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不快な歓迎

「……まあこの際片桐は無事なんだろうしほっとくとして、これからどうするよ?」

 暴食の悪魔ゼノ・ファミューの元を離れた俺、町村樹と高梨沙良は今後の行動について話し合っていた。残っている空き時間はあと1日、何をするのかは慎重に話し合わなければならないという2人の意見の一致によってできた時間である。

「そうですね。今日はもう休むとしても、明日どうするかが問題です。今からお母様のところに向かうとしても、明日何するかはよく考えておかないと」

 沙良はすっかり考え込んでしまっていた。

「とりあえずミルダさんのところに行ってから考えるか?」

「そうですね。ここで立ちっぱなしでいるよりはその方がいい案も出るかもしれません」

 意見が一致したことで、俺たちはまず沙良の母親、ミルダ・ファルホークの元へ向かうことにしたのだった。



「……そういやお前の家ってあの治安の悪そうな場所のどこにあるんだ?」

 建て物の俺は先ほどのネオン街を思い出しながら沙良にそう聞く。お世辞にも若い女性が一人で歩くには危険すぎる場所だったからだ。

「ああ、そういえば説明してませんでしたっけ。私の家は普通に歩いているだけでは辿り着けない場所なので、別にあの場所の治安が悪かろうが良かろうがあんまり関係はないんですよ。単にあそこから向かうのが一番早いってだけで」

「……?」

 俺が彼女の言葉の意味を理解するのはそれから数分後、翼を広げた彼女に空中に連れ去られた後のことだった。



「着きましたよ……って樹さん?」

 いつものように吐き気に襲われている俺に沙良は首をかしげながら声をかける。

「本当に弱いんですね乗り物」

「いいから早くこの吐き気を何とかしてくれ」

 俺は右手で口を押えながら沙良に懇願する。

「はいはい。仕方ないですねー坊ちゃんは」

 子供のわがままを聞く執事のような口調で彼女は能力を使用した。

「誰が坊ちゃんだ」

 吐き気が収まったので彼女の家を見ると、悪魔の家というよりはちょっとおしゃれな洋風の家だった。どちらかと言うと悪魔というより吸血鬼が住んでいそうな家である。

「いいじゃないですかこういうノリも」

「片桐じゃあるまいしやめてくれ」

 するとその声が聞こえてきたのだろう、中からドアを開ける音がした。

「……うるせえなあ、誰だ?」

 一段と渋い声で文句を言いながら出てくる悪魔。姿形は悪魔だが、出てきた悪魔のそれは休日の父親そのものに見えた。その姿を見た沙良の表情が途端に明るくなる。

「お父様!」

「……サラか!? お前人間界での試験はどうした?」

「今日帰ってくる日だったんですよー!」

「おおー、そうかそうか! 頑張ってるみてえで何よりだ」

 ひとしきり再会を喜んだ沙良の父親は、俺の方を見て露骨に嫌そうな顔をする。

「……んで、そこの坊主は何だ?」

「私の契約者の町村樹さんです」

「……そうかい」

 沙良の端的な紹介を受けた父親は、俺の方にずいっと顔を近づける。

「1つ言っとくが、サラはうちの子だからな。てめーみてーなぺーぺーのガキには絶対に渡しはしねーから、よく覚えとけ」

 そう言って沙良の方をすぐに向く沙良の父親。

「さてサラ、当然お前は家に泊まってくんだろ?」

「はい、それでこの樹さんも一緒に……」

 言いかけた沙良の言葉が途中で止まる。父親の鋭い眼光が彼女にそれ以上の発言を許さなかったのである。

「ダメだ。何で他人をうちに泊めなきゃなんねーんだ。アリーちゃんならともかく、他の奴を泊めてやる義理なんかねーよ。まして人間ならなおさらだ。例えお前の契約者だとしてもな。第一今の状態じゃその資格があるとも思えねー」

 俺は返す言葉が見つからず黙ってしまう。沙良の父親の発言は明らかにおかしなところだらけなのだが、俺が何かを発言する権利すらないように思えた。彼の言い分がまるで人間そのものを嫌っているように見えたからだ。

「それじゃ樹さんが野宿になっちゃうじゃないですか!」

「だろうな。それでこいつがのたれ死んだとしても、俺の知ったこっちゃねー。サラはうちの子だから当然寝床を用意する必要はあるが、契約者のお前は家の前なり何なり好きなところで寝ればいい」

 食い下がる沙良だったが、父親もそれ以上議論の展開はしたくないようだった。少し動きを止めた沙良は数秒後、

「……お父様、お・ね・が・い・です」

これ以上ないほど目をウルウルさせながら、父親に懇願した。

(実の父親にするポーズじゃねーよなそれ)

 俺は心の中でそんなんで言うこと聞く父親がいるかよ、と思いながら沙良の父親の方を向くと、

「……」

彼は無言で考えていた。

(おいおいおいおいどういうことだよ!)

(お父様は私のこの言葉に弱いんです)

(!? 唐突に俺の思考に割り込んでくんな!)

 突然沙良が俺に語り掛けてきたので俺も無言のまま彼女に答える。

(いえいえテレパシーもたまには使っておかないと)

(テレパシーなんか使えたのかお前?)

 確かにテレパシーそのものは能力として使えるという話だけは聞いていたが、実際使われてみるとなかなか不思議なものだ。

(普段はリモコンがあるので使わないんですけどね。まあ今回はお父様の目もありますし、ここだけなので気にしないでください)

(……まあいいけど)

「……仕方ねえ、実の娘の頼みだ。少し考えてやるか」

 沙良とテレパシーしているうちに、沙良の父親は1つの結論を出したようだった。

「小僧、名前は樹っつったな。今から俺と1つ賭けをしようじゃねーか。その賭けに勝ったらお前の今日の寝床はこのファルホーク家、負けたら2度とこの敷居は跨がせねー。どうだ、やる気はあるか?」

「はい、もちろんです!」

 俺は考える間もなく即答していた。ここで迷っていてはこの先に支障が出る。

「いい返事だ。んじゃ、説明してやる」

 父親は俺の方を一瞥すると、何かの準備を始めるのだった。

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