05. 尾行
(うーん…………)
尾行に気づいていることを悟られないよう、僕は努めて普段通りに歩いた。手鏡で身だしなみを整えるふりをして、背後を窺う。
尾行されるのは初めてではないし、男にされたこともある。だけど、今後ろにいる男たちが纏う気配には、これまでの相手とは一線を画す「嫌な感じ」がある。
三人は中肉中背。服装はリネンのシャツに袖のないベスト、ゆったりとしたズボン、帽子と、街でごくありふれたものだ。
だが、目深に被った帽子から見え隠れする目がヤバい。蜘蛛の糸が絡まってできた糸くずみたいだ。粘着質で、ぐちゃぐちゃで、心の奥底が全く見えなくて気味が悪い。顏に見覚えもないし、街の人間でないことは間違いないだろう。
人攫いだろうか、と僕は考える。騎士団がどんなに追い回しても、人攫いはゴキブリ並みにしぶとく命脈を繋いでいると聞く。街の外には、見目の良い少年少女を高額で買う貴族の好事家がいて、そういう奴らのせいで人攫いもいなくならないのだと、近所のおばさんがしたり顔で言っていたっけ。真偽はともかく、僕の美貌なら攫いたくなるのも無理はない。
話しかけてちょっかいを出してやろうか、と考え、思い直す。万一があってはいけない。僕はこいつらには攫われたくない。
手鏡を覗きながら慎重に機をうかがっていると、女神さまの計らいか、突然強い風が吹いて、男たちの一人の帽子が飛ばされた。今だ! 三人の意識が帽子に向いた隙を逃さず、僕は一気に駆け出した。手近な裏路地に飛びこむ。暗くて狭い道をひたすら走って、曲がって、走った。
数多の手工業の職人が暮らす、このギークの街は「職人の街」と呼ばれている。
だが、「職人の街」と呼ばれる前の遥か昔、この地はカッセラ要塞を中心に成立した「騎士の街」だった。要塞が宙界戦争の終結に伴って放棄され、騎士団が街外れの詰所に追いやられても、街の各所にはなお昔日の面影が残っている。街の周りに張り巡らされた城壁、職人ギルド本部として使われているカッセラ要塞、そして僕が走っている裏路地。
街に広がる裏路地は、要塞に侵攻してくる敵を迷わせるべく、蟻の巣みたいに入り組んだ構造になっている。子供がいなくなったと思ったら、裏路地で泣いているのが見つかった、なんて事案もざらだ。街の外から来た人間が迷わず使いこなすなんて不可能だ。……もっとも、親方みたいな例外もいるけど。
何回曲がったか自分でも分からなくなった頃、僕は再び手鏡で背後を窺った。三人の男は———いない。安堵の溜息が漏れた。
念には念を入れて、遅刻しない程度に迂回して駅を目指そう。僕は乱れた髪を直しながら、足早に駅へ向かった。




