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第1話「上官殿の知られざる秘密?」

それはある晴れた昼下がりのこと。

やわらかな日差しがうららかにふりそそぎ、爽やかな風が心地よく、午睡を誘うかのように髪をゆらす。

シズリは魔導技術科より受け取った資料をヒューバートに届けるべく、官舎同士をつなぐ中庭を歩いていた。


長靴(ちょうか)の下でさくさくと音を立てる芝生が耳に心地よい。

ヒイヅルクニという、緑溢れる国(どちらかといえば田舎・・・)出身のシズリにはうっそうと茂る木々と緑に囲まれたこの中庭はお気に入りの場所でもある。

緑に囲まれているとほっと安心し・・・その爽やかな()が時として軍務にささくれそうになる心持を癒してくれる。



その日、シズリは爽やかな気分で歩を進めていた。

これは―――そんなある日の出来事―――




「シノノメ少尉、すまないがちょっとよいか?」


ミレーニャ・ラドウィン中尉に呼ばれ、シズリは振り返った。


「は。何かご用でしょうか?」


シズリはミレーニャ中尉に向き直り、手にした書類を小脇に抱え直してから、失礼のなきよう背筋を真っ直ぐ伸ばし、直立の姿勢を取る。



この、ゆるくウェーブのよった金髪と青い瞳を持つミレーニャ中尉は軍人として優秀なのは勿論、その美貌からもシズリ達若い女性士官にとっても憧れの存在だ。

女性らしい、華やかな容姿とは相反し、さっぱりとした、どちらかといえば男勝りで気さくな性格もその人気の一つだと言える。

男性士官はもとより、一部の女性下士官達からは〝憧れのお姉様〟的な人気すらあるというのも頷けるわけだ。



所属が異なるため、おいそれと声をかけることなどできず、顔を合わすことすら滅多にない・・・そんな憧れの存在に突然声をかけられて思わず心が浮き立つ。



だが、ミレーニャはシズリの真っ直ぐな、一点の曇りもない真摯な視線を受け止めると、若干動揺したかのように視線を泳がせた。

そのやや・・・挙動不審とも言える動作におや?と内心不思議に思う。


常に真っ直ぐに背を伸ばし、何も言わずともその強い視線を向けるだけで若手士官の男性など物も言えなくなるほどの品格を常にたたえている彼女にはついない・・・実に珍しい様子だ。



「・・・どうか、されましたか?私が何か・・?」



思わず不安に駆られ、ミレーニャに一歩近づく。

中庭には人通りがなく、いつになく静かな空気がその不安を煽る。

そらされた視線が何かを含んでいるようで、胸騒ぎを起こす。

シズリはぴたり、とその顔に視線を向け、その言が続けられるのを待ち受けた。


ミレーニャは相変わらず落ち着かない様子で視線を外したまま、その金色に輝くウェーブを指先で弄び・・・やがて視線をシズリに戻して言を続けた。



「いや・・・貴女自身ではなく・・・」



「父か・・・兄、のことですか?」



シズリの父も兄達も同じ軍に所属している。

特に公言はしていないし、所属も仕事内容も異なるため、今のところ仕事上での接点はないが、ごくたまに近況等を聞かされたりすることもある。



ミレーニャ自身も特にそういった接点はなかったはずだが、と訝しく思っていると、顔に出ていたのか、ミレーニャが慌てて続けた。



「いや、まぁ・・・うん、関係なくもないが・・・実は、ミナト・シノノメ中佐と・・・ヒューバート・ヴァン・ラーツィヒ中佐についてなんだが・・・」



いつもハキハキと臆することなく物を言うミレーニャには珍しく、口ごもる。

その頬がほんのりと赤く染まって見えるのは・・・気のせいだろうか。



「兄と・・・ラーツィヒ中佐、ですか?ラーツィヒ中佐は私の上官でありますが・・何か?」



確か、ミナトと上官殿は士官候補生時代からのつきあいで、学友であると同時に共に死線を潜り抜けた親友だと聞いたことがある。

先日も2人で酒場で潰れるまで飲んでいたし。

こういう男同士ならではの、つかず離れずの絶妙な距離感と信頼関係もあるのだなと内心少し羨ましく思ったものだ。



そう考えながら、先日のヒューバートからの告白を思い出し、思わず体温が上がるのを感じる。

飲みすぎて潰れたミナトを酒場まで迎えに行ったとき、自らの上着を着せかけてくれたヒューバートの手の、その上着にほんのりと残されていた彼の体温と残り香を思い出してしまう。



その彼自身の体温と残り香に・・・思わぬほどに心臓が反応してしまったあのときの自分が未だに心の中に残っている。

彼自身の体温が残された、ハーブのような・・爽やかで清涼感のある香さえもこの身に染みついて・・・離れない気がする。




思わず俯き、そんな恥ずかしいもの思いを振り払おうとするシズリをよそに、ミレーニャが意を決したように口火を切った。



「・・・一つ聞いてもよいか?」


「はい、何なりと」


その瞳には何の疑いも、濁りも蔭りもなく、素直な視線がミレーニャに向けられている。

緑薫る中庭で、穏やかな気持ちでシズリは次につむがれる言を待ち受けた。

思いもよらぬ言が、衝撃が次の瞬間、彼女を襲うとも知らずに。



―――そして、シズリにとって青天の霹靂とも言える言葉がミレーニャの唇から転がり落ちた!!




「ミナト・シノノメ中佐とヒューバート・ヴァン・ラーツィヒ中佐が・・・熱烈な恋愛関係にあるというのは真か?」


他の女性士官達が一番お二人に近い立場の貴女にぜひ聞いてくれと煩くて・・、と続けながら。



―――だが―――ひたすら絶句しながら、投げかけられた質問に倒れそうなほどの衝撃を受けながら・・・シズリは見た。


その瞳に、期待という名の星が爛々と輝いていることを・・・。

こちらは本編の拍手機能御礼小話に掲載していた連載小話を改稿の上、

再掲載したものです。

今話は全4話にて完結。随時追加していきます!


拍手機能にも別の小話を随時掲載しておりますので、そちらも

あわせてどうぞ♪

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