思わぬ登場
「さて、それじゃ、この道を閉じてベルゼブブ様に会いに行くとしましょうか」
芝居がかった仕草をやめた沙良は、そう言うと人間界に続く道を閉じようとした。だが、何度かそれを試みた沙良は眉をひそめる。
「……あれ?」
「何だよどうしたんだ?」
「いえ、道が閉じなくて」
沙良は困ったように何度も黄色のボタンを押すが、まるで反応がなかった。
「まさか、また壊れたんですかね?」
「いや、お前のそのリモコンそんなにポンコツじゃねーだろ?」
「そのはずなんですけど……」
困ったように何度もボタンを押した沙良は道を閉ざすことを諦め、ボタンから手を離してリモコンを握りしめた。
「なあ、道が閉じない条件みたいなのってないのか?」
俺はダメ元で聞いてみる。
「道を閉じるためには開いた道に誰もいないことが条件ですけど……。まさか誰かが道を通ってきてるっていうんですか?」
「いや、それは俺も知らねーけど。確認してくる価値はあるんじゃねーか?」
「そうですね……。その可能性は相当低いとは思いますけど、一応見てきますか」
沙良は仕方ない、といった様子で先ほど通ってきた道の中へと引き返していった。
「樹さーん!」
数分後、道から戻ってきた沙良はそんな大声を上げながら戻ってきた。
「何だどうしたんだよ理由が分かったのか?」
「はい、出てきてください」
そう沙良に言われて道から出てきたのは俺のよく知る人物だった。
「……片桐!?」
その名は片桐さつき。瑛鈴高校では別名ゴシップキラーとも呼ばれている女子だ。
「来ちゃった♪」
「いやそんな彼女面されても」
「わー冷たーいタツッキー」
「棒読みすんな。ってかどうやってこの道に入ってきたんだよ?」
いつものように軽いやり取りを繰り返した後、俺はそう聞く。
「ああ、ちょっとタツッキーの家の鍵をガチャガチャっとね」
鍵を開ける動作をする彼女。
「犯罪じゃねーか!」
「いやー、開けるのには苦労したわあ」
「何でそんなにやりきった顔してんだよ」
俺は頭に手をやった。
「つーか鍵はかけてきたんだろうな?」
「……どうだっけ?」
とぼけた表情で俺の方を見るさつき。
「おい沙良急いで見てきてくれ!」
俺は悪魔の彼女に慌てて様子を見てくるように頼むのだった。
「鍵は空いてましたけど、誰も入ってませんでしたよ」
「おいやっぱり忘れてんじゃねーか!」
さつきに向かってものすごい剣幕で怒る俺。
「てへぺろ♪」
「お前それで何でも許してもらえるほど世の中甘くは……」
俺がさつきに1発攻撃しようとするのを沙良が必死に押さえる。
「落ち着いてください樹さん! 何もなかったですし、きちんと鍵はかけてきたので、ここはそれに免じて不問にしましょう、ねっ?」
かつてないほど必死になって俺を止める沙良を見て、俺は仕方なくその手を引っ込める。
「……今回だけは許してやるか。海より深く山より高い俺の心に感謝しろよな」
「どこの北条政子だか知らないけどありがと! でも、良かったわねー何もなくて」
「お前のせいだよ無駄な心配することになったの!」
他人事のように答える彼女に対し、俺は今出せる最大限の声をさつきにぶつけた。
「……で、それはともかくどうしてさつきさんはこの穴を通って来たんですか?」
沙良は核心をつく質問をさつきにぶつける。
「そういえばそうだな。何で俺の家の鍵をこじ開けてまでこの穴を通ってきたんだ?」
すると彼女は少し考え、
「ここは素直に話しておこうかな。理由は2つよ。1つはね、こんな面白そうな場所に私が来ないわけがない!ってことね!」
『はた迷惑にも程があるわ(あります)!』
俺と沙良は声を揃えて突っ込みを入れた。
「まあまあ落ち着きなよ2人とも」
「何で俺たちがなだめられてるんだよ。で、もう1つは?」
すると彼女は普段は見せないようなしおらしい表情を見せ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……もう1つはね、ティーナに会うチャンスがあるなら会いたいなって、そう思ったのよ。短い間だったけど、やっぱりずっと一緒にいたから、結構いなくなった後寂しくて」
「片桐……」
俺はさつきのことを少しだけ見直した。彼女もやはりティーナのことをずっと気にしていたのだろう。いいやつじゃないか、と思った俺だったが、その感情は次のさつきの言葉で一瞬にして消し飛ぶこととなる。
「だから、ここではいつも以上に大暴れするんだからね!」
「ふざけんなやっぱり帰れ!」
ぎゃあぎゃあとわめく俺たちに、沙良は見えないところで1人ため息をついていた。
「はあ、これは今回いつも以上に面倒なことになりそうですね……」
その頃、魔界のとある場所では。
「まさか私たちがもう一度悪魔見習いになることができるとはな」
「こんなに早くサラたちにリベンジできるなんてねー」
2匹の元悪魔見習いがメルによって新たな力を与えられていた。
「しかし、これ以上私たちにぴったりの能力はあるまい」
「そうねー。1度試験から脱落してる私たちだからこそ、この能力は使いこなせると思うのー」
そんな興奮気味の2匹を見て、メルはこう言った。
「あのねえ、はしゃぐのはいいけど、資格のないあんたらをわざわざゼノの計らいで悪魔見習いとして復帰させてあげたんだからね。あたしの考えた失楽の能力、しっかりと活用してもらうわよ」
「もちろんだ」
「任せてー」
2匹はやる気十分といった様子で頷くのだった。




