盗賊退治
ハンターギルドに帰ったアルク達は話を聞いたホーリーに締め上げられていた。
「ぐっ……がっ……」
「ごめんなさいホーリー君。離してあげて、死んじゃう!」
「早く救助隊を組織してください」
首を捕まれ持ち上げられるアルク。それを庇うファミィ。受付嬢に救助を申請するヨルン。
「襲われた場所を教えろ」
アルクを締め上げながら目だけをギョロリとヨルンに向け、ホーリーが聞く。
「私の機体のレコーダーに道の記録が残ってる筈だから、手を離して」
「……」
ヨルンの言葉にホーリーが手を離し、ドサ、とアルクが床に放られる。
「アルク!!」
駆け寄るファミィ。
「早くレコーダーを見せろ」
抑揚のない声でホーリーがヨルンに告げる。
「待ってくれ!!」
アルクが叫ぶ。
「俺も救助に参加させてくれ!!」
「早く見せろ」
ホーリーはそれを無視してヨルンに話しかける。
「頼む!!」
ホーリーがアルクを見た。
「いい加減にしろ」
ゴミを見る目だった。
「お前に何が出来る?」
「何がやれるかわからない。だが、何でもやる」
ホーリーは思案する。
「何でもと言いましたね。命は賭けられますか?」
「ああ、当然だ!」
アルクは希望が見えたかのような笑顔でそう言った。
「捕らえた獲物が、こんな小娘とはな!」
そう言ってダリルは縛られたステラとジェシカを値踏みした。
「シャドウニンジャの修理の目処は立ちそうです」
盗賊がそう報告してくる。
「こいつらからいただいた機体もそこそこいい物だったし、若い女が二人も手に入るとはな。特にそこのお前」
ステラを見て言う。
「お前、処女か?」
「だから何よ」
「処女なら何もしないでおいてやる。お前みたいな女は金持ちが買ってくれるからな。処女なら尚更だ」
そう言って次はジェシカの方を見る。
「こいつは情報を吐かせた後、お前達の好きにしていいぞ」
部下達に向かってそう言った。
「ヒャッホー!!」
「女だあ!!」
盗賊たちが騒ぐ。
盗賊達に混じった女性が憐れむような、しかしホッとしたような表情でジェシカを見る。
ここでの女性の扱いがどんなものかがわかる。
「待って!!ジェシカがそうなるなら私も同じ目に合わせて!!」
と、ステラ。
「やめときな。お前じゃ耐えられないよ」
ジェシカはそう言った。
「こっちだ!!」
盗賊達に連れられてジェシカが別室へと連れていかれる。
「お前はこっちだ」
そう言われて牢に案内される。
牢の中で、ステラはホーリーの事を考えていた。
もしホーリーを帰さなかったら、こんな事にはならなかったのかな。
そう言えば、帰す時、ホーリーに部屋の鍵渡してなかったな。昨日はどうしてたのかな。また操縦席で寝たのかな。
助けに来てくれたりしないかな。
もし、ここでホーリーが助けに来てくれたら、私────
ファミィから聞いた地点の手前で大焦熱を降り、見回りのゴブーリキの足跡を辿り、途中で襲ってきたモンスターを真っ二つにし、地雷原を大焦熱の索敵で避け、着いた先には渓谷を削り出して造られた砦が有った。
ここが盗賊たちのアジトだろう。
ホーリーはアジトの壁をじっと見ていた。
その壁の一つ向こう、アジトの廊下で2人の盗賊団員が歩いている。
「金髪の方の捕虜、上玉だったな。なんとかしてヤれねえかなあ」
「ああ、アレはたまんねえぜ」
「でも、勝手に手を出したらボスにドヤされるな」
「もう一人の方は好きにしていいっつってたな。アレも結構なモンだったし、アレで我慢しようぜ」
「なあ、手や口ならいいんじゃねえか?要は膜さえついてりゃいいんだろ?」
「乳でもいいな。お前ボスに言ってみろよ」
「ハハハッ」
下卑た会話をしているその途中で彼らの意識は途切れ、二度と目覚めることはなかった。
二人の盗賊ごと斬り裂いた外壁を押し広げて、ホーリーは中に侵入する。
(一人残してステラさんの居場所を聞けば良かったかな。いやそれだと壁をこじ開けてる間に連絡されるか。)
二人の死体を見る。
(二人の死体を片付けるか?いや壁の傷を見られた時点で気付かれる。時間のほうが惜しい)
ホーリーは走った。
小便をするステラの様子を見張りがニヤニヤと見ている。
大事な所は手で隠している。
そのせいでちょっと手に付いた。
こっち見ないで、と言っても無駄だった。遠慮なくガン見してくる。
その時だった。
「ここか?」
廊下の方で聞き覚えのある声がした。
ガチャリ、と牢のある部屋のドアが開く音がする。
「誰だ?」
見張りがドアに向かって銃口を向ける。
次の瞬間、ジュウ、と見張りの上半身が蒸発した。
(!?)
ズル、ズル、と何かを引きずる音と共に、足音が近づいてくる。
「ホーリー!?」
現れたのはホーリーだった。
右手にプラズマガンを構え、左に盗賊らしき男を掴んで引きずっている。
盗賊の男は肩を外されたようで、変な風に曲がっている。
「な、本当だったろ?命だけは助けてくれ!」
「そうだな。寝てていいぞ」
そう言ってホーリーは男を放る。その様子を見て呆気にとられているステラの方を見て言った。
「逃げますよ。パンツ履いて下さい」
ステラは便器に座ったままだった。
「ま、待って、ジェシカも助けないと」
パンツを履きながらステラが言う。
「ジェシカ?」
「一緒に捕まってるの。私とは違う所に連れて行かれて、今拷問されてるか、それとも……」
「それとも?」
「ホーリーには、刺激の強い事に、なってる、かも」
ステラなりに慎重に言葉を選んで言った。
ホーリーは疑問符を浮かべたような顔をして首を傾げたが、すぐに気を取り直して、
「とりあえずそこから出ましょうか」
と言って鉄格子を掴む。
ギギギ、という音とともに鉄格子がぐにゃりと曲がり、人間一人が通れる位の隙間ができた。
ステラはもうこれ位では驚かなくなっていた。
「おい」
ホーリーが先程放った男に銃を向けながら呼びかけた。
「聞きたいことが増えた。もう一働きしてもらう」
「ク、クソッタレが!」
ジェシカが閉じ込められている部屋に入ると、ジェシカは無残な姿になっていた。
全裸で、精液が垂れている。
全身が傷だらけで、髪は乱雑に引っ張られたのだろう、乱れている。
殴られたのだろう、顔が腫れている。
「感動の再開だな。だがここまでだ」
ジェシカの傍に、ダリル達がいた。
「お前達、撃て!」
そう言われてダリルの取り巻き達が撃つ前に、ホーリーは刀を横に薙ぎ払った。
「!?」
それに反応できたのはダリルだけで、部下たちは真っ二つだった。
「ク、クソ!なんだあのガキは!?」
ダリルは奥に逃げて行った。
「ジェシカ!!」
ステラが駆け寄り、急いで回復魔法をかける。
ジェシカの状態が少しはマシになった。
ホーリーも医療キットで治療する。
「へへ、来て、くれたのか……」
「私の為に、ごめんね、ごめんね……」
ステラがジェシカを抱きしめる。
「へへ、気にすんなよ。こんな事はハンターやってりゃいつもの事さ」
ホーリーの回復剤の注射とステラの回復魔法で大分容体が回復したジェシカ。
とりあえず、何か着るものはないかと探していたら、ホーリーが無言でコートをジェシカにかけた。
「あ、ありがとう」
「立てますか?」
「ああ、もう大丈夫だ。」
そのままアレックスとブロウラーを回収してアジトの外に出ると、ホーリーは空に向かって信号弾を撃った。
『よし、俺達の出番だ!』
信号弾の光を見て、機甲獣の中で待機していたアルク達が動き出す。
『忘れちゃ駄目だよ、これは陽動だって言われたでしょ』
『もう勝手なことしちゃダメ』
ファミィとヨルンがアルクに注意する。
『任せとけ!』
そう言いながらアルクは信号弾の方向に向かう。
見回りのゴブーリキ2体がやって来てミサイルとレーザーを発射する。
それを避け……きれず、装甲が削られる。
『ぐあ!?クッソオオオオオオ!!』
頭に血が上ったアルクがゴブーリキに突撃する。
『ちょっとアルク!?』
『任せとけって何に対して言ったの』
そう言いながら援護射撃をする二人。
ゴブーリキは相手が3体だということを確認して、撤退する。
『逃がすか!!』
『ダメ!アルク、戻って!!』
二人が留めたその時、新たな通信が入った。
『何やってんだ、アルク』
『ジェシカ!!それにステラも!!』
現れたアレックスとブロウラー、そしてジェシカからの通信で二人が無事だとわかったアルクは、少しだけ頭を冷やした。
『私はホーリーをダイショウネツの所に送っていくよ!!」
と、ステラが戦線を離脱する。
その時、ダリルのトールハンマーが姿を現した。
『俺の部隊を滅茶苦茶にしやがって、もう許さんぞ!!』
そう言いながら右腕のビームキャノンをジェシカの機体に向かって発射する。
『そうかい!!』
そう言ってジェシカはバトルアックスを構えたが、振り下ろす前にトールハンマーのタックルが決まる。
『このトールハンマーに真正面から勝負を挑んでくるとはな!!』
『くっ!!』
距離を取って牽制しようにも短距離ミサイルは先の戦闘でもう使い果たし、当然補充もされていない。残るは腕の小型レーザーだが、こんな物を当ててもトールハンマー相手では牽制にもならないだろう。怯みながらなんとか斧を当てられないかと振り下ろそうとするジェシカだが、その前にトールハンマーに組み付かれる。
『ジェシカ!!』
アルクがトールハンマーに突っ込む。
『ふん!!』
ダリルは突っ込んでくるアルクの機体にブロウラーを投げつける。
『うわあああああ!!』
アルクの機体はたまらず尻餅をつく。
トールハンマーの胸の砲門から光が放たれる。
ワイドブラスター。
大型機に多く採用される、掃討用の拡散ビーム砲である。
射程は短く、装甲貫通力も低いが範囲が広く、中量級以下の敵には絶大な効果を発揮する。
その拡散ビームが、アルクとジェシカに降り注ぐ。
『くっ!!』
ジェシカのブロウラーはビームを受けながら範囲外に逃げようとする。
『ぐあああああ!!』
『被弾するたびに叫ぶなよ!!攻撃されてるのは機体なのになんでお前が苦しんでんだ!?』
叫ぶアルクにジェシカがツッコミを入れる。
『キャアアアア!!』
『アルク!!』
ファミィとヨルンが助けを呼ぶ。
突撃したアルクに距離を離された二人がヘルハウンドとゴブーリキに群がられていた。
『ファミィ!!私から離れて敵を狙って!!』
レールガンでゴブーリキを掃討しながらヨルンがファミィに指示する。
『でも、それだとヨルンが集中砲火を浴びちゃう!!』
ファミィの機体ならゴブーリキの群れから距離を取ることも、遠くからヘルハウンドを狙撃することも容易だろう。
しかし、ファミィの気質がヨルンを見捨てる事を良しとしなかった。
そこに、彼女らから見れば遠くにいる筈のトールハンマーが長距離ミサイルを撃ちこむ。
(クソ、俺が二人から目を離したばっかりに……!!)
アルクは猛省したが、それも長くは続かなかった。
『コイツは私が足止めする!!お前は二人の所に行け!!』
そう言って斬りかかるジェシカから距離を取って、ビームキャノンを放つトールハンマー。
『チッ』
『ジェシカ!?クッソォォォォォォ!!』
トールハンマーの方が近くに居たからだろう。冷静さを失ったアルクがトールハンマーに斬りかかった。
『フン、素人か!!』
ダリルの嘲りとともにあっさりと躱される剣戟。
カウンターのパンチを食らって、装甲が砕け散り、内部機構が露出するアルクの機体。
『ぐあああああ!!』
トールハンマーはアルクの機体を掴み、盾にする。
トールハンマーがビームキャノンをチャージし始める。
『コイツに撃つか、お前が撃たれるか、それともコイツごと俺を斬るかあ!?』
『くっ!!』
ファミィとヨルンはこちらの援護には来られない。
味方機を盾にされては、大振りな斧での攻撃は味方を巻き込む可能性がある。それ以前に、ダリルの技量を考えると、迂闊に切り込んだ所でトールハンマーに逃げられてアルクだけを斬る、という結果になりかねない。
万事休すかと思われたその時。
『高エネルギー反応!?何だこの数値は!?』
ダリルが焦った声を出す。
その瞬間、空間が割れ、トールハンマーがアルクの機体ごと爆発した。
『ホーリー!!撃つのを止めて!!味方機が盾にされてるよ!!』
『ステラ!!』
聞こえてきたステラの声に、ジェシカが喜びの声を上げる。
『皆!!お待たせ!』
ステラのアレックスと、ホーリーの大焦熱が戦線に加わる。
『大焦熱だと!?』
大焦熱の姿を確認したダリルが驚きの声を上げる。
『なぜこんな所に!?』
『トールハンマー乗りがビビるほどなのか?その機体』
ジェシカがステラ達に聞く。援軍の到着に安堵したらしく、声が少し落ち着いていた。
『そうみたいだね!!』
ファミィ達の所に駆けつけ、主砲とビームライフルを連射モードにしてゴブーリキ達を掃討しながらステラが答える。
『クソッ、このアジトは放棄する!!ズラかるぞ!!』
ダリルの声に反応して、シャドーニンジャとゴブーリキ達が撤退していく。
『そいつは賞金首だ!!逃がすな!!』
『賞金首?』
ジェシカの声にホーリーが疑問形で答える。
『ダリル・シェーファー。350000ボルの賞金首だ』
『ああ、盗賊団の首領の……もう少しマシな戦力かと思っていたけど、大したことないですね……』
『おっと、追ってくるなよ。コイツがどうなってもいいのか?』
アルクの機体を盾にしながらダリルが言う。
ホーリーは無言で大焦熱の大太刀を構え、大焦熱を加速させる。
鈍重そうな姿からは想像もできない、瞬間移動のような爆発的な勢いで、大焦熱が一気に距離を詰める。
『滅尽砲!!』
そして、アルクの機体ごとトールハンマーの左半身と右半身が分かたれる。
『な、何!?』
ダリルが信じられない、といった声をあげる。
大焦熱は邪魔だ、とばかりにアルクの機体を退かせ、トールハンマーの分厚い装甲を指でベキベキとこじ開けて操縦席を剥き出しにする。
中に入っていたダリルは、両手を上げて降参の意を示していた。
『おい、俺ごと殺す気かよ!?』
そう言うアルクに、ホーリーは顔色一つ変えずに、
『命を賭けるって、言いましたよね』
と答えた。
『畜生、チクショウ……!!』
(俺にももっと強力な機体があれば……!!)
アルクは悔しさでわなわなと震えた。




