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中間試験の概要

「とうとう来たのか」

 歩きながら俺は感慨深そうに頷く。何の音沙汰もないから心配していたが、魔界で何かあったというわけでもなさそうだ。しかしそう思っていた俺の予想は次の沙良の言葉で綺麗に打ち砕かれることとなる。

「はい。ただ、試験内容が例年と違うらしいんですよ」

「違う?」

 俺は聞き返す。

「はい。例年であれば、暴食の悪魔見習いは暴食の悪魔の元のみで試験を行うんですけど、今年はその試験に加えて7つの大罪見習い同士がぶつかり合うトーナメント戦みたいなのがあるらしいんです」

「トーナメント戦? 何でまた?」

 またおかしな仕組みだ。普通に考えれば自分のところだけで試験を済ませればいいだけの話である。なぜすべての悪魔を集めてまでもう一度試験をやるというのだろう。

「何でも今年に限って特別ゲストがいるみたいですよ。それと、選ばれる悪魔見習いは8匹ずつの16匹だそうで。どうやら2つのトーナメントで対戦するみたいです。暴食の場合は私とガインさんの2人ですでに確定しているので、他のところからどの悪魔が来るかっていうのが大きなカギになると思います」

「ふーん……」

 俺は歩きながら考える。

「内容はまだ分かんねーんだな」

「まあ、教えたら試験になりませんからね」

 沙良は俺にそう言うが、半分自分を慰めながら言っているようにも感じられた。だが、次の沙良の言葉で俺が考えていた言葉はすべて消し飛んでしまった。

「で、試験開始の日程なんですけど、今日の夜からみたいです」

「……はあ?」



「いやいやいやいや待て待て待て待て」 

「そんなに何度も言わなくても時間は待ってくれませんし、私も半信半疑な状態なのでそれ以上聞かれても答えられませんよ」

 沙良は冷たかった。

「そんなことは分かってるよ! どういうことだよ試験開始が今日の夜って! 夏休みの宿題すら手を付けずにお前の試験についてけってのか?」

「それはもう諦めてくださいよ。そのくらいなら最悪魔界でもできますし」

「それどころか夏休みって言ったらこうもっと何か楽しい遊びとかそんなんがあるだろ!」

「すべては試験が終わってからです」

 あくまで淡々と事務的に伝える沙良。会ったときですらここまで冷たい対応をされたことはなかったはずだ。つまり、これがもう逃れようのない運命であるということを彼女自身悟っているからということなのだろう。

「……なら、やることは1つだな」

「そうです。さっさと試験をクリアして、夏休みをたっぷり楽しむんです」

 俺の言葉に沙良の目が輝いた。

「……あの、燃えてるところ悪いんだけどちょっといい?」

 俺たちの様子にずっと置いてけぼりにされていた桜がおずおずと切り出した。

「あ、すみません桜さんのことを置き去りにしてしまいました。何でしょうか?」

「あの、私たちも同じ今日の夜から試験が始まるってことでいいの?」

「怠惰の日程についてはよく分かりませんけど、たぶんケンの方も私たちとそんなに日程的には変わらないはずですよ。ケンが来てないところを見ると、まだそちらには連絡そのものが来ていないかあるいは……」

「来ているのに連絡をさぼってだらだらしてるか、ね」

 桜は答えを悟り、ため息をついた。

「まあいいわ、私の方も家に帰ったら聞いてみる。日程が分かったら樹君の方に連絡を入れるわね」

「おう、頼んだ」

「タツッキー、さくー!」

 ちょうど相談が終わった頃、後ろからそんな声がした。この声が誰か、というのは声もそうだが、名前の呼び方で何となく分かる。振り返ってみると、どうやら俺の予想通りの人物だった。

「何だよ片桐……あれ、その子は?」

 違ったのは、さつきの他に見慣れない顔があったことだ。

「ああ、この子は間宮夏穂まみやかほ。私の昔からの友達よ。たまたま高校が一緒だってことが分かってからよく一緒に帰ってるの」

「間宮です。こんにちは」

 さつきの自己紹介に夏穂と呼ばれた女の子は上品にお辞儀をする。

「……片桐の知り合いとは思えないくらいの上品さだな」

「ちょっとそれどういう意味よ」

「っていうか、確か間宮夏穂さんって隣のクラスの学級委員長じゃなかったっけ?」

「……そういえば」

 よくよく思い出してみると、学年集会で何かの手伝いをしているのを見たことがあるような気がする。

「さつきの人脈ってどうなってるのホントに」

「そこは企業秘密ってことで。ところで、このメンツってことはあれ関係の話?」

「そうだな」

 さつきは悪魔見習いの事情を知ってしまっているので、下手に隠し立てしても仕方ないだろう。これだけで話が通じるのはありがたいと言えばありがたい。

「そっか。じゃ、今日はさっさと夏穂と帰るね。行こっか夏穂」

「うん。それじゃ、皆さんまた」

 軽く微笑んだ夏穂は、優雅な足取りでその場を後にした。

「……住む世界が違うっていうのはああいう人のことを言うんでしょうね」

「物理的な意味で違う世界に住んでるお前が言っても説得力ねーよ」

 俺は軽く突っ込みを入れるのだった。

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