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再会! ミルダ・ファルホーク

 次の日の朝、俺こと町村樹が高梨沙良ことサラ・ファルホークの実家で目を覚ましたのは明け方早くのことだった。

(久しぶりに1人で寝た気がするな)

 沙良はあの後自分の部屋で寝ることになったため、実に数か月ぶりに孤独な睡眠を取ることになったのだ。しかし、静かに眠れたと思うその一方で、その1人の環境を寂しく感じてしまう自分もいて、目覚めとしてはなかなかに微妙な心境だった。

「樹さん、起きてますか? 食事を運んできました」

 俺の目覚めに合わせたのかそれとも見張っていたのかは知らないが、ドアの外からサラの声がした。

「おう、起きてるぞ」

 俺がそう返事をすると、沙良はドアを開けて中に入って来た。

「どうぞ。人間界にはない食べ物なんですが、これ1つで一食分の栄養が取れる木の実を持ってきました。ギゲルグの実っていうものです」

「ふーん……」

 俺は何の疑問もなしにその木の実を一口口にする。その瞬間、口の中に苦みと雑味と酸味が加わったようなひどい風味が広がった。

「ゲホッゲホッ! おい何だよこれ!」

「ふふふ、引っかかりましたね。この木の実は病気の時に食べるもので、栄養価は高いんですが、味はそれはそれは酷いものなんですよ。こっちに来たら絶対1回は食べさせてあげようと思ってたんです」

「お前なあ……」

 俺は沙良を睨む。だが彼女は俺の怒りとは裏腹に俺の隣に座ると、体を俺の方に預けてきた。

「いいじゃないですか。たまにはこういうのも。最近はそれじゃなくても結構いろんなことがあって大変でしたし」

 確かに成島翔の1件といい、暴食の悪魔見習い再試験のことといい、今回のダブル中間試験のことといい、俺たちにはやたらと事件が起きすぎていたような気もする。こういうのんびりした時間も必要なのかもしれない。だが、

「それとこれとは話が別だろ」

俺はこつん、と彼女の頭を小突いた。だが、彼女の軽口のおかげで先ほどまで感じていた心細さのようなものはすっかり消えていた。

「ふふ、言いくるめられませんでしたね。それでこそ樹さんです」

「お前、俺を褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちなんだよ」

「内緒です。さて、と。それじゃついてきて下さい。今度こそ本当の朝食にご案内します」

 沙良はそう言うと立ち上がって俺の手を引く。

「お、おい待てよ!」

 俺は体勢を整えると、そのまま寝室を後にした。



「よう小僧」

 沙良に案内された部屋に入ると、ブラードが天井に足を付けたままの姿で俺に話しかけてきた。

「お父様ー、それ私の前でやるの禁止だって言ったじゃないですかー!」

 沙良は頬を膨らませながらブラードに抗議した。

「お前は純粋なヴァンパイアじゃねーからできないって子供の頃からずっと言ってんじゃねーか。悪魔の翼でそれっぽいことはできんだから我慢しろ」

「むー……」

 沙良はしぶしぶ引き下がった。

「んで、今日これからどうすんだ?」

「……お母様のところに行こうかと考えてます」

 不機嫌そうに沙良は答える。

「ミルダのところか。今日なら色欲の悪魔の仕事も一段落ついてるだろうし、いいかもしれねーな」

「その必要はない」

 ブラードが頷いたその瞬間だった。部屋のドアが勢いよく開き、目の前によく知る顔が現れた。

「お母様!」

「久しぶりじゃねーか。戻ってきて大丈夫だったのか?」

 各々嬉しそうな顔を見せるファルホーク一家。戻ってきたのはミルダ・ファルホーク。沙良の母親にして色欲の悪魔を務める俺たちの心強い味方だ。

「心配ない。今日は公務もないからの。妾も一日だけ休みを取らせてもらったのじゃ」

「そうか。それじゃ家でゆっくりするのか?」

 だが、ブラードの問いにミルダは首を横に振った。

「いや、明日のことでちとこの2人に話がある。休みを取ったのは半分そのためでもあるのじゃ」

「……そうか」

 ブラードは残念そうな反応をする。

「すまんな。じゃが、この2人にする話はそんなに長くはかからん。終わった後は久しぶりに2人でのんびりするのもいいじゃろう。だから、少しだけ待っててもらえないかの」

「……まあ、お前が休みを取るくらいのことだ。優先したいことがあるんだろうしそっちを片付ける方がいいだろ。俺とのんびりするのはそれからでもいいさ」

 ブラードはそう言うとその場から姿を消す。

「……まったく、あやつは素直にものが言えんのか。まあ、妾の選んだ伴侶じゃし、あまり強くも言えぬな」

 ミルダはそんな独り言を言うと、俺の方を向いた。

「さて、久しぶりじゃな樹。そなたと会うのは向こうの時間で見ると1月ぶりくらいかの」

「そうですね。以前にお会いした時はまさかあんなことになってしまうとは思ってませんでしたけど」

 俺とミルダとの出会いは沙良を成長させるためのゲームがきっかけだった。だが、結果的にそのゲームによって成島翔が引き起こそうとしていた事件に俺たちは巻き込まれてしまったのだ。

「うむ。もっとも、今回妾が話そうとしていることもあまり良い話ではないのじゃがな。そなたは明日の中間試験が8つ目の悪魔見習い創設に絡む件については知っておるかの?」

「はい。ぼんやりとですけど、その話はゼノさんから聞きました。メルさんって悪魔が関係しているって話も」

「そうか。なら話は早い。妾がしようと思っていたのはそのメルのことについてなのじゃ」

「そうでしたか。ですが、俺と沙良はその話は聞かずにゼノさんの案に乗ることにしたんですけど……」

 俺は沙良の方を見る。彼女も頷いた。だが、ミルダは首を横に振った。

「……いや、この話はそなたたちには聞いておいてほしいのじゃ。メルがどういった経緯で今嫉妬の悪魔の地位にいるのか、特にサラにはの」

 ミルダは自分の娘を名指しで指名したのだった。 

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