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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
悪魔見習い試験の全容
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孵った卵の正体

「うぷっ……」

「急に呼び出してしまってすみません。買い物の途中だったんですけど、さすがに急だったので私の使い魔に商品の見張りを任せてお店を出てきちゃいました」

 倉庫に到着した俺は当然のごとく乗り物酔いをしていて、沙良に介抱されることとなった。

「使い魔って……それ大丈夫なのか?」

 彼女の固有能力で徐々に吐き気が消えてきた俺は沙良に聞く。

「一応アリーの能力で他の人からは人間に見えるようには擬態させてあります。アリーがいなかったら大変でした」

「ところで卵が孵ったってのは本当なの?」

 桜はアリーに聞く。

「うん。それは本当。ただ、説明したいのはやまやまなんだけど私も麻梨乃の家族と出かけないといけないから、ここからは沙良に任せる」

「ああ、そういえば吉永さん出かけるから帰るって言ってたっけ」

ようやく復活した俺はその場から立ち上がる。沙良の能力はこういう時にとても役に立つ能力だ。

「それじゃ、後は頑張って」

 アリーは復活した俺を見届けると、その場から飛び去って行った。

「で、孵った卵っていうのは?」

「これなんですけど……」

 沙良が取り出したそれは手のひらサイズではあるものの、よく見慣れた人の形をしていた。髪の長さは少し長めのストレートのミディアムヘア、生まれたばかりなので当然全裸だが、体が黒色のために目立たなくはなっていた。他に人間と違ったのは頭に角のようなものと背中に翼のようなものが生えていることだろうか。しかしそんなことはどうでも良かった。それ以上にその姿は俺に衝撃を与えたのだ。

「何だよどうしたんだよタツッキ……」

 後ろからそう言って覗き込んだケンも言葉を失った様子だった。

「……お、おい、こいつ」

「何でこいつがここに……」

 俺とケンはそういうのがやっとだった。一方の桜とラミアは俺たちがなぜそういう反応をしているのかまるで分からない様子で交互に俺たちを見ている。

「これは誰なの? 人間みたいな姿だけど、角と翼を見ると悪魔よね」

 不思議そうな顔で桜はそんな感想を述べる。

「こいつは……」

「この人……いえ、今は悪魔と言うべきでしょうか。この悪魔は、少し前に私や桜さんたちを誘拐した張本人、成島翔です」

 俺に言わせるのは酷だと判断したのだろう。沙良が桜に説明してくれた。

「ええっ!」

「何だと!?」

 桜とラミアも大声を上げる。

「こいつは俺の元友人でな。記憶を消されるとはあの時聞いてたんだが……」

 いくらあいつがいろいろな奴に酷いことをしてきたとはいえ、いざこの姿を見せられるとやりきれない気持ちになってくる。

「そういえば前に聞いたことがあるな。悪魔の力を使った者はその死後魔界で悪魔に生まれ変わることとなると。その際前世の人間の頃の記憶は消えてしまうらしいが、代わりに人間と悪魔の中間のような姿で生まれてくるらしい。いわゆる最初から人間に変身できる悪魔のエリートとでも言うべきだろうな」

「はい。聞いたことはありましたけど、私も現実にその例を見るのは初めてでした。ただ、この様子だとおそらく翔さんは魔界で……」

「それ以上は言わなくていい。こいつが今までしてきたことを考えればこのくらいは仕方ないことなんだろうよ。むしろもう一度この世に生を受けられたんだ、更生のチャンスが与えられただけでも十分すぎる温情だぜ」

 俺はその言葉を途中で遮った。

「……あの、ところで1ついいかしら」

 おずおずと桜が手を上げる。

「もしかして私たちも死んだら悪魔になっちゃうの?」

「いえ、桜さんと樹さんはあくまで私たちの試験の協力者ですからそんなことはないですよ。それにもし仮に悪魔と契約しても、以前に悪魔見習いと契約していた場合は魔界への貢献度も考えて不問にされる場合が多かったはずです。ただ、迂闊に変なものと関わりを持つのは避けた方がよろしいかと」

「そうだな。とはいえ一度悪魔見習いと契約した者は便利な能力には相応のリスクがついて回ることも十分に把握しているだろうし、そんな馬鹿な真似はしないと思うが」

 ラミアが後を受け、そう補足する。

「そういえばこの翔……は話せるのか?」

 そう呼んでいいのか戸惑いながら俺は聞く。答えてくれたのはケンだった。

「いや、生まれたばかりの悪魔は使い魔として悪魔見習いが育てることになる。つまり人間の赤ん坊と同じ、基本的には何も話せない状態だ。話せるようになるのはこの試験が終わった後に学校に通うようになってからだな。タツッキーもサラっちの使い魔見たなら分かるだろ?」

「そういえばあいつら立ってるだけで何も話さなかったな」

 2か月前の沙良との出会いを思い出す。確かにあの使い魔たちは俺の邪魔こそすれ言葉を話そうとはしていなかったはずだ。あれは話そうとしなかったのではなく話せなかったのだ、ということに俺はここでようやく気付くのだった。

「まあ問題なのはこいつの大きさと誰が育てるかってことなんだけど」

「ああ……」

 確かに両方とも妥当な問題だろう。俺の見た使い魔は少なくとも高校生くらいの大きさは持っていたし、こいつが使い魔として働くことになるのなら、このサイズでは役に立つとも思えない。

「……とりあえずマーラさんに連絡してみないか沙良」

 俺はそう提案する。

「そうですね。マーラさんから預かった卵ですし、まずはあの人に連絡を入れてみましょう。あ、でもその前に買い物を済ませないと」

「私たちも手伝うわ」

「そうだな。せっかくここまで来たのだ。そのくらいはさせてもらうとしよう」

 全員の意見がまとまったので、とりあえず俺たちは買い物をするために一度スーパーに戻ることにしたのだった。

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