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第2話「君は月、僕は星」

   そのシルバーブロンドの髪が夜風にたなびき、夜空を透かす。

   その(さま)は・・・まるで白銀の糸が夜空にかかっているようだ。

   たなびく銀糸がさやさやと流れ、ゆらりゆらりと星の光に溶けてゆく・・。


   雨露に濡れる蜘蛛の糸に触れるように、儚くも美しい幻に触れようと

   するように、思わず手を伸ばしかけ・・・自身の気持ちに戸惑う

   その手が虚空を掴んだ・・・。


   ―――伸ばした手の果てに掴めるものがあるのだろうか。

   思わず溜息が漏れ、(むな)しく空を切った掌がゆっくりと落ちていく。



   ―――まるで今宵の満月のように冴え冴えとしたその美貌が眩しい。

   しっとりと熟れた果実のようなその唇が、時には怜悧な黒曜石のように鋭く、

   時には暁に浮かぶ星のような瑠璃色に輝くその瞳がいっそ憎らしい。



   君という一服の美しい絵姿を我が物にしたいという黒い欲望が溢れる。

   いや、絵姿ではこの身に抱けない、この唇を押し付けることもできない。

   何より君が()くその声で身を震わすことがかなわない。


   ミナトの心中など知りもせず、あっさりとヒューバートのその背が

   次第に遠ざかって行く。

   そして、その背をこの(かいな)で抱きしめることはかなわない・・。



   ならば一体どれほどの意味があるというのだろうか、君のいないこの腕、

   君を味わえないこの唇に。



   ミナトは空しく下された掌をぎりりと握り締め、唇を噛み締めるのであった。

   ―――その唇に(あか)く、ひとたらしの鮮血という名の(はな)が咲くまで――。



                  <第5話「君は月、僕は星」了。続く>




―――手の震えが・・・悪寒が止まらない―――。

掌がじんわりと汗ばみ、背筋にひんやりとした冷たい汗が流れるのを感じながら、

シズリはその掌に思わず力を込める。

手の中で紙の束がぐしゃりと潰れる音が耳に届いた。

―――だが、今はそれどころではない!!



ミレーニャ中尉の期待たっぷりの視線を感じつつも、掌の中で潰れた紙の束から

視線を上げることができない。


果たして一体私に何を申せと?

そしてこれを書いた馬鹿は何処のどいつだ!?

絶対脳味噌沸騰してますから!


いや、むしろ沸騰しすぎて腐って発酵したのか??

この脳味噌納豆野郎が!この○×△野郎が!!

汚い罵り言葉が心に浮かんでは消えていく。

心の中でありったけの罵詈雑言を並べつつ、再度すでに紙屑と成り下がった

物体に思わず視線を落とす。



――いっそ、消炭にしてやろうか―――。



いや、そんなことでは手ぬるい・・・。

これを書いた○×△野郎を見つけ出し、そして・・・。

(以下、シズリらしからぬ暴力的な物思いにつき自主規制)



そんなシズリの動揺をよそに、金色のウェーブを持つその人はとろけるような、

陶然とした色をその青い瞳に浮かべ、山のあなたの空遠く、遥か彼方、

夢の世界を見つめている・・・。

やがて・・・甘く、艶やかな微笑を浮かべたまま、その紅く艶やかな唇が

破滅の科白を音にした!!。



「それは秘かに流行っている不定期小説だそうだ。

毎回一話ごとの更新で、このような薄い冊子として販売されているらしい。


作者が誰なのかは不明なのだが、発行されると飛ぶように売れ、一部の女性士官の

間でも回覧の順番待ちがすごいらしい。」


もっとも、ラーツィヒ中佐とシノノメ中佐がヒーロー&ヒロイン?役なのだから、

ある意味当然といえばそうかもしれぬが、とミレーニャ中尉が続ける。



シズリは思わず我が耳を疑い、足元がふらつくのを感じる。



・・・この軍の(一部)女性士官の頭は腐ってる・・・。



「あぁ、一部男性士官の間でも人気らしい。

シノノメ中佐のベビーフェイスとラーツィヒ中佐の怜悧な美貌が堪らん!とか」



野郎共までもか!!



目の前にその不届きな輩達がいるわけでもないのに、思わず魔導銃に手が伸びる。

まさか、兄と上官殿をそういう風に貶め、辱める不逞の輩がこの軍にいるとは!

シズリは震える手を宥め、努めて・・・努めて無表情を装う。


落ち着け、冷静に、冷静に・・・仮にも中尉殿の前だぞ。



嵐が吹き荒れるシズリの心中とは裏腹に、太陽の光がうららかに、ほんのりとやさしく2人の髪をつややかに照らし、風はさやかにその金髪と黒髪を揺らす・・・。

中庭には人気がなく、2人の間にしばし沈黙が落ちた・・・。


シズリは何とか心を落ち着け、とくと考えた。


そもそも、だ。


なぜ、中尉殿は私にこれを見せて下さったんだっけ?

じっとりと汗ばむ掌で改めて屑と化した紙を握り締め、空いたほうの掌で額に浮かんだ汗をぬぐう。



暑くもないのに全身に汗がふきだし、真夏の太陽の熱にやられたかのようにくわん、くわんという音が頭に響いて心持ちが悪くなる。



もしや、と。

自分でも肯定したくない疑問符が心に浮かぶ。

ぎぎぎ、と視線を手元の紙束からミレーニャ中尉に動かすと、真に麗しい微笑みと全く麗しくとも何ともない質問が降って来た。



ミレーニャ中尉は仰いました。



「それで、だ。

これが事実に基づくのでは、という噂が最近囁かれている。


先日、ラーツィヒ中佐の部屋からシノノメ中佐が朝帰りし、濃厚な後朝(きぬぎぬ)の別れを交わす姿を見たものが複数名いるらしい」



貴女はどう思う?本当なのか?そういえば云々・・・続けられた後の言葉はすでに、真っ白な灰となったシズリの耳を通り過ぎていくのであった・・・。

・・・ふざけまくった内容です・・。

ちなみにこちらは第7話「夢よりも君のそばに。」の後のお話ということで。

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