ガインvsティーナ(前編)
「見てりゃ分かるって……」
確かに見ていれば分かるのかもしれないが、沙良が何を言いたいのか俺はまだよく分かっていなかった。その間にも着々とカードが置かれていく。
まずティーナが赤の4のカードを下の段の黒の6の下に置き、黒の6のカードをひっくり返す。同様にガインは無言で黒の4を赤の6の下に置き、赤の6を下に置き、黒の6をひっくり返した。
「たぶんこういう純粋なゲームであれば私はガインに勝てないでしょう。少しでも運要素があるゲームであることを祈るばかりです」
サラはこわばった顔で盤面を見つめる。
「だってゲームの腕は互角ぐらいのはずなんだろ?」
「そうですけどね。それでもガインに勝てたことはせいぜい数回あればいい方です」
「いったいあいつのどこにそんな強さがあるっていうんだよ」
俺は再度同じ疑問を口にした。
一方その頃、ティーナとガインの対決はこのような盤面となっていた。
上の置かれていない段
黒八
赤五 裏(黒八) 赤六 黒六 赤五
裏(赤四) 裏(黒六)赤六 赤七 黒三
黒五 赤八 裏(黒四)裏(赤二)黒四
赤二
「じゃ、ここに置こうかな」
「うええ……」
ティーナは悲鳴を上げる。ガインが黒のカードを置いたのは赤の五の下だった。盤面はこのようになる。
上の置かれていない段
黒八
赤五 裏(黒八) 赤六 黒六 赤五
黒九 赤四 黒六 裏(赤六)裏(赤七)黒三
黒五 赤八 裏(黒四)裏(赤二)黒四
赤二
「そうですね。いくつかありますけど、まずは効果的に相手に精神的なダメージを与えてくるところが一番です」
俺の質問に今度はきちんと答えるサラ。
「見てください。あの盤面を。ティーナは数字を9削られた上に、相手に9の数字を増やされています。この精神的ダメージは大きいです」
「要はチャンスを逃さないやつだって言いたいのか?」
言い換えてみる俺。
「そうとも言えますね。ただ、これ以上に恐ろしいのは彼のその戦術です」
「戦術?」
「まあ、それを拝めるかどうかはティーナの強さ次第ですけどね」
サラが視線を前に戻したので、俺も同じく視線を前に戻すことにした。
現在の盤面はこのようになっている。
上の置かれていない段
黒九 黒八
赤五 黒八 赤六 黒六 赤五
裏(黒七) 赤四 黒六 裏(赤六)裏(赤七)黒三
赤四 裏(黒五) 赤八 裏(黒四)裏(赤二)黒四
赤二
「でもティーナはまだ高い数字を出してないよな?」
今度はケンがそう聞いてくる。
「そうですね。ティーナがガインに勝つとしたらそこをうまく利用するしかないんだと思います。ただ、あの子は私以上に詰めが甘いところがありますからね……」
サラはやはり考え込んだ様子でその盤面を見つめるのだった。
それからも2人は無言でカードを出し続けたが、ちょうどティーナが2枚目の角を取った頃、ガインが一言喋った。
「少し、君を試させてもらうよティーナ」
そう言って赤の2の隣に黒の4を置いたのだ。
「どういうことー?」
「ふふっ、気付くかどうか。君に分かるかなティーナ」
そんな意味深な言葉を残したガインにティーナは首を傾げながらもカードを置いて行く。そして試合は進み、このような盤面となった。
赤十 黒五
黒九 赤七 黒八
裏(赤五) 裏(黒八)赤六 黒六 赤五
黒七 裏(赤四)黒六 赤六 赤七 黒三
裏(赤四) 黒五 赤八 黒四 赤二 黒四
黒十 赤二 裏(黒二)赤九 赤十
「これで置けるカードはあと9枚、先攻のティーナが4枚で後攻のガインが5枚か」
俺はそう呟く。
「そうだけど……。ねえ、ガインの言ってた意味、どういうことだと思う?」
アリーは全員に尋ねる。
「さあ……。ただ、何かを狙ってることは間違いないんじゃない?」
「そうだな。吉永さんの言う通り、何かを狙ってることは間違いない」
「それが何なのかはまだ分かりませんけどね」
サラは全員の言いたいことを代弁するような発言をすると、再び盤面に視線を戻した。
「じゃあ、ここにしよう」
今度はガインが黒の9を赤の7の右に置いた。赤の6と7が黒の9一枚でひっくり返る。
「私はここー」
赤の3がその上に置かれた。カードが一気にひっくり返る。
「それじゃ、ここかな」
黒の7がその隣に置かれた。これで互いに残っているカードは3枚だ。
「じゃあここー」
そしてティーナは黒の3と4の2枚をひっくり返し、そこに赤の8を置いた。すると、ガインはこの局面でこんなことを言い出した。
「パスだ。カードを出していいよ」
確かにこの局面、黒は置く場所がない。赤のティーナが攻めるしかないのだが。置くにしても置く場所があまり残っていなかった。
「うーん……」
ティーナは少し悩んで黒の7の下に赤の3を置いた。黒は再度パスを選択する。
「じゃあ最後ー……あれー?」
そこでティーナはあることに気付き、そんな声を上げる。なぜなら盤面は次のようになっていたからである。
赤十 裏(黒五)赤三 黒七
黒九 裏(赤七)黒九 赤三 黒八
裏(赤五) 黒八 赤六 裏(黒六)赤五 赤八
黒七 裏(赤四)裏(黒六)赤六 赤七 裏(黒三)
裏(赤四) 黒五 赤八 黒四 赤二 裏(黒四)
黒十 赤二 裏(黒二)赤九 赤十
「なるほど、黒の8を角に置いても裏返せないようにしたんですね」
サラはようやく分かった、と言うように頷く。
「黒の8を?」
「はい。このゲームでは高い数字を残しておく方が有利になります。なので、裏返せない高い数字というのは大きなアドバンテージに繋がるんですよ。素晴らしいです」
桜の問いにサラは丁寧に答える。
「でも、仮にそうだとしても結局このままだとガインは15点も失うんだぜ? 逆転できるってのか?」
ケンは眉にしわを寄せる。ティーナの残しているカードは赤の9のみ。対してガインの残しているカードはパス2回も含めて黒の2と黒の3と黒の10の3枚が残ってはいるものの、ガインの裏向きの数字は26、対してティーナは20しかない。
「たぶん、何か策があるんだと思います」
だが、サラは余裕たっぷりな表情のガインを見てそう頷くのだった。
今回と次回の作中に登場するゲームの表裏回転ですが、数字で書くと盤面がずれてしまう都合上、盤面のみ漢数字、文中では数字を使わせていただきます。
また、パソコンと携帯だとなぜか数字にずれが起きてしまうので、もしかすると携帯から読んだ方がいいかもしれません。
ご了承ください。




