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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
暴食の悪魔見習い再試験 第三試合
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豹変するガイン

「お、おい、何だよあの目は」

 ケンはガインの変貌ぶりに思わず立ち上がって後ずさりする。

「分からない。1つ言えることがあるとするなら、誰もガインのあの姿を見たことがないってこと。つまり、ここからのガインはどんな強さを持ってるのか、何もかもが未知数」

 アリーはそう説明するので手一杯だと言うように右手を握りしめる。その手は汗でぬれていた。それほどまでに今の彼は恐怖を与える存在になってしまっていたのだ。

「おい、これはあくまでゲームなんだろ!?」

 俺は周りを見て同意を求めるが、頷くものは誰一人としていなかった。

「ガインがサラとかこの場にいる人たちに危害を加えることはないと思う。ただ、彼にとってのこの試験がただのゲームってだけじゃなくて、特別なものだっていうのは間違いない。サラが私たちの期待を背負って戦ってるように、ガインもいろんな人の期待を背負ってるはずだもの」

「それって……」

 その言葉で俺は思い出す。ガインがこの再試験を受ける条件として提示した、ジョー・マクロイドを自分の補佐として任命すること。彼もまた、サラと同じように負けられない戦いの中に身を置いていたのである。



(そうだよねー。私と違ってあの2人は何かのために戦ってるー。私じゃ勝てなかったのもしょうがないのかもー)

 一方、ティーナは樹とアリーのやり取りを見てそんなことを考えていた。彼女のモチベーションはサラに勝ちたい、という半分自分のためだけのものだ。だが、サラにせよガインにせよ、2人のモチベーションとなっていたのは他者との約束であったり、他者との誓いであったりだった。自分のためだけに戦っていたティーナとは違い、彼らには他にも支えてくれる仲間がいた。その時点で彼女の勝利は遠いものになってしまっていたことに今になって気付いたのである。

(……何か、悔しいなー)

 そんな単純なことにも気付けなかった自分にティーナは悔しさを覚える反面、今は遠くで戦っている2人の悪魔見習いにこう心の中で呟くのだった。

(2人とも頑張ってー。私の分まであなたたちに託すからー)



「それでは、第3ラウンドを……」

 ゼノが言いかけた時、ガインはその手でゼノの言葉を止めた。

「すみません。1つだけよろしいですか?」

 ガインはそう丁寧な口調で尋ねる。

「分かりました。ではどうぞ」

 ゼノは頷くと、ガインに会話の機会を与えた。

「さて、時にサラ。君は暴食の悪魔見習いの能力を覚えているかい?」

 オッドアイとなったガインはサラにそんな質問を投げかける。サラは当然だと言わんばかりに首を縦に振った。

「吸収でしょう? あらゆるものを吸収できる能力」

 だが、サラの答えにガインは首を横に振った。

「暴食の悪魔見習いの真の能力をそれだと思っているのなら、君に僕は倒せない。それはあくまで力の断片に過ぎないんだから」

 ガインはそんな意味深なことを言った。



「おい、どういうことだ?」

 ガインが落ち着いていることを知り、真っ先に疑問を投げかけたのはやはりケンだった。だが、誰一人として答えない。否、答えられないのだ。答えは簡単で、今の話を誰もが初めて聞いたからである。審判補助として立っていたマーラですら、眉をひそめることしかしていなかった。微動だにもせず立っているのはゼノだけだ。

「悪魔見習いの能力には例外はないはずだよな? 暴食にだけ他の能力がついてるなんてことがあり得るのか?」

「たぶん……そういうことではないのではないだろうか」

 とここでそれまでずっと黙っていたラミアが口を開いた。

「暴食の悪魔見習いの能力は確かに吸収なのだろう。だが、その力はそれだけで留められるものではない、とガインは言いたいのだ多分。具体的なことまでは分からないがな」

「つまり、本来の力を出し切れてないっていうことなのか?」

 俺の問いにラミアは頷く。

「そもそも、暴食の能力だけが他の能力に比べ著しく応用の効く能力であることは紛れもない事実だ。だが、今の話を聞く限り、サラはそれを単純に知識でしか扱えていない。あのガインの言い方だと、本来はもっと幅広い使い方ができる能力なのだろう」



「どういうことですか?」

「僕はそこまで親切に教えはしない。自分で考えてみるといいさ」

 ガインはそこで話を打ち切ると、ゼノの方を向く。

「話は終わりですベルゼブブ様。第3ラウンドのコールをお願いします」

「承知しました。では、第3ラウンドを行います」

 ゼノは進行として最後のゲームコールを行った。



(ガインの言っていたこと、あれは一体どういうことなんでしょうか)

 サラはガインの発言が気になってしまい、彼の言葉ばかり考えてしまっていた。当のガインはと言えば、全く動きもせずただ立っているだけだ。だが、ふと我に返る。

(おっといけない、今はゲーム中でした。こっちに集中しないと)

 何かの片手間で勝てる相手ではないことは彼女が一番よく分かっている。先ほどと同様の戦術で攻めていくのがいいだろう。サラはそう考えるとてきぱきとカードを並べ、その手を止めた。

「私はこれで確定です」

 サラがそう宣言すると、ガインは両首を鳴らす。

「それじゃあ僕もカードを置かせてもらおうかな」

 ガインは両目を見開いて数秒サラのことを観察すると、てきぱきとカードを並べる。

「僕も終わりです。ではベルゼブブ様、ラストコールを」

「了解です。では、マーラさん。カードをめくってください」

 互いにカードを並べ終わったことで、最後の試合の決着がつこうとしていた。

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