表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

十人の僕、本当の僕 (666文字)

 絵里菜はちょっぴりチビではねっかえりな女の子。

 念願叶って入った高校でテニス部に入部した。

 幼稚園の頃からちょこちょこ後ろにくっついていた嶋野を追っかけて。


 誰もが合格は無理だと思っていた。

 

「下がないのは上がれるって事でしょ?」

 自分と戦い続けていた絵里菜。

 僕なんか視界になくて、それでも時々家へやってきて、

「あの曲、弾いて?」

 乞われるままに白黒の鍵盤を叩いていた僕。

 絵里菜の心が休まるならと、僕は弾き続けていたっけ。


 ほうら、掴みとれ絵里菜。本当にほしいなら上がっていけ。


 ピアノに乗せた、嘘で塗り固めた励ましと癒しに、絵里菜は気づかない。

 曲が終わるとにっこり笑って帰り、月の時間、陽の時間、眠りや遊びをけずり続けていた。

 

 そうやって絵里菜は想いの賭けに勝った。

 嶋野の隣で絵里菜が笑う。

 輝きを放ちながら二人は離れていった。


 いつしか僕の指は思うまま動くようになって、一人でピアノを弾いている。 

 僕の中に住んでいた十人分の想いが交じり合っていく。

 僕に勇気があったら――。

 自分の心を一番にしていたら――。

 絵里菜を嶋野に渡さず、離さなかったのかな。 

 十人の僕はいつだって空まわり。



 僕の中にあった十の後悔が、破砕して、消えて、残ったのは一人の僕。

 ピアノを弾くのが何より楽しくなった僕。


 指先から流れる音は僕自身。

 だから、弾け、生め、奏でろ。

 僕の音を、僕だけの音を。

 


 絵里菜じゃない誰かに向かって、鍵盤を叩く。

 軟らかくなっているかな? 尖っていないかな?

 僕の音になっているんだろうか?


 そんなのもうどうだっていいや。

 指先から生まれる音が僕の全てだ。

 だから届け、僕の音。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ