこれとは話が別。守秘義務は守ってくれって言われてるもの。でもそうね、私としては大罪を母に持つあなたと人脈を作っておくのも悪くないわ。だから、もしあなたがこの大会で優勝することができたら、その時は私もあなたに力を貸す。これで今回は追及をやめてもらえないかしら?」
「……ずいぶんと勝手な人ですね。まあでもいいでしょう。私としてもここで立ち話をしていてやられたのでは間抜けなことこの上ないですからね」
沙良は水鉄砲を下ろす。
「それで、どうして分かったの? 私がラミア・ヴィオレットじゃないって」
「確かにあなたの能力での変身は完璧でした。私も見ただけでは分からなかったです。なので、私はあなたの名前を呼ぶことでその反応を見たんです」
「名前ですって?」
ベルガは首を傾げる。沙良の発言の意味は確かにこの言葉だけでは知ることはできない。
「本物のラミアさんであるなら、名前を呼ばれた時にどもるか、少し間をおいて話す癖があるはずなんです。しかしあなたは私が名前を呼んだ2回ともすぐにどもらずに答えました。1度だけならまだしも、しみついた癖を2度も表面に出さないような器用な真似をラミアさんができているなら苦労はないはずです」
「なるほど、私が彼女のことをよく知らないのが仇となったわけね……」
ベルガは納得する。
「今回このゲームでは私の知り合いはラミアさんしか参加していませんでしたからね。警戒すべきはラミアさんに化けてくる可能性だけだとは踏んでましたが、まさか本当に化けてくるとは思いませんでしたよ」
沙良は膝についた土煙をほろい、ベルガの方を向く。傍には大した量を飛ばしていないにもかかわらず水たまりが2つできていた。
「まあでも、私の作戦としては成功したのかしらね」
ベルガは勝ち誇ったように言う。
「……どういうことですか?」
「私だけが傲慢の悪魔ルシフェル様からあなたを足止めするように言われていたのよ。それは他の悪魔たちを請け負って失楽の悪魔が勝ち進めるようにという配慮だったのだけど」
「!?」
沙良が驚く表情をすると同時に、メルの試合経過を告げる声が響く。
「あーあー、聞こえるかしら。脱落者を発表するわね。憤怒の悪魔見習いラミア・ヴィオレット、嫉妬の悪魔見習いケラド・ワイルゼ、強欲の悪魔見習いレイ・クロックス、傲慢の悪魔見習いベルガ・ジュアーヴォ。以上4名の脱落により、決勝戦に進む悪魔見習いは暴食の悪魔サラ・ファルホークと失楽の悪魔ジョー・マクロイドに決定したから、全員元のフィールドに戻すわね」
「そんな、ラミアさんが……」
沙良は呆然とする。
「ある意味では予定調和だったみたいだけどね。私もラミア・ヴィオレットの脱落が分かったその瞬間にリタイアするように言われてたし。あなたの反応が早すぎたからリタイアするのがちょっと早まっちゃったけど」
「……どういうことですか?」
ベルガのその意味深な言葉に尋ねずにはいられない沙良。
「つまり、あなたは元々決勝戦に進む予定だったのよ。そしてラミアとロリアは全員で素早く消す算段だった。ジョー・マクロイドの強い望みによってね。私もそれ以上のことは知らないから本人に直接聞いてみることね。じゃ、決勝戦期待してるから」
そう言った彼女は元の場所へと転送されていく。
「何がどうなってるのかさっぱり分からないんですけど……」
何か陰謀めいたものが渦巻いているのは確かなようだが、現段階では何も分からない。謎が増えるままに沙良も開会式の場所へと転送されていくのだった。




