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「お夕飯も美味しいぃぃ・・・・・・」


「おかわりもありますから、ゆっくり食べてくださいね」


「ありがとうございまふぅ」



お風呂で必要以上に親睦を深めることができた唯は、無事に六花といろはへの警戒心を無くしてしまうほどにまで馴染んでしまいました。

いろはが作ってくれた夕飯を泣きながら食べるという、あまりの美味しさに感動しているのか微妙に分かりづらい有様です。


本日のディナーは、炊きたて白米に紅鮭の塩焼き、そしてお昼の味噌汁という王道の日本食でした。

ついでにキンキンに冷えた麦茶とたくあんを添えてあげることで、日本人の遺伝子を刺激された唯は全身から幸せオーラが漏れ出ています。

それを見た六花が、思わずいろはに「良かったな」と言ってしまうくらいにはドバドバと出ていました。



「はい。あの三人も美味しいとは言ってくれるのですが・・・・・・ここまで全身から幸せを放出している方は初めてなので、なんだか凄く新鮮でむず痒いです」



はにかみながら手を頬に当てるいろはの姿に全お天道様がノックアウトされてしまいました。

これでは常に情景を言葉に変換して画面の向こうへ発信しなければならない面倒な役割を放棄してしまうに等しい衝撃です。



◇◇◇



「まさか本当に役割を放り出すとか誰が思うんだよ。夕飯終わっちまったぞ」



仕方の無い犠牲が出てしまったことに対しては無い胸が痛みもしませんが、仕方の無いことは防ぎようも予防のしようもありません。


それよりも、現在夕飯を終えた三人はそれぞれ思い思いに残りの一日を過ごすことに決めたようです。

唯は昼過ぎに届いた自室の荷物をある程度配置してしまおうと部屋に戻りました。

プリティわらしいろはちゃんは食後の片付けと戸締り確認をしています。

六花は少し夜風に当たるため、中庭に聳える桜の大樹を眺めながら縁側に横たわっていました。

いろはが働いている時にダラけるとは躾のなっていない犬のような醜態でしょう。



「オマエほんとに当たり強いなコラ。愛情を込めて育ててんのにお母さんにばかり甘えて塩対応ばかりされるお父さんの気分だわ。世のお父さん可哀想だな」



六花を親だなんて。

どちらかといえば親よりも、どんなにいびり倒しても絶対服従させられる弟や妹のポジションが近いでしょうか。

お天道様を子供扱いするとは、どれだけ罪深いことをしたのか理解できていないに違いありません。


すると、突然それなりに強い風が吹き抜けて大量の桜が舞い散りました。

優しい満月の月明かりに照らされて淡い緋色に光る桜吹雪は、毎年この時期にのみ見られる白雪邸の名物として有名です。

優に建物よりも高く伸びる大変立派な樹は、近隣住民の自宅花見スポットでもありました。


ちなみに、散った花弁は家の中には一切入らないよう風が操作され、掃除する必要が無いというステキ仕様となっています。



「・・・・・・」



・・・・・・。



「───なんか言わねぇのかよ」



つい、昔のことを思い出して感傷に浸っていたお天道様に対し、六花はココ最近稀に見るほど優しい声で話しかけてきました。

一体この沈黙に何を感じたのかはわかりませんが、新学期、新年度、新校舎、などの”新”の文字を見て六花とお天道様の出会いのシーンを思い出していたりいなかったりします。


つまり勘違い、思い過ごし。

押してダメなら引いてみろとは言いますが、ここまで綺麗に罠にかかる動物は珍獣よりも珍しいのではないでしょうか。



「はっ───照れ隠しとは可愛いことをするようになったじゃねぇか。オレが何年オマエの罵詈雑言に付き合ってきたと思ってる。初めの頃はあんな無機質なくせに知りたがりだったってのによ・・・・・・マジでどうしてこんな不良に育ったのやら」



お天道様は昔からこの性格です。

六花を虐げ、その反応を観察し、どうすればよりもっと表情を変化させることができるのか試行錯誤を重ねながら、そんな事よりもいろはの観察を優先する。

生まれてから今の今まで一貫した姿勢を保っている非常に一途な存在でした。



「はいはい・・・そうだな。オマエは昔から、オレの後を・・・ひょこひょこと、くっついて、ばかり・・・・・・だった・・・も、ん・・・・・・な───」



ずっと目を眠たそうにショボショボさせながら話していた六花ですが、とうとう眠気に逆らえなくなったのでしょう。

どんどん声が小さくなっていったかと思えば、すぅすぅ規則正しい呼吸をしながら眠りこけてしまっていました。


雪も溶け切り、桜の季節がやって来たとはいえまだ夜は肌寒いのです。

たとえ雪の申し子だとしても風邪をひく時は引いてしまう軟弱な妖である六花がこのまま何もなしでモーニングしてしまうと、明日の朝には分厚い布団の中へ強制連行されて監禁されてしまうことでしょう。


不幸なことに、今は唯もいろはも手が離せず六花の現状には誰も気づいていません。

このままでは本当に明日一日いろはの看病が確定してしまいます。


────。



「・・・・・・はぁ、まったく本当に仕方ありませんね」



まるで画面の端から登場するかのように突然現れたオレンジ髪の美少女。

大きく開かれた金色の瞳は、ポニーテールに括られた髪と相まって非常に快活な印象を与えていた。

そんな彼女が手にしているのはブランケットやタオルケットではなく、キチンとした羽毛布団。


日頃から六花が愛用している布団だというソレを優しい手つきで彼女に掛けていく。

やがて全身を羽毛布団で覆った少女は六花の頭近くへ腰を下ろすと、そのまま六花の頭を腫れ物を扱うかのように優しく動かし自身の太ももへと乗せた。



「もう。ワタシが抜けるとナレーションが無機質な感じになっちゃうじゃないですか。愛嬌のある可愛らしいナレーションが売りなのに」



この少女こそ、先程まで地の文として現状を伝えていた張本人。

すなわち、お天道様その人だった。


目の前を桜の花びらがヒラヒラと踊り、やがて踊り飽きたのか風に乗って月へと昇っていく。

その光景を静かに見ながら、少女は思う。


たまには照れ隠しをせず素直に感謝を伝えるのも悪くないかな、と。



「六花といると退屈せずに済みます。こんなイジワルなワタシですが、これからも一緒にいてくれますかね?」



もちろん、その独白が夢の世界へ旅行に出かけている六花に届くはずもない。

しかし、気のせいだろうか。

六花の穏やかな寝顔に柔らかな変化があったように見えたのは。

きっとこの優しい夜の幻覚だったのかもしれない。


それでも、たまにある正直な日に素敵な夢を見たっていいじゃないか。




百合ものの同人誌コミックって少ないと感じる。


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