第一試合 表裏回転(リバースリバーシ)
「リバースリバーシ?」
その何やらかっこよさげな言い回しに俺は興奮半分疑問半分と言った様子で聞き返す。
「まあ、説明は今からベルがしてくれるからよく聞いておきなさい」
マーラはそう言うと前に向き直った。そう言っている間にも殺風景だった空間にゲームをするための机や盤面を見やすく表示させるためのウインドウなどが現れ、着々とゲーム準備が進められていく。数分後には何やら見慣れた紙の束がその机の上に置かれているところまで見えた。
「あれは……トランプ?」
さつきが目を細めて机の上を見る。
「そうよ。このゲームはトランプを使うの。そこのウインドウに拡大された机の上が表示されるから、そっちを見るといいわ」
マーラがそう言ったと同時に
「今回使用するのはトランプです。あなたたちの手持ちに黒と赤の2~10まで絵札を除いたトランプがあるのでそれを使ってください。ティーナが赤、ガインが黒を使用することとします。なので今回使用するトランプは36枚ですね。枚数が正しいかどうか一応確認していただけますか?」
2人は頷き、それぞれカードを手に取って数え始める。2人が問題ないことをジェスチャーで表現すると、ゼノは説明を再開した。
「このゲームはすごく簡単に説明するなら、トランプを用いたオセロのようなものです。中心にはそれぞれ6のトランプを表向きでオセロと同じように置き、ゲームスタートとなります。6×6の盤面の上に互いに一枚ずつ自分の番でカードを出していき、最終的に数字の多い方の勝ちとなります。カードをひっくり返せない場合は置くことができないので気を付けてくださいね」
ティーナとガインは6のトランプを中央に互い違いに置いた。
「それでは細かいルールの説明に移りましょう。まず赤を黒で、黒を赤で挟んだ場合には通常のオセロと同じくカードが裏向きにひっくり返ります。例えば……」
ゼノは黒と赤の絵札を横一列に一枚ずつ置く。現在このような図となっている。
赤12 黒12
「この図の場合に私が赤の12を置きます」
ゼノはそう言うと、黒の12の隣に赤の12を置く。すると、
赤12 裏(黒12) 赤12
黒の12は裏返り、赤の12のみが見える状態となった。
「こうなると、黒の得点は0、赤の得点は24となるわけです」
ふむふむと全員が頷く。
「ちなみにこの図の場合黒のカードはなくなってしまい、黒はカードを置けないので負けとなってしまいます。こうならないように気を付けてくださいね」
2人は頷いた。
「では次にこの裏返ったカードの説明に入ります。この裏返っているカードはどちらのカードとしても扱われないので、間にある場合は必ずひっくり返すことになります。なので例えば……」
ゼノは赤の12を裏返す。
赤12 裏(黒12) 裏(赤12)
「この図の場合には裏向きの2枚を赤のカードではさみ、赤と黒の裏向きのカードをひっくり返します」
ゼノはその赤の12の隣に赤の11を置いた。すると図がこうなった。
赤12 黒12 赤12 赤11
「この場合、赤の得点は35、黒の得点は12となります。どうですか?」
ガインとティーナはそれぞれ考え込みながらも頷いた。
「例えカードが裏返ったとしても、そのカードが相手の色に変わったりすることはありませんが、代わりに自分の得点になることもありません。なので、いかにして相手のカードを裏返して得点を減らすかと自分のカードを表向きにしたままゲームを終了できるかが勝負のカギとなります。高い数字を置く場所やタイミングにも気を付けてくださいね」
つまりこのゲームは赤と黒の枚数は最後まで置く都合上18枚ずつとなるが、裏返ったカードの枚数が多ければ多いほど不利になってしまうということになる。もちろん表となっているカードの数字が高い場合はその限りではない、ということらしい。
「ところで、双方がカードを置けなくなった場合はどうするんですか?」
ガインが聞く。このルールならば稀にそういうことが起こりうるかもしれない。
「その場合はその時点で得点の集計を行い、得点の高い方が勝利となります。また、片方だけがカードを置けなくなった場合は、相手がカードを置けるようになるまで置くことができます。ただし、その分カードがなくなるのは早くなるので気を付けてください。なくなってもこちらからカードを補充することはありません。あくまで使用するカードは互いに18枚です」
「分かりました」
ガインは頷いた。
「ティーナさんは何か質問はないですか」
「私は大丈夫ですー」
ティーナはそう答える。
「では、ゲームスタートです。先攻後攻は私が決めましょう」
ゼノがルーレットを回すと、先攻がティーナを差した。
「それでは、ティーナさん先攻でゲームスタートです」
ゼノの合図とともに、いよいよゲームが始まったのだった。
「ところで沙良、あの2人のゲームの腕ってどんなもんなんだ?」
試合が始まったのを見て、俺はサラに聞く。
「ゲームの腕そのものは2人とも私と互角くらいですかね。ただ……」
「ただ?」
そこで言葉を区切ったサラに俺は続きを促す。
「ガインは強いです」
「……?」
俺は首をかしげる。なぜ同じくらいのゲームの腕を持つやつを強いと評するのだろう、という純粋な疑問だ。
「確かにガインのゲームの腕は私たちと大差ないですが、彼の強さはそれだけじゃないんです」
「……どういうことだ?」
「見てれば分かりますよ」
そう言ったサラの目は真剣そのものだった。




