ガインvsティーナ(後編)
「さて、ティーナ。君はどこにカードを置く?」
ガインは黒の7の隣に置こうとしていたティーナに向かってそう尋ねる。
「確かに君の今の状況は有利だろう。だが、僕はこの状況でパス2回をしたまま角にカードを置かせないようにしながら黒の8を守る戦術を取った。絶対的有利な状況のさっきの君はそんなことなど気にせず、普通にカードを置いていたね。はたして君が考えているその戦術がそのまま僕に通用するかな?」
(……まさか、まだ何か手があるっていうのー?)
ガインのその煽りを受けて、カードを置こうとしていたティーナの手が止まってしまう。
「おい、何でティーナの手が止まった? 黒の7の隣に置けばそれでおしまいのはずだろ?」
ケンはそんな声を上げる。
「だから、あの子は普段詰めが甘いって言ったじゃないですか。その詰めの甘さ故に何度も負けてきている。だから慎重に考えているんですよ」
「……騙されないんだからー」
ティーナはその手をそのまま元々置こうとしていた黒の7の右であり、黒の8の上に置いた。
赤十 裏(黒五)赤三 裏(黒七)赤九
黒九 裏(赤七)黒九 裏(赤三)裏(黒八)
裏(赤五) 黒八 赤六 裏(黒六)赤五 赤八
黒七 裏(赤四)裏(黒六)赤六 赤七 裏(黒三)
裏(赤四) 黒五 赤八 黒四 赤二 裏(黒四)
黒十 赤二 裏(黒二)赤九 赤十
「……おい、これまずいんじゃないのか」
俺は何かに気付いたように顔を上げる。
「どうしたの樹君?」
桜が聞いてくる。
「この勝負、一見ティーナが有利に見えてたけど、実際はその真逆だ。ティーナが最後の札をどこに置いてもガインが勝つようにできてやがる」
「ええっ!?」
「しかも……」
言いかけた俺の言葉をサラが制した。
「はい。よりによってあの子は点差が開く方の場所にカードを置いてしまったみたいですね」
「どうやら僕の忠告は聞いてもらえなかったみたいだね」
ガインはそう言うと、2枚のカードを順に置いて行く。まず1枚目は黒の3、それを裏返った黒の8の隣に置く。すると、黒の8が再び表に返った。
「そしてここだ」
ガインはその黒の3で赤の5・6・8の3枚をひっくり返す。
「あっ」
「これ以上僕にひっくり返すところはないけど、まあ結果は見えてるよね?」
ガインは自信たっぷりにこう言い切った。最終盤面は次のようになる。
赤十 裏(黒五)赤三 裏(黒七)赤九
黒九 裏(赤七)黒九 裏(赤三)黒八 黒三
裏(赤五) 黒八 赤六 裏(黒六)裏(赤五)赤八
黒七 裏(赤四)裏(黒六)裏(赤六)赤七 裏(黒三)
裏(赤四) 黒五 裏(赤八)黒四 赤二 裏(黒四)
黒十 黒十 赤二 裏(黒二)赤九 赤十
「勝負あり。黒77に対して赤66により、勝者、ガイン・ハルベルト!」
ゼノは高らかに宣言した。
「お、おい、角に置かずにゲームの決着が着いちまったぞ」
ケンはそういうのがやっとだった。普通のオセロならばどう考えても角に置いた方が強いという定石がある。だが、ガインは角に置くことなく決着をつけてしまった。
「このゲームは普通のオセロとは違うからな。角に置かないって選択肢もできてくるし、角じゃなくてもひっくり返せない数字ってのが出てくる。でも、ガインは角に置かないじゃなくて角に置けないって状況を作ったんだ。そしてその上で角を取らないって戦術を選択したんだよ。その場合に得られる数字のアドバンテージは40。勝利するには十分すぎる数値だ」
「ちなみに角に置いていた場合もやっぱり数字が30ほど大きくなってます。どうあがいてもティーナの勝ちはないですね」
サラはため息をついた。
「ちなみに一番数値の差の開きが少なくなるのはどんな盤面なの?」
「その盤面はこうよ」
麻梨乃の質問に、それまで黙っていた分身体のマーラさんが再現画像を用意してくれた。どうやらこんなこともできるらしい。
赤十 裏(黒五)赤三 黒七 黒十
黒九 裏(赤七)黒九 裏(赤三)黒八 赤九
裏(赤五) 黒八 赤六 黒六 赤五 赤八
黒七 裏(赤四)黒六 赤六 赤七 裏(黒三)
裏(赤四) 黒五 赤八 黒四 赤二 裏(黒四)
黒十 赤二 裏(黒二)赤九 赤十
「ちなみにこの場合は赤85に対して黒89になるわね」
「ガインが強いって言ったのはこういうことです。彼はどんな場でも早い頭の回転で最良の戦術を打つことができるんですよ。だからこちらが勝てるのはその最良の戦術を実力か運かで上回った時だけってことになります」
「……本当に強いんだな」
俺はサラの言葉の意味をやっと理解できた、と言った様子で頷いた。
「でも、私も負けるわけにはいきませんからね。必ず勝ってきますよ」
サラはそう言って立ち上がった。
「今度は私の番です。樹さん、行ってきますね」
サラは俺の方を向かずにそう宣言すると、戦いの場に転送されていった。
「……あんなに強い相手に勝たなきゃいけないんでしょ? 沙良さん大丈夫なのかしら?」
桜は心配そうに沙良を見つめる。
「……サラなら大丈夫、そう信じるしかない」
「ああ。俺たちに出来ることはあいつの戦いを最後まで見届けることと応援してやることしかねーんだからな」
アリーの言葉に俺は覚悟を決めた様に言いきった。




