負けられない戦い
「4か……」
俺は目の前に大きく表示されたカードを見て考える。
「4だったら普通に考えて低い方を宣言するんじゃないの?」
桜はそんなことを言う。確かに普通に考えるとすれば、4より低い数字は1か2か3の3つしかない。ここで高いリスクを冒す必要も薄くなってくるのだが。
「でも、このゲームのルールだと、この状況で4より低いカードは1と2と3の他にジョーカーもある。5枚ともなってくると判断が難しい。樹はそういうことを言いたいんじゃないかな?」
ガインは俺の方を見てそう説明する。
「でも、これって最初のゲームだろ。そこまで考える必要があるのか?」
「そうなんだよな。だから、たぶんここは無難に行くと思う。俺もいろいろ考えてはみたけど、高い方を宣言した方が成功する確率も高くなるしな」
俺はケンの質問にそう答えつつ、心の中でまったく別のことを考えていた。
(確かに今は何も考えなくていいんだ。問題は2ゲーム目以降、カードが減ってからだ。沙良ならそこに気付いてるとは思うけど)
「決まりましたか?」
ゼノの問いに2人は頷く。
「では、まずはサラさんから」
「高いと思います」
サラは迷いなくそう答える。
「では、ティーナさん」
「私も同じでーす」
語尾を伸ばした口調でティーナもサラと同じ高い方を選んだ。
「宣言終了です。では、カードを同時に開きます」
ゼノの言葉に合わせて、マーラは指を鳴らす。すると、先ほどゼノが置いたカードがくるりとひっくり返った。サラの顔が歪み、ティーナの顔が明るくなる。サラのカードはジョーカー、ティーナのカードは6だった。
「……あの、マーラさん。楽をするのはやめてもらえませんか? ちゃんと手でめくってください」
ゼノは呆れたようにマーラの方を見て手招きをする。
「えー。かっこいいじゃないこのめくり方」
マーラは文句を言いながらしぶしぶカードの置いてある机の上に近寄ってきた。
「というわけで、サラさんのカードはジョーカーなので0。ティーナさんのカードは6なので、サラさんははずれ、ティーナさんが当たりと言うことで、ティーナさんにのみポイントが加算されます」
ゼノの宣言と共に、デジタルウインドウに表示されていたサラとティーナの名前の下の0の数字のうち、ティーナの方のみが1に変わった。
「沙良さん外しちゃったみたいだけど……」
麻梨乃は心配そうな表情で俺に聞く。
「最初は仕方ねーよ。完全にランダムだからな。問題はここからだ」
「どういうこと?」
桜が首を傾げる。
「このゲームは数字が少しだけ減ってくる2回目とか3回目の方を当てる方が難しいんだよ。しかも、ジョーカーとかいうイレギュラーもあるしな。それが最初で来た分、難易度は下がってるとは思うけど」
「ただ、まだジョーカーが1枚残ってるって考え方もできるよね?」
横から口を挟んできたのはガインだった。確かに彼の言うことも一理ある。ジョーカーというイレギュラーはまだあと1枚残っているのだ。
「……今は悪い方向に向かわないように祈るしかない」
アリーがそうしめたところで、第2ゲームの始まりの合図があった。
(……最初はランダムだったとはいえ、外したのは思ったよりもショックが大きいですね)
試合場のサラはそんなことを心の中で考える。
(次に切り替えていくしかありません。まだ取り返せる範囲です)
サラは自分の頬を両手で叩くと、ティーナの方に向き直った。
(1ゲーム目をサラが外したー?)
一方のティーナは内心の喜びを隠しきれず、溢れ出る笑みを抑えきれなかった。
(これはいけるかもー)
ティーナはそんな緩んだ気持ちのまま、2ゲーム目へと臨むのだった。
「では、2枚目のカードをめくります」
めくられた2枚目のカードは12だった。
「それでは、高いか低いかを宣言してください」
ゼノはそう2人に尋ねるのだった。
「また極端なカードだな……」
俺はそう呟かずにはいられなかった。
「今回は高いを宣言するよな?」
ケンが周りに聞く。全員が当然のように頷いた。
「うん。ケンじゃなくてもたぶん誰でも高いを宣言すると思う」
代表してアリーが補足説明をする。12を超える高いカードはこの中には13しかない。ここで高いリスクを負ってまで当てに行く必要はないからだ。
「つまり確実に当たりを稼げるってことよね?」
桜が俺に聞いてくる。
「まあな。でもそう考えると、最初に外してる沙良にとってはあんまりいい展開じゃねーな……」
俺は1人浮かない顔をするのだった。
「それではサラさんから」
「高いでお願いします」
「ではティーナさん」
「私もー」
2人の答えはやはりどちらも同じ高いだった。
「では、マーラさん。今度は手でめくってください」
「……そんなに念を押さなくたって分かってるわよ」
ゼノにあからさまに釘を刺されて不機嫌そうな顔をしながら、マーラは右と左の手でカードを同時にめくった。
『あっ!』
客席の俺たちは同時に声を上げる。サラの方は2だったが、ティーナの方の数字は13だった。
「サラさんが当たりでティーナさんがはずれですね。それでは、得点を加算します」
サラの方にのみ得点が入り、ティーナと同点になった。
「運とはいえ同点ですか。まだまだ、これからってことですね」
サラはティーナの方を見てにやっと笑うのだった。




