届いた応援 サラの覚醒
「……むー」
サラの嬉しそうな顔を見て、ティーナは露骨に嫌そうな顔をする。自分の対戦相手にのみ有利な結果が出たのだから無理のない話ではあるのだが。
「さて、これで勝負は分からなくなりましたね。見ている側としてはなかなかに面白い勝負となってきました」
ゼノはそんな芝居がかった口調のままに2人の方を見る。
「では。3枚目のカードをめくります。3枚目のカードは……」
ゼノがそう言いながらめくったカードは7だった。
「7ですか。では、どちらにするか、まずはサラさんから宣言をお願いします」
ゼノはサラの方を向いて発言を促すのだった。
「……今度は難しいわね」
麻梨乃は渋い顔をして目の前のデジタルウインドウを見つめる。7というのは言うなれば間の数字、確率も五分五分なものとなってくる。
「ああ。実際今まで出た数字を整理してみると……」
俺はメモ帳にさらさらと数字を書き出していく。今まで出た数字は2・4・6・12・13・ジョーカーの6つだ。
「今回は高いか低いかを当てるだけで、ジョーカーの関係で直前の数字も重要になってくるから……」
そう言いながら俺は全ての可能性をメモ帳に書き出していく。
「確率的にはこうなるな」
書きあがったものを全員に見せる。ガインも俺のメモを興味津々で覗き込む。
(沙良……低 1・3・5・ジョーカー 高 8・9・10・11)
(ティーナ……低 1・3・5 高 8・9・10・11・ジョーカー)
「えっと……つまりどういうことなんだ?」
メモを見てもとんちんかんだったのか、ケンは俺に尋ねる。
「簡単に説明すると、沙良は2択の大博打、ティーナは確率の高い方に賭けられるってことだな。どっちかっていうと沙良のが不利ってことになる」
「おい、それってまずいんじゃないのか?」
ケンの顔に焦りの色が浮かぶ。だが、アリーはいたって冷静に、俺の方を見て聞いてきた。
「ただ、このゲームに関しては私たちが焦ってもしょうがない。そうでしょ樹」
「ああ。結局このゲームは運ゲー、勝敗を決めるのはその場で持ってるやつだからな。ここで俺たちが慌ててもしょうがないのは間違いない。何度も言ってる通りだけど、俺たちはあいつらの勝負を見守ることしかできねーんだ」
そう言い切ったはずの俺はしかし、考えながらサラを見つめる。
(……本当に、俺が沙良のためにできることは何もねーのか? 届かない頑張れを思うことしかできねーってのか?)
(……困りましたね)
一方のサラは、自分が選ぶべき選択肢がどちらなのかで迷ってしまっていた。確率で言えば完全に五分五分、当たるも八卦当たらぬも八卦といった状況だ。
(こんな時、樹さんだったらどちらを選ぶんでしょう。お母様だったら、お父様だったら……)
心の中を様々な不安が駆け巡る。今まで幾度となく悩んだことはあったが、ここまで思い悩んだのはこれが初めてだった。
(私はどうしたら……)
サラが自分すら見失いそうになっていたその時だった。
(……沙良、頑張れ)
「えっ?」
唐突に自分を呼ぶ声が聞こえ、周りを見渡すサラ。だが、誰も彼女を呼んだ様子はない。しかし、確かにサラを呼ぶ声は彼女の中で響いていた。
「どうしました?」
いきなり動いたサラを見て、ゼノは訝しんだ。
「な、何でもないです……」
そう言ってはみるが、彼女の頭の中には確かに誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえていた。サラは目を閉じ視線を下に向ける。
(誰ですか? 誰なんですか?)
そして問いかけてみる。だが、返事は返ってこない。彼女の名を呼ぶ声だけが大きくなってくる。でも、この声そのものはどこかで聞いたことがあるような……。そして、そこで彼女は気付いた。
(この声……まさか、樹さんですか?)
よくよく聞いてみると、確かに樹の声だった。だが、彼は今客席にいるし、樹本人がサラを呼んでいるわけでもない。そして、それに気付くと同時に今まで自分が知り合ってきた仲間たちの声が心の中に響いてきた。ケン、アリー、桜、麻梨乃……。
(いったいどうして……)
不思議な現象が自分の中で幾度となく続くことで彼女は気付く。自分の能力が暴食であり、あらゆるものを吸収することができることを。
(まさか私は、樹さんの心の声を吸収してしまったのでしょうか)
そう考えると辻褄は合う。自分の能力がそんなものまで吸収できるとは思っていなかったが、現在起きている現象を考えれば、おそらくそれが正しいのだろう。樹たちが今彼女にかける言葉が頑張れ以外にないのかもしれないし、自分の能力がまだ未熟なせいで他の言葉を受信することができていないのかもしれない。でも、確かに自分の応援をしてくれている仲間がそこにいる。それが分かっただけでサラの気持ちは不思議と落ち着いてきた。
(そうですよね。せっかく同点に追いついたのに、こんなところで負けるわけにはいきませんからね)
サラは自信を取り戻し、顔を上げる。この気持ちで選ぶ選択肢は1つだった。
「高いでお願いします」
「……分かりました。では、ティーナさんは?」
「私も高いでお願いしますー」
一方のティーナは確率の高い方に賭けたらしい。
「では、マーラさん。めくってください」
「了解したわ。じゃあ、めくるわよ」
マーラがめくると、サラの方は8、ティーナの方は3だった。
「……嘘ー?」
間延びした口調ではあるが、確かにティーナの言葉に動揺が見られた。
「やった!」
「当たったのか?」
客席では桜と樹の声が聞こえる。
(ありがとうございました。このポイントを取ることができたのは皆さんのおかげです)
サラは心の中で静かに感謝の意を述べた。
「では、今の結果を加算しましょう。サラさんに1ポイント追加で、現在のところ、サラさん2ポイント、ティーナさん1ポイントです」
そんな対照的な2人の様子を気にすることなく、ゼノは審判として淡々と現在のポイントを告げるのだった。




