今昔車 (666文字)
三つ――四つ――二つ――
それは、はーちゃんと僕が過ごしてきた歴史。
その年の長雨が終わった日、はーちゃんはピンクの三輪車に乗ってきた。
きーこ、きーこ、きゅきゅっ、きゅきゅっ……。
一緒に走る時、なんでか口をすぼめながら僕の背中を追い続けていたはーちゃんは、三輪車に乗ってもやっぱり口をすぼめている。
かんかんお日さんが夕暮れ空にしずむ頃、走りっぱなしの僕と三輪車のはーちゃんは、汗びっしょりでお家にかえった。ビニールプールの水には柔らかい温かさが残っていて、一緒に水浴びをした。
何度目かの夏が来て。
はーちゃんは補助輪がついた小さな黄色い自転車でやってきた。
僕はもう走らない。黒の自転車に乗るからだ。
二台の自転車で並んで走り始めたのだけれど。
はーちゃんの自転車は僕の後ろに下がってしまう。土手は土けむりが上がるから、はーちゃんの目にしみないように、僕は、はーちゃんにあわせてゆっくりこいだ。
補助輪がはずれ、はーちゃんは一人で自転車に乗れるようになった。道を覚え、迷子になる心配もなくなった。
僕も僕の時間を過ごし、はーちゃんと重なる時間が減っていった。
四季は巡ることを違えない。
いつの間にか、はーちゃんは女性と呼べる人になって、緑の自転車に乗っている。
朝、僕が新聞を取りに出ると目の前で一度止まり。
僕が片手を上げると、ちりりん、ちりりん……とおはようの合図を鳴らし、長い髪を颯爽とゆらし、風を切って去っていく。
二台の自転車が並ぶことはなくなったけれど、二つの影が並んで揺れる週末を過ごす現在。
次の秋に、はーちゃんは僕のお嫁さんになる。