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体操服到着

「……どうしましょう」

 高校の中に入った沙良だったが、今はおそらく授業中、勝手な行動は許されないだろう。彼女としてはとっとと体操服を届けてここから立ち去りたいところなのだが。

「とりあえずここはメール機能でも使っておきましょうか」

 彼女はリモコンを取り出すと緑のボタンを押す。すると彼女のリモコンが携帯電話の機能へと変化した。

(……樹さん、高校に着きました。どうしたらいいですか?)

 彼女は赤のボタンを押しながらそう念じる。これでメール機能を使用できるのだ。ちなみに電話をかけたいときは青のボタンを念じながらかけたい相手の顔を思い浮かべればいい。黄色は写真機能、緑はリモコンを元の状態に戻すのに使用する。

「これでよしっと」

 沙良はそう呟く。すると程なくしてリモコンがバイブレーターのように振動する。メールを受信した合図だ。

「えらく速いですね」

 沙良は赤のボタンを押しながら受信、と念じる。すると、メールの内容が特殊な電波となって沙良の頭の中に入ってくる。これによりメールの本文を解読し、理解することができるのだ。

(分かった、今から教室を出る。そのまま校門のところにいてくれ)

(了解です。待ってますね)

 彼女はそう念じてメールを送信した。



 沙良からメールが来て数分後、俺はトイレに行くという口実で教室を抜け出すと、待っていた沙良から体操服を受け取った。

「いやー、助かったよ」

「いえいえ。でも、どうせだったらこういう時にこそ私の能力を頼ってくれれば良かったんですけど」

 沙良はふてくされる。どうも俺が彼女の試験を達成するためにまったく協力してくれないのを言っているようだ。

「いいだろ。沙良だって外に出られたんだし」

 俺はそう言う。そもそも俺は彼女を悪魔にするつもりはさらさらないのであって、今日の外出解除だって苦肉の策だったのだから。

「それはそうですけど……」

 だが、彼女は文句のやり場を失ったように口ごもる。何があったのかは知らないが、彼女がそこまで不機嫌になっていないところを見ると、外出したことで彼女にとっても何か収穫があったようだ。初めて名前を呼んだのも効いたのかもしれない。

「今日帰ったら沙良の好きな食べ物買ってきてやるから」

 俺はとどめの1押しにそう提案する。

「……じゃあ分かりました。フランクフルトを2本買ってきてください。それでいいですから」

「分かった。フランクフルトだな。熱々のやつ買ってくるから」

「約束ですからね」

彼女はそう言う。どうやら妥協してくれたらしい。

「おう。んじゃ、授業戻るから、早めに家に帰れよ!」

「はーい」

 俺は沙良に手を振ると、急いで教室に戻るのだった。



「おっ、その様子だと体操服は届けられたのかいサラっち?」

 沙良が戻ってくると、待っていたケンがそう声をかける。

「ええ。帰りにフランクフルトを買ってくれることになりました」

「へええ、結構仲良くやれてんじゃんそっちも」

 ケンはそう茶化す。

「まあ、願いを自分のためには使ってくれないんですけどね」

「それはうちもだから気にすんなよ。そのうち否が応でも私利私欲のために願いを叶えるようになるって。授業でもそう習っただろ?」

「そうですね、そうですよね」

 沙良はここに来る前に授業で習ったことを思い出す。人間とは私利私欲に生きる生き物であり、悪魔の恰好の獲物であること。悪魔はその願いを叶えることでより優秀な悪魔へとランクアップしていくこと。そして、ゆくゆくは悪魔の上に立ち、下の悪魔を育てていくことが沙良たち悪魔見習いの最大の目標であることを。

「だから、サラっちはその時が来るまでこうやって気ままに過ごしてりゃあいいんだよ」

 ケンは飄々と言い放つ。この彼の自信もおそらくは自分が昇格試験を受けられるほどの実力があるからだろう。焦りの色も全くない。

「だからサラっちもそんなに不安になることはないと思うぜ」

「……そうですね。考えすぎるのも良くないですよね」

「そうそう、なるようになるって」

 沙良のその返事にケンははじけた笑顔を見せるが、沙良はケンに笑顔を向けるその一方で全く違うことを考えていた。

(……すべての人間が本当に私利私欲のために何かを願うのでしょうか?)

 それはなぜ彼女たちが高校生の家に送り込まれたのか、というこの試験の根本的なところを意味しているのではないか、そんなことを考える。実際今まで樹は私利私欲で願いを叶えることはしていないし、むしろ自分からそれを回避しているようにも思えたからだ。

(残りの二人にも会えたらいいんですけど)

 沙良はまだ見ぬ残り二人の悪魔見習いの顔を思い浮かべる。もっとも、ケンのようにすぐに見つかるとも限らないし、そもそも二人が人間の時の姿を沙良は知らないのだが。とここで沙良はあることに気付く。

「そういえば、どうしてケンは私が悪魔だって気付いたんですか?」

 それはともすれば見落としがちな、最大の疑問だった。

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