警備の仕事のはずだった
穀倉地帯を踏み潰さないように歩いて、ステラ達は村に着いた。
周りには広大な穀倉地帯が広がっている。
「よくぞおいでくださいました」
と、村長が挨拶に来た。
「よろしくお願いします」
とアルクが答える。
「では早速説明を──」
「じゃあ、皆散開して村の警備に当たろう!」
「おい、村長から詳しい説明聞けよ」
と、ジェシカが言う。
「説明?何の?」
あっけらかんとアルクが言う。
「そう言えば私達も詳しい事聞いてない」
と、ステラ。
「あの、もう一人分の食料を用意しなければいけないのですか?」
村長が困った顔で言う。
「駄目ですか?」
ステラが不安そうな目で聞く。
「この後来る討伐隊の準備もしなければいけないので……我々も裕福というわけではありません。依頼料も、必死にかき集めたものであの程度です」
「だ、そうだ。ホーリー。悪いが帰ってくれ」
「ちょっとアルク!」
ステラが抗議の声を上げる。
「私は構いませんが」
ホーリーが口を開く。
「あなた方だけで依頼を完遂できるとは思えません」
「何だと!お前、この前から俺達の事馬鹿にしすぎだろ!」
「警備の依頼をわざわざハンターに出すという事は、仮想敵が居る、という事ですね?」
ホーリーが村長に向かって言う。
「はい、最近盗賊団に襲われまして……前は街道を通る輸送機を襲って居たらしいのですが、奴らが現れたことによって輸送機のルートが変わり、次の標的に選ばれたのがこの村なのです」
「じゃあ、俺達で盗賊団ごとやっつければいいんだな!」
アルクが妙な方向でやる気を出した。
「おお!やってくださるのか!」
「それはアタシ達の仕事じゃねえ」
「そうだよ、受付の人も、討伐じゃなくて警備の仕事です、って言ってたよ」
「それに私達が居ない間に村が襲われたらどうするの」
ジェシカ、ファミィ、ヨルンが口々に文句を言う。
「でも、討伐数に応じて軍からボーナスが出るんだぜ?逆にそれがないと安すぎるよ」
「ちょっと待ってギルドじゃなくて軍からボーナスが出るの?どういう事?ちゃんと話して」
「ああ、3日以内に食料の備蓄をよこせって言われたんだってよ。で、俺達が3日間泊まり込みで警備するんだ」
「それって戦闘が絶対にあるって事だよね?」
ステラが愕然とする。
「そう、この村の用意できる報酬じゃ安すぎるから政府軍が追加でボーナスをくれるってわけ」
「ていうか3日も泊まり込むなんて聞いてない!」
「警備の仕事なんだから、泊まり込みは当たり前だろ?」
キョトンとした顔でアルクが言う。
「ハンターギルドに依頼が行くって言うのを見越してるだろうから、それなりの戦力か作戦を用意してるでしょうね」
ホーリーが呆れた顔で言う。
「大丈夫だ!俺達Cランクに上がって機体が強化されたからな!」
確かにアルクたちの機体は少し外見が変わっている。
「だから今回はお前の付き添いは無しだ。俺達だけでなんとかしてみせる。子供はこんな危ないことをするな!」
アルクがホーリーに言う。
「でも……」
ステラはまだ不安を隠せない。
「どうしますか?ステラさん」
ホーリーが聞いてくる。
「ステラからも言ってやってくれ!保護者に付いて回るようなやつは足手纏いだってな!」
その言葉を聞いて、はっとする。保護者に付いてきてもらっているのは自分だ。いつまでこの子に頼っているつもりだ、と。
「うん、アルクの言う通りだよ。ホーリーはまだ子供なんだよ。こんな危険な仕事をしてもいい歳じゃない。それに私はもうCランクだよ。一人で仕事を受けられる、一人前のハンターだよ。ギルドだってCランクだけで出来る仕事だって判断してランクを決めている筈だし、多分大丈夫」
ステラはそう自分の考えを言った。
虚勢でないと言えば嘘になる。
だが、このままだと自分はいつまで経ってもホーリーのお荷物だ。
「では、私は帰ります」
ホーリーはそう言って振り返り、大焦熱のところに向かう。他ならぬステラが自分で大丈夫だと言っている以上、自分が残る意味はない。
「じゃあ、全機散開。周囲の見回りをしよう」
そう言ってアルクが指示を出す。
「散開とか言う前に誰がどこを警備するのか教えてくれよ」
と、ジェシカ。
確かにいきなり散開と言われてもどこに向かえばいいのかわからない。
「えーっと、じゃあ俺は北で、ステラは南で──」
アルクが適当に決める。
「ね、ねえ。皆索敵の訓練とか受けてるんだよね?」
頼りない指示にステラが不安になって尋ねる。
「訓練どころか、実戦でやってるよ」
と、アルク。
「私はもうすぐBランクだ。警備や盗賊討伐の仕事なんていくらでもやってる」
と、ジェシカ。
それなら、シミュレーターだけの自分よりはマシだろう。
「うん、なら皆の指示通りに動く」
「じゃあ、ジェシカが西で──」
アルクが割り振りを決める。
その日は特に何も起こらなかった。
「結構美味いな、このメシ」
村から提供された食事は粗末なものだったが、空腹のせいか、それとも本当によく調理されているのか、結構おいしかった。
「贅沢なものはありませんが、お代わりだけはたくさんありますからね。遠慮しないでください」
と、村人のおばさんが言う。
「え、村長さんが食料が一人分増えるのはきついって、それで仲間が一人帰っちゃったんですけど」
と、ステラ。
「あら、そうだったの?ハンターさんだから、高い食材を用意しないといけないとでも思ったのかしらねえ」
「気にするなよ、ステラだってあんな子供に危険な仕事をさせるべきじゃないって言ってたろ?」
「皆様、お食事は楽しんでいただけておりますか」
と、村長がやってきた。
「ええ、まあ」
「よかった。盗賊に狙われると、ハンターや軍を呼ばなくてはならなくなる。そして、ハンターも軍も、飯はこちらもちなので満足いただけなかったら帰ってしまう事が多いのです」
「そんな事が……」
「許せねえぜ!」
「この星は内戦が終わったばかり……政府も安定していません。ハンターギルドも今は味方していますが、いつ今の盗賊側に寝返る事か」
「寝返る?ハンターギルドが?」
「あの盗賊達は反政府派の子飼いなのです。勢力図がひっくり返ってあちら側が政府と認定されれば教会もハンタードルドもあちらを応援するようになるでしょう」
「そんな……」
ステラはその現実にショックを受けた。
「田舎星じゃよくある事だろ。やれこっちの勢力が有利だのこっちが正しいだの言って、ハンターギルドや教会を引き込もうとするんだ。ギルドも教会も、大抵中立の立場になるんだが、今回の盗賊はよっぽど悪質らしくてな。ギルドの支部を制圧したことがある」
ジェシカが説明する。
「ハンターギルドを制圧!?そんなことできるの?なんでやるの?」
「力を持った馬鹿がよく勘違いしてギルドの支部に喧嘩売るんだよ。やったら全員永久に賞金首だ」
「そこまでならよかったのですが、そのせいで今の政府に完全に肩入れしている状態。それをいい事に政府は圧政を敷いているのです」
「その話、長くなる?」
ジェシカの言葉に棘が出てくる。
「おお、これは失礼。でもこれだけは聞いてくだされ。政府軍の討伐体が来れば、間違いなくこの村は徴収と言って搾り取られます」
「もしかして、アタシで倒せとか言うんじゃねえだろうな?もしそうなら追加料金はキッチリ払ってもらうぞ」
「失礼しました。あなた方は正義感が強そうだったのでつい……」
「ほらほら村長、そんな辛気臭い話はやめて!ごめんなさいね、気にせず食べて頂戴」
おばちゃんがそういうが、とても食事を楽しめる雰囲気ではなかった。
受付嬢はホーリーの機体が大焦熱である事を初めて知った。
なぜ知ったかと言えば、ホーリーが賞金首のモンスターを狩った討伐証明を大焦熱に持たせて見せたからであり、なぜ賞金首を狩ったかといえば、仲間はずれにされてイラ付いたからだ。
憂さ晴らしのついでに金までもらえるのだから、賞金首は良い。
ハンターでなくとも賞金が貰えるのだから尚良い。
「ホーリー君、凄いね。これ、10000ボルの賞金首よ」
「そうですね」
「それに、こんなにすごい機甲獣、私初めて見るわ」
受付嬢の話し方がなんだか馴れ馴れしい。やはり子供扱いされているのか。
「こんな凄い機体、どうやって手に入れたの?」
「内緒です」
「お姉さんにだけ教えてくれないかなあ?誰にも言わないから」
そういう事か。
大焦熱は現在市場に出回っていない。一度だけハンター用にデチューンされた物が販売されたが、大焦熱の運用には手間と金がかかるので、ハンターに人気が出なかったのである。
正規軍人でもない人間がこれを持って運用しているという事自体が何かを匂わせるものなのである。
「内緒、です」
「何か事情があるなら、私たちが守ってあげられるかもよ?」
「賞金をください」
「そうね。ではギルドに来てください」
受付嬢の口調が急に敬語になる。
もうこれ以上は聞かない、という事なのだろう。
ギルドに行き、受け取った10000ボルの束を懐にしまい、他の賞金首を探す。
賞金首:ダリル・シェーファー 350000ボル
盗賊団の親玉らしい。
盗賊団の親玉。きっと強力な機動兵器で武装しているだろう。周りにはそこそこの機動兵器に乗った取り巻きが数多くいる筈だ。
機動兵器の取り巻きは厄介だ。恐らく確実に重量級の大焦熱では避けきれないような集中砲火を浴びせて装甲を削ってくる。
下手をすると駆動系を狙ってくるかも知れない。
駆動系や内部機構をやられれば、こんな星では正規の部品が手に入らない大焦熱は、自己修復機能で直るのを待つしか無い。
それに何日かかるか。
ホーリーはその賞金首は後回しにして、別の手配書を探した。
ステラのアレックスが索敵結果を出す。
『うん、多分こっちから来てる』
『そうか』
ジェシカが報告を受けて返事をする。
『来た方向がわかるならこっちから仕掛けないか?奇襲がかけられるかも知れないぞ』
アルクが提案する。
『そうだな。それをやったら多分後には引けない事と、敵陣なんだから本格的な戦力と何かの罠が確実にあるってことを考えなければそういう選択肢も取れるかもな』
『行こう』
ジェシカの皮肉を聞かなかったかの様に、アルクが頑なに行こうとする。
『じゃあ決をとろう。行きたい奴』
誰も返事はしなかった。
『俺は一人でも行くぞ』
『いい加減にしろ。何焦ってんだよ。昨日言われた事気にしてんのか?あれ、多分人がよさそうなら誰にでも言ってるぞ。お前舐められてるんだよ』
『それでも、奴らを放置していたら村の人達はずっと苦しむ事になるんだ!』
『お前一人で行くって、正確な位置がわかるのか?今は方角がわかるだけだぞ』
『うっ……』
『わかったら撤収だ。ステラ、引き続き索敵を頼む』
『そうだ!ステラが付いてきてくれればいいんじゃないか!』
『ええっ!?私?』
急に話を振られてステラが焦る。
『頼む』
ステラにはアルクが無茶を言っているのだけはわかる。
『しょうがないなあアルクは』
ファミィが呆れ気味に話に入ってくる。
『痕跡があるなら私でも追跡出来るよ。行こう』
『ファミィ……』
『二人じゃ死にに行くようなものだよ。私も行く』
ヨルンも続く。
『ったくしょうがねーなあ!私も行くよ!』
ジェシカも一緒になった。
(ええー……)
『ただしファミィ、お前は残れ。逃げる事になったら足の遅いお前じゃ逃げ切れないからな。その代わり、私達が帰ってこなかったらハンターギルドに伝えろ。代わりにステラが入る』
(えっ私も行く事になってるの!?)
『ステラが先頭に行ってくれ。この中じゃステラの機体が一番いい索敵持ってるからな』
『ちょっと待って私行くって行ってない』
『えっ来ないのか!?』
ジェシカが驚いたように言う。
『なんでそこ疑問形なの?』
『そうか。行きたくないならいい』
『ステラさんが行ってくれたら心強いんですけど……』
『無理はしないで。なら私が索敵する』
『来てくれないのか……』
『わかったよ!私も行くよ!ファミィちゃん、あとは任せたよ!』
『そう来なくちゃな!お前も俺達の仲間だ!』
勝手に仲間認定された。
斥候のステラを先頭に、かなり離れてアルク達が進む。
『ここ、開けた所は地雷原だから気をつけてね』
そう言って各機にデータを送る。
全員ホバー移動だが、ここに仕掛けられているものはレーダーで移動中の物に反応して弾を飛ばす機動兵器用の地雷である。
『うっ』
『どうした?』
立ち止まるステラにジェシカが問いかける。
『ゴブーリキが2体。どうする?やる?』
ゴブーリキ。市場に出回っている物の中では一番安い機甲獣である。
頭は小柄な胴体と一体化して、その胴体の腹の部分に操縦席の入った装甲が突き出ている。ふっくらとしたイメージの胴体からは細くて頼りない手足が伸びている。
見るからに安物といった風情だ。
作業用の機甲獣なのだが、その安さゆえに盗賊とかがよく武装を持たせて運用している。
『落ち着け。様子を見たい。映像を送ってみてくれ』
そう言われて、ジェシカのブロウラーに映像を送る。
『んー、こいつら、気付いてないんじゃないのか?ていうか、こっち見てないぞ』
『あれ?』
ゴブーリキはこちらに背中を向けて、帰っている様だった。
『よし、着いていこう。ステラ、奴らの様子を見ておいてくれよ』
『うん』
そうしてゴブーリキに付いていくと、奴らは急にこちらを向いた。
ロックオンアラートが鳴る。
『ジャミングをかけろ!』
ジェシカがそう言う前にステラはジャミングをかけていた。
ゴブーリキ数体が現れて、手にした機体の大きさにそぐわない大きなレールガンでこちらを狙ってくる。
ジャミング対策にミサイルの弾道を入力して撃ってくる。
完全に罠に嵌められた。
あのゴブーリキは最初から気付いていて、こちらをおびき寄せていたのだ。
『撤収、撤収ー!』
ジェシカの声に合わせて、皆で撤収する。
そこに立ち塞がるように、2体の機甲獣が姿を現す。
『シャドウニンジャ!?隠れて付いてきてたのか!!』
シャドウニンジャ。
光学迷彩を始めとしたステルス性能を持つ高性能機甲獣。
その高い隠密性でアレックスの索敵を突破して近づいてきていたらしい。
シャドウニンジャが砲撃してくる。
『この野郎!!』
ジェシカが吠える。シャドウニンジャに斬りかかる。
『アタシが抑えてる内に逃げろ!』
ジェシカがステラ達に逃げるよう促す。
もう1機のシャドウニンジャが再び姿を消し、その隙にアルクとヨルンが包囲網を抜け、続けて抜けようとしたステラの前に姿を消していたシャドウニンジャが現れて単分子ブレードで切りかかってきた。
「うわっ」
驚いて応戦できなかったステラの代わりにAIが回避行動を取る。
「このお!!」
攻撃を外したシャドウニンジャに、落ち着きを取り戻したステラがトリガーを引きアレックスが殴りかかる。
アレックスのパンチを食らったシャドウニンジャは大きくバランスを崩し、そこにアレックスの主砲が直撃して沈黙した。
足を止めて追撃などせずに、逃げていればよかった。
アレックスは足を止めた隙に他の敵の砲撃を浴びた。
『きゃあああああ!!』
『ステラ!!」
もう一体のシャドウニンジャを仕留めたジェシカがステラの応援に行く。
遠くに新手の敵が見える。
トールハンマー。
全身を包む重装甲と遠近両対応の様々な重火器を持つ大型機甲獣。
その圧倒的な重装甲と小回りの効く火力は中型までの機甲獣にとって絶望的な「壁」になる。
『おい、聞こえるか?』
通信が入ってくる。
『……ああ』
『誰?』
ジェシカとステラが返事をする。
『目の前のトールハンマーのパイロットだ。名前はダリル。』
『賞金首のダリル・シェーファーか』
ジェシカは賞金首の情報を一通り知っていた。
(ダリル・シェーファー……縄張りはもっと北だった筈。こんな所に拠点を移していたのか)
『知っているなら話は早い。大人しく投降しろ。命だけは助けてやる。命だけは、な』
『……わかった』
『ジェシカ!?』
『ステラ。命の保証がある内に止めとこう。ゲームセットだ。それとも、お前と私でこの戦力差を覆すか?』
『……わかった。私も降参します』
『機体を降りてこっちへ来い。ヘルハウンド達はその機体を持って来い』
こうしてステラとジェシカは、盗賊たちの捕虜になった。




