沙良たちの進む道
「……とまあ、ここまでが妾の話したかった話じゃな。メルの考えそのものは妾も否定できぬし、しようとも思わんのじゃが、今回のようなやり方は正直賛成できんというのが本音じゃ。聞いた話、ゼノだけでなく他の悪魔も買収したと聞いておるくらいじゃしのう」
「つまり、ミルダさんと他の何人か以外はみんなメルさんに賛成したと、そういうわけですか?」
「うむ。この意見に反対したのは4人じゃ。ゼノとグラン、そしてターガンと妾じゃな。そのうちゼノはこの計画そのものを2度と立てられぬように完膚なきまでに叩きのめす、そう言っておった」
「……そうですか」
ミルダによれば、ゼノがなぜそこまで失楽の悪魔に対して執拗に反対するのか、その理由については分からないそうだ。だが、ゼノだけでなく魔界の変革を望まない悪魔が一定の数いるのも確かなのだという。事実、失楽の悪魔を廃止するとなった時も魔界は大きく混乱を招いたらしい。
「妾としてはそれこそ魔界投票でもしてみればいいと思うのじゃがな」
魔界投票というのは人間界でいう国民投票のようなもので、全悪魔がある案件について一斉に投票するのだという。日本ではまず考えられないことだが、投票率は100%を記録し、投票棄権はまずあり得ないことなのだという。
「今の話も踏まえた上で、どうするかはよく考えてみてほしいのじゃ。明日の試験会場の場所はゼノから預かってきておるからの」
そう言って沙良に試験場所を手渡したミルダは部屋を後にしようとして、何かを思い出したように立ち止まった。
「そういえば、グランから桜とケンの2人も魔界に到着したとの報告を受けておる。アリーとの連絡を取るのは難しいかもしれんが、あの2人なら相談もしやすいのではないかの」
「桜がこっちに……」
そういえば桜と前に話したのは2日前だ。情報交換もしていなかったし、相談するにはいいタイミングかもしれない。
「妾からは以上じゃ。あとはそなたたちに任せる」
そう言ったミルダは部屋を後にした。
「どうします樹さん?」
「……せっかくだしあの2人にも相談してみようぜ。どっちみちアリーのことは話しとかないといけないだろうしな」
俺はそう言うと、桜たち2人に連絡を取ることにした。
「……で、お前ら何やってんだよ」
その1時間後、桜とケンの2人と合流した俺の第一声はこれだった。ケンはサラやガインと違って中間試験はあるはずなのだが、彼がしていたことはのんびり気ままな魔界観光だったのだ。
「いや、それがね……」
桜が事情を説明する。魔界に到着した2人はグランに中間試験と称して課題を出されたのだという。その課題が怠惰の悪魔としてふさわしい行動をしろ、ということだったらしいのだ。
「……これのどこが怠惰の悪魔としての行動にふさわしいんだ?」
「私もよく分かりませんけど」
俺たち2人はそろって首を傾げる。
「私もそう思ってケンに聞いてみたんだけど、そしたらシラベール見てみろって言われてね」
そこでシラベールを見てみた彼女は、ケンの消滅までのゲージが異様に下がっていることを目撃したのだという。
「要は怠けるのが課題だったってことですか?」
「そう言っても過言じゃないんじゃないかしら」
「おいおい魔界の試験の基準がさっぱり分かんねーぞ……」
俺は頭を抱える。第一課題通りのことをする場合、ケンに限っては消滅メーターは上がるはずなのだが、今回に限ってそうではないらしい。とここでそれまで黙っていたケンが口を開いた。
「たぶん、中間試験だからなんだと思うぜ」
「中間試験だから?」
桜は聞き返す。
「ああ。中間試験だから他の悪魔見習いと同じような試験基準になってんだと思う。ってかそうじゃねーと俺たちだけどういう評価基準で消滅するのかさっぱり分からなくなっちまうからな」
「そういうものなんですかね……?」
「俺に聞かれても知るかよ」
沙良がこっちを向いて聞いてきたので、俺はそう冷たく返すのだった。
「ところで、話っていうのはいったい何の話なんだ?」
「ああ、そうだった。実は……」
ケンが話を本筋に戻してくれたので、俺と沙良は2人にこれまでの話を全て伝えることにした。
「おーい」
一方その頃、ラミアと行動していたガインは、アリーと麻梨乃の姿を見つけ声をかけていた。
「……ああ、ガイン。どうしたの?」
「どうしたのって……。君こそ樹君とかサラとは行動してないの?」
「今回は別行動なの」
そう言い捨てるとすたすたと立ち去っていくアリー。呆気にとられたガインだったが、追いかけて慌ててアリーの腕をつかむ。
「待ってくれないか。そんなに冷たくすることは……」
「言い忘れたけど、今回は麻梨乃以外と一緒に行動する気はないから。私のことは中間試験が終わるまでほっといて。今の私は嫉妬の悪魔見習い、アリー・サンタモニカなの」
その腕を無理やり振り払うと、アリーはその場を離れる。麻梨乃はガインに申し訳なさそうに頭を下げると、アリーの後を追いかけて行った。
「……どうもアリーのことについては小耳に挟んだ話の方が正しいようだな」
「これはサラたちと合流した方が良さそうだね」
2人は互いに頷き合うと、黒い翼を互いに広げるのだった。




