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過去の事件①  第8の大罪 失楽

「私に……?」

 沙良は言葉を失う。

「うむ。それとアリーにもじゃ」

「アリーですか?」

 沙良はそのままオウム返しに口に出す。俺も考えてみるが、この2人にというと思い当たるのは1つしかない。そしてそれはちょうど昨日聞いたばかりの話だった。

「そなたたち2人が魔界の差別をなくすために悪魔を目指していることは妾も聞いておるから知っておる。じゃが、その目的のために動いている悪魔は既に存在しておるのじゃ。自分の経験を踏まえて、他の悪魔を同じ目に合わせないようにするためにの」

「どういうことですかお母様? そんな話は一度も……」

「この話をするつもりはなかったからの。じゃが、その張本人が勝手に動き出してしまったのではそう悠長なことも言ってはおられんじゃろう」

 ミルダのこの言葉で俺と沙良は同時にある1つの可能性に思い当たった。

「まさか……」

「分かったとは思うが、妾からも一応言わせてもらおうかの。嫉妬の悪魔レヴィアタンことメル・シャルフィリアは元はヴァニタス、つまり人間だったのじゃ」

 ミルダが持ってきた話、それは俺とサラを大きく驚かせる話だった。



「でも待ってください。それとレヴィアタン様が8つ目の悪魔見習いを創設しようとするのといったいどんな関係があるんですか?」

 ミルダの話を理解したうえで、沙良は尋ねた。確かに、この話と第8の悪魔見習いの創設の話に繋がりがあるようには思えない。

「……実は8つ目の悪魔見習いというのは、妾たちの1つ前の代には存在しておったのじゃ。妾たちが悪魔見習い試験を受ける少し前まではの」

「そうなんですか!?」

 沙良は初めて聞いた、という様子で聞き返す。

「お前も知らなかったのか?」

「魔界の歴史は結構改ざんが多いんです。本来私たちが知るべきことを意図的に隠していることだってありますし。それを全て知ることができるのも、どの情報を次の世代に伝えるか決めるのもまた7つの大罪の仕事なんです」

 平たく言えば教科書の改訂のようなことも行っているということなのだろう。

「そこについては今はどうでもよい。今は8つ目の大罪の話じゃ」

「そうでした。それで、その8つ目というのは?」

「失楽という名前で、ずっと存在しておった」

「失楽……」

 楽しさを失うこと。まさに悪魔が持つにふさわしい名前だ。本来悪魔というのは沙良たちのような悪魔ばかりではなく、俺たちを苦しめたり困らせたりといったものが存在している方がイメージとしては一般的なのだから。

「うむ。じゃが、今はない。ある悪魔がルール違反を起こしたせいでの」

「ルール違反ですか?」

 俺が聞き返す。確かに魔界にはいくつか細かいルールがあり、守れなければそれなりに厳しい処罰を与えられる印象がある。例を挙げれば、以前俺たちと対峙したジョー・マクロイド。この悪魔見習いに関しては人間の悪事を止められずにやむなく協力していただけだったにもかかわらず悪魔見習いの資格を剥奪されている。それに大罪の中でも強欲と憤怒の能力については人間界で使用してはならないと義務付けられているほどだ。

「と言っても、そのルールそのものは妾もあまりいいとは思っていないのじゃがな。そもそもどうしてそんなルールがあるのかとも思う時もあるくらいじゃ」

「いったいどんなルールを破ったんですかその悪魔は?」

 沙良が核心を突く質問をミルダに投げ開ける。

「人間を助けること、じゃ。悪魔は他の世界に居るときのみ、命の危機に瀕した者の寿命を延ばす目的でその者を助けることを禁止されておる。分かりやすく言うなら、他の世界への干渉を過度に嫌っておるといったところじゃな。人間界だけに限った話ではないからの」

「そういえば前にミルダさんが俺に許可を取ったことがあったような……」

 俺は思い出す。以前ミルダが俺を誘拐したとき、あの時も事前に俺の許可が必要だと言っていた。

「うむ、あの時も当てはまるの。もっとも、悪魔見習いの試験中はまさに例外中の例外で、この時だけは唯一悪魔が人間界に降り立つことが許されておるのじゃがな。他の時には面倒な手続きを踏まねばならんのじゃが、悪魔見習い試験のことに関してのみ、魔界の規則は極端に緩くなる。もっとも、人間に干渉するときに許可が必要なことだけは変わらんから、妾も許可は取らせてもらったがの」

「それで、そろそろ教えてもらえませんか? 第8の大罪が消えた詳しい理由を」

 長い前置きにしびれを切らした沙良が母親に質問を投げかける。

「うむ。失楽の悪魔が消えた詳しい理由はの、以前に人間界で起こったある事件に関わってしまったことが原因なのじゃ」

「ある事件ですか?」

 俺の質問にミルダは首を縦に振った。

「その事件の名前は1億円強盗殺人事件。被疑者不明のまま、一人の少女が亡くなったとされる事件じゃ」

「それなら聞いたことがあります。確かあまりに不自然な点が多く、迷宮入りしてしまった事件だったとか。殺されたはずの少女も、1億円を盗んだ被疑者も、そして1億円もすべてが消えてしまった謎に包まれた事件ですよね」

 俺の記憶が正しければその事件が起きたのは今から100年ほど前の日本だったはずだが、それは魔界と人間界の時間はずれているからなのだろう。俺はそう納得したが、この後そんなことを問題にしている場合ではないほどの爆弾発言がミルダの口から投下されることになる。

「それはそうじゃ。その時1億円も被疑者も少女も魔界に連れ去られたのじゃからな」

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