1周年記念 クイズ大会(前編)
「さあ皆さん始まりました! 一周年記念企画、我が家に悪魔がやって来た!特別編です!」
妙に高いテンションで作者が俺、町村樹たちに向かって声をかける。俺たちは何故か作者に呼ばれ、今この謎の空間へと足を踏み入れていた。
「何なんだよ今本編相当いいところだと思ったんだけど」
「まさか俺たちの戦いはこれからだエンドにしないでくださいよ?」
居候の悪魔見習い、高梨沙良ことサラ・ファルホークまでもが作者に白い目を向けた。
「大丈夫ですよ。作者としてもストックに余裕はないのですが、急遽この企画を思いついたので急いで書き上げたそうです」
「計画性がないのはいつものことみたいね」
「まったくじゃ」
色欲の悪魔ミルダ・ファルホークと色欲の悪魔見習い兼嫉妬の悪魔見習いであるアリー・サンタモニカもため息をつく。
「……で、今日呼ばれたのはこの4人だけなのか?」
周りを見渡すが、この4人以外に人はいなかった。
「はい。諸事情ありまして」
「人間俺しかいねーじゃねーか」
「男性も樹さんしかいませんね」
沙良も同調する。
「今回は特別企画なので、本作品にまつわるクイズを出題して皆さんに解いていただこうと言う企画です。他の方には出題者として登場していただくのでご安心ください」
カラフルな回答者席と何やら彩られた人が出てきそうな扉はそれが理由か、と全員が納得する。
「……人選の理由を聞きたいんだけど」
俺はそんな質問をする。作者の意図がいまいち読めなかったからだ。
「サラさんとミルダさんは読者の方が好き、と言ってくださっているのでそれが理由です。アリーさんは作者のお気に入り枠ですね」
「……俺は?」
1人理由のない俺はどうして呼ばれたのだろうか。
「樹さんは主人公だからですね。サラさんにも同じ理由がありますけど」
「……俺帰っていいか?」
悪びれずに正直に答える作者に俺は露骨な嫌悪感を示した。
「まあまあ気を落とさないでください。今回出題されるクイズは全部で5問、早押し形式です。一度間違えるとその問題での回答権は消えてしまうので注意してください。あと、優勝した方には作者からプレゼントがありますので」
「……よし分かった」
俺は商品目当てに頑張ることを決めた。
「それでは皆さん回答者席についてください。では最初のクイズはこの方ですどうぞ!」
作者は全員が席に着いたことを確認すると、そんな合図を出した。
「えっと、こんにちはー」
最初に出てきたのは俺のクラスメイトの樋口桜だった。
「桜さんが最初の出題者なんですね」
「うん、何か選ばれちゃって」
そう言いながら桜はポケットから問題を取り出し、読み上げ始めた。
「では第1問、私が番外編のコーナーを担当していた時、終わりの時に流れていた曲の名前は?」
「本編関係ねーじゃねーか!」
確かにこの作品にまつわるクイズではあるものの、まさかここまで本編に関係のないクイズが出てくるとは。だが、このクイズなら俺の方が有利だ。俺は早押しボタンを素早く押した。
「はい、樹さん」
「蛍の光!」
自信満々に答える俺。だが、外れの音が会場全体に鳴り響く。
「えっ」
「不正解です」
「嘘だろ?」
「本当です」
俺が呆然としている間に、アリーが早押しボタンを押す。
「はい、アリーさん」
「別れのワルツ」
すると、会場に正解の音が鳴り響いた。
「正解は別れのワルツでした。実は閉店のBGMって蛍の光じゃなくて別れのワルツって3拍子の曲が流れてるんだって。よく聞き比べてみてね」
宣伝のように紙に書かれている内容を読み上げると、桜はその場から去っていった。
「何でアリーが知ってるんだよ」
桜が去っていくのを見ながら俺はアリーに聞く。
「こっちに来るときに地球の文化はひとしきり勉強してきたから」
「……そんな馬鹿な」
もうそう言われてしまうと何も返せない。俺は諦めて2問目に切り替えることにした。まだ1問目だ。あと4問もある。
「では、第2問です。2問目はこの方!」
その合図で出てきたのはマーラ・グリタニアだった。情報屋にして少々男性嫌いの女性型の悪魔である。
「お・ね・え・さ・ま~!」
「ええい気持ち悪いさっさと自分の仕事をせんか!」
すり寄って来ようとするマーラをミルダは追い返した。
「ああんお姉さまが冷たい。でもあんまり時間もないし、さっさと問題に行くわね」
そう言ってマーラもさっさと紙を取り出す。
「では第2問。私がある薬を作るために人間界に来たことがあったんだけど、その時に必要だったコウモリとトカゲの数を答えなさい」
「分かるか!」
何だろう、このクイズは俺を突っ込ませるためのものなのか。誰もこんなクイズ分かる訳がないだろう、と思っていたその矢先、早押しボタンを押す音がした。
「はい、ミルダさん」
「コウモリ5匹とトカゲ7匹じゃな」
正解音が鳴り響く。
「何で知ってるんですかミルダさん!」
さすがに叫ばざるを得ない俺。
「たまたまマーラが魔界に帰って来た時に会ったのじゃ。その時に聞いたのを思い出しての」
「そういえば帰りにお姉さまに会いましたねえあの時。あれはまさか、運命」
うっとりした表情でミルダを見つめるマーラ。
「も、問題を出し終えたなら早く立ち去らんか!」
その顔に寒気を感じたのか、ミルダは慌ててマーラに帰りを促した。
「冗談ですよ冗談。それじゃみんな、また本編でねー」
マーラは素早く去っていった。
「何なのじゃ今日のマーラは……」
「いつも以上に暴走してましたね……」
ミルダとサラは同時にため息をつくのだった。




