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明日から夏休み

 月日が流れるのは本当に早いもので、俺、町村樹の契約悪魔の高梨沙良ことサラ・ファルホークの暴食の悪魔見習い再試験からはや2週間が過ぎ、俺の通う瑛鈴高校では夏休み前最後の登校日を迎えていた。

「……えー、であるからして」

 今は終業式の最中で、校長のありがたいお話とは名ばかりの自己満足な演説を聞いている最中だ。俺は半分それを聞き流しながら、大あくびでその話を耳に入れていた。

「つまり、何が言いたいかというとですね……」

 もっとも、うちの校長の話は生徒だけでなく教師陣からも不評だ。論点がずれながらさらに話を展開していくこともざらで、酷い時は生徒が2時間くらい立たされたこともあるらしい。もっともこの話は同じクラスの噂好き、片桐さつきから聞いた話なので果たしてどこまで信じていいのか疑問なところではあるのだが。

「ねえ、樹君」

「ん?」

 小声で隣から声をかけてきたのは樋口桜。彼女は俺と同じく悪魔見習いであるケン・ゾークラスの契約者であり、俺が秘密を共有している数少ない人物である。

「魔界の試験のこと、何か聞いてる?」

 彼女が俺に聞きたいのはどうやら中間試験のことらしい。何でもこちらの世界に来ている悪魔たちが1度魔界に帰り、どれだけ成長したのかを示す試験のようなものが存在するようで、俺や桜はそれぞれの契約悪魔についていき、魔界に招待されることになるのだという。

「いや、俺のところにはまだ。桜のところは?」

「私のところもまだなの。樹君のほうになら来てるかと思ったんだけど、そうでもないみたいね」

「確かにそろそろ何かしら連絡が来てても良さそうなもんだけどな」

 実際あの後悪魔たちの方から俺たちには何のアクションもない。暴食の悪魔ファミュー・ゼノから新たなプレゼントもあるという話もあったが、それについても何の連絡もなかった。

(さすがに魔界で何かが起きたとは考えたくねーんだけど)

 ここまで何の反応もないと何があったのか気になるのは世の常人の常というものだ。

「こら、そこ無駄口叩かないの。確かに長くて何の中身のない話に聞こえると思うけど、その中にも1つくらいはあなたたちの役に立つことが何かあるはずよ」

 俺と桜が話しているのに気付き、俺たちの担任が俺と桜を注意しに来たらしい。

「先生、校長先生の話って長くないですか? 前にさつきから熱中症で全校生徒の1割が倒れたって聞いたんですけど」

「またあの子は変な噂を広めて……」

 担任はため息をつくが、その気持ちは分からなくもない。正直俺だってさつきのような女子がクラスにいたら毎日頭が痛くなるのが目に見えたからである。

「さすがにそれは行き過ぎた噂よ。ただ、実際こういう夏場だと熱中症で倒れる生徒がいることは確かね」

「やっぱりそうなんですね」

 桜は頷く。

「校長もその辺りを考えて話してくれるといいんだけど、何せあの年だからどうしても話が長くなっちゃうのよね。仕方ないと思って私たちもある程度割り切ってはいるわ」

 担任がため息をついているところを見ると、教師陣が少なからず校長の話に不満を持っていることもまた事実のようだった。



「はい。それじゃ、ホームルームを始めるからね。あんたたちも早く帰れた方がいいだろうから」

 教室に戻ってきた俺たちは、担任のその声ですぐに席に着いた。こういう生徒に理解のあるところはうちの担任のいいところなのだろうな、とは思う。担任は事務作業のように手早く生徒全員に成績表を渡すと、そのまま話し始めた。

「ま、そんなに話すこともないし、私からは2つだけ。1つは高校生になって最初の夏休み、あんまり遊びで浮かれすぎないこと。もう1つは、学生らしく楽しい夏休みを送ること。2つの両立は難しいと思うけど、こうやっていろいろ言われるのも学生の間だけだから。後悔しないような夏休みを過ごしてね。ただし、あんまり羽目を外しすぎないように」

 担任はそう言うと、全員に立ち上がるように促した。

「それじゃ、また新学期に元気に会いましょう。さようなら」

『さようなら!』

 こうして俺の1学期は終わりを迎えたのだった。



「つーか、こうしてみると成績は微妙なもんだな……」

 帰り道に改めて自分の成績を見返してみると、主要教科は3を超えているものの、家庭科などの実技教科はあまり高いとは言えなかった。

「普通そんなもんだと思うけどなあ」

 そう言った桜の成績を見せてもらうと、体育以外はほぼ4か5の成績だった。体育だけが2なのは運動が苦手だからと彼女自身言っていたのでたぶんそのせいだろう。

「お前が言うと嫌味にしか聞こえねーんだよ」

 そんな軽口を言いながら歩いていると、

「樹さーん!」

上から俺の名前を呼ぶ声がする。空から俺の名前をさん付けで呼ぶ知り合いは俺には1人しかいなかった。

「沙良か。ちゃんと家の鍵はかけてきたんだろうな?」

「はい。それは大丈夫です。あ、桜さんもいらっしゃったんですねこんにちは」

「沙良さんこんにちは」

 桜は笑顔で挨拶する。 

「……ってそれより、大変なんです! とうとう来ました!」

 興奮気味に俺に何かを伝えようとする沙良。

「来たって何がだ?」

「中間試験のお知らせです」

 沙良はきっぱりとこう言い切ったのだった。

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