01. 再会
契神歴1833年、火の大陸メルポメネ州の街、ギーク
イブニが初めて僕の前に現れたのは、月の腹がせり出てきた春の夜だった。
その四日後、彼は再び僕の前に現れた。ギークの駅で共に働く、同僚として。
「今日からここで働くイブニです。十七です。……よろしくお願いします」
しかめ面の親方に腕を掴まれ、僕らの前に引き出されたイブニは、自分を見る顔をさっと見渡してから頭を下げた。男にしては長い緑の髪がずるりと垂れ下がる。髪の狭間から覗くワインレッドの瞳が、お辞儀をしている間も油断なく僕らを窺っていた。
「お、お前はあの時の!」
と、お決まりの台詞を言ってみたかったけれど、周りの目もあって断念。結局、二人きりで話すチャンスが巡ってきたのは、僕が仕事を終えた夕方になってからだった。
イブニが掃除を押しつけられたというロータリーに足を向ける。太陽の残照が乱反射する駅のロータリーを、イブニは黙々と箒で掃いていた。
痩せっぽちな青年だった。画家が鉛筆でささっと描いた下書きみたいに線が細い。強い風に吹かれたら、身体を構成する線が散り散りになって、どこかへ飛んでいってしまいそうだった。
また会ったね! と言うか? それとも気づいていないふりをして、様子見するか?
どう声をかけようか頭を悩ませながら、背後から近づくと、イブニががばりと振り向いた。思わず息を呑む。ぴかぴかの葡萄みたいな瞳が、安易に歯を立てることを拒む硬い光を放って、こちらを睨んでいた。
「僕、アスター・サンダフォード。ここで働いてるお前の同僚。睨まないでくれよ」
僕の自己紹介を聞いたイブニはたちまちバツの悪そうな顔になった。
「お前が親方の言っていたアスターか。睨んでごめん。その、よろしく」
「よろしく!」
箒を持つ手と反対の手を握り、思い切り振ってやると、イブニはぽかんと僕を見てくる。僕たち、これで友達な、と満面の笑みで宣言しつつも、内心僕はがっかりしていた。どうやら、彼は僕を覚えてないらしい。まあ、「会った」と言うには微妙な出会い方だったから仕方ないか。
「友達……」
初めて聞く異大陸の言語をとりあえず真似るみたいに、イブニはその単語を繰り返し発音した。友達、友達。ワインレッドの瞳の奥に、困惑が黒々と沈殿していく。
これはこれは。落胆が一気に吹き飛ぶ。
自分で言うのもなんだが、僕は自分の容姿に格別の自信がある。
蜂蜜色の陽炎のように揺らめく髪。長い睫毛の繭にくるまれた、蜻蛉よりも大きな、妖しく輝くコバルトグリーンの瞳。高い鼻梁から落ちた唇は、天道虫のように艶めかしく蹲る赤。極上のパーツの数々は、女神さまによって優美な輪郭の中に完璧な比率で並べられ、表情を変えるたびに鱗粉が舞うような輝きを放つ。
そんな僕が歯を見せて笑いかけようものなら、女の子ならば頬を染め、男でも目じりを下げる。人間は美形に微笑まれると気を良くするというこの世の真理をフル活用して、僕は今日まで人生を渡ってきた。
が、イブニは違う。新鮮で面白いけれど、同時に癪に障る奴だ。
辛気臭い顔してないで、僕の美貌を見て幸せになっとけばいいのに。
「ごめんごめん! 僕、人との距離感近めらしくてさー。僕にとってイブニは友達だけど、イブニはイブニの距離感で、僕のこと、ゆっくり友達って思ってくれたらいいから」
内心を隠し、分かんないことがあったらいつでも頼ってねと付け加える。すると、イブニはようやくぎくしゃくと頬を持ち上げた。おお。やや歪なのが勿体ないが、線画にぽちりと一滴落ちた紅みたいな、人を惹きつける笑顔だ。
「俺、あまり同年代の人と話したことがないから、おかしなところがあったら言ってくれ。アスター……くん?」
「アスターでいいって。同い年だし」
「じゃあ、アスター。頼みがあるんだが……」




