そのろく!
『放課後、誰もいなくなったら3年5組に来てください。待っています』
それがある日、部室へと急ぐ俺の下駄箱に入っていた手紙の内容だった。
普通に考えればラブレターに似せた相田あたりのイタズラだろう。
俺は部室に急ぎたかったのだが最近あいつとツルんでやっていないので、この程度のイタズラなら引っかかってやろうと寛大な心で教室へ向かった。
しかし教室にドヤ顔の相田の姿は無く変わりに3年2組の小森がいた。
正直意表をつかれたね。
まさか本当に女子がいるとは思わなかった。
しかしこいつもグルのなのかもしれない。
「この手紙、小森さんが書いたの?」
「そうだよ」
そう微笑む。男子の間で大人気の小森だ。たしかに可愛い。
「私と付き合ってください。坂元君のことが好きです」
自分の耳を疑う。今小森はなんて言った?
付き合ってください?俺と?
絶対おかしい。第一俺は女子とほとんど会話をしない。
ドッキリならもういいだろう。出て来い相田。
「何キョロキョロしてるの?嘘じゃないよ。坂元君のことが好きです」
「ちょ、ちょっと待って。俺小森さんと喋ったこともないよね?何で俺?てか彼氏いるって聞いてたけど」
俺の動揺ぶりに小森がクスクスと笑い声をたてる。
「先週別れたよ。カッコいい坂元君が好きです。付き合ってください」
先週別れた?そんなにコロコロ好きな奴を変えるのか、こいつは。それで俺が好き?てことは何だ、俺の見た目に惚れたって事か。なるほどね。
ふざけるなよ。
「無理です。ごめんなさい」
教室から出て行こうとする。時間の無駄だった。早く部室に行こう。
「待って!」
俺は小森に抱きしめられていた。
「お願い、付き合って」
そうねだられる。こいつにははっきり言わないと分からないのか。
「すぐ好きな奴を変える人、見た目で好きになる人とはお付き合いできません、さよなら」
そう言った途端、数人女子が教室に入ってくる。
いつも小森とつるんでいる派手なグループ。こいつら聞いていたのか。
「坂元意味わかんない、ちーが好きって言ってんのに付き合わないとか何様?」
「最低!ちーが可哀想だと思わないの?」
もう躊躇はなかった。早足で学校を後にする。
さっさと家に帰りチャリで若高へ。
先輩達に気づかれると面倒だ。いつもどおりのテンションを心がけよう。
もう小雪先輩が恐ろしい勢いでドアを開けることもなくなり俺は平和に部室に足を踏み入れる。
「こんちはー」
そして今日ものどかに練習したり先輩達と放課後の時間を潰していると小雪先輩が俺のことをじっと見つめてきた。
「な、なんですか」
てか顔近すぎ。
「ふとしくん何か悩み事あるでしょ」
珍しく真面目な小雪先輩の声。
「悩み事なんかないです。」
「学校でなんかあったでしょ」
この人は本当に勘が鋭いな。
「エスパーですか」
「何があったの?」
別に聞かれて嘘をつく事でもないか。
「クラスの女子に告られただけです」
「えー!」
「若いっていいねぇ」
とさっちん先輩。
「でも何で元気ないの?」
普通どおりにしてたはずなんだけどな。
「断ったらボロクソに言われたからですかね」
「その子、可愛いい?」
あー君先輩が会話に加わる。
「クラスで人気はあります」
「じゃなんで断るんだよ!バカ!」
酷い言われようだ。
「だって一言も会話したことなかったんですよ、それで俺の見た目だけで好きになって付き合ってくださいなんて絶対嫌です」
「でも、実際そんなもんじゃないの、中学生って」
と美涼先輩。
「最初見た目でいい印象を持ったりするのは分かります。でも普通そこから会話なり何なりして本当に相手のことが本当に好きになるんじゃないですか?」
「ふとしくんは真面目だねー」
「普通ですよ。それに俺はその子の事別に好きでもなんでもなかったですし」
「へー、そーなんだ」
「もうこの話は辞めましょうよ、練習しましょう練習」
「そうしよっかー」
みんなそれぞれ個人練習を始める。
しつこく聞いてくる人がいないからこの部は心地がいいのかもしれない。
次の日。
さっそく昨日の事は話題になっていた。
「お前小森フったんだってなー」
俺が席に着くと待ってましたとばかりに前の席の相田が話しかけてくる。
「どーでもいいだろ、お前には」
「なんでフったのよ、可愛いじゃん」
「見た目で選んでたら好きな人なんて何十人っているわ、俺そーいうの無理」
「昔からマジメすぎんだよ、坂元は」
小森のグループからのきつい視線がよく分かる。めんどくせぇ。
真面目に学校の授業を受け終わり部室へ。
「こんちは」
部室にはあー君先輩を除いた全員。
「いらっしゃーい」
今日も小雪先輩は笑顔で出迎えてくれる。
最近俺とあー君先輩は部室でオセロをしていた。
ふとしくんとかかれた俺用のイスに座りあー君先輩が来るのを待つ。
「おっすー」
あー君先輩登場。
練習は毎日少しだけで今日も俺達はオセロで暇を潰す。
「そーいえば思ったんですけど」
パチリとあー君先輩の白を黒に変える。
「何?」
ギターの弦を変えていた小雪先輩がこちらに目は向けずに言う。
「俺達のバンドって名前無いんですか?」
沈黙。
「そいえばそだなー」
とさっちん先輩。
「そんなこと考えたことも無かったよ」
「何か思いつきます?」
ヤバイ、白に四隅を取られてしまった。
「メンバーの頭文字を入れるとかがベターだよね」
美涼先輩が言う。
「日下部、天宮、紺野、坂元、井上・・・K、A、K、S、Iか」
頭の中で想像してみる。
「KASIKとか?」
とあー君先輩。
「確かにそれっぽいですけど、なんかしっくり来ないっすね」
「SKAIでスカイとかどぉよ!」
弦を張り替え終わった小雪先輩がドヤ顔で言う。
「一人いないじゃないですか!それにスカイはSKYだったと思います」
「Kが2人居るのが紛らわしいんだよ」
とKUSAKABEさっちん先輩。
「別に今決めなくてもいいんじゃない?」
美涼先輩が言う。
「そですね」
その話題が終わる頃にはボードの上は白で埋め尽くされていた。