訓練
翌朝、ホーリーに起こされた。
「ステラさん、ステラさん」
「ん……なーに?一人でトイレ行けないの?」
「違いますよ。鍛錬のために外に出ます。起こして知らせろって言ったじゃないですか」
「あー……」
そういえば、そんな事を言った気がする。
「では、行ってきます」
「ちょっと待って」
ステラが止める。
「私も行く」
「え?」
「私もその鍛錬とやらに付き合うって言ってるの」
「はあ」
「ちょっと待ってて」
顔を洗って、着替えて、銃をホルスターに入れてホーリーと一緒に部屋を出る。
「まずは走ります。付いてきてください」
「うん」
二人で一緒に走り出す。
数十分後。
「ハアー、ハアー、ヒイー、ヒイー」
ステラは息も絶え絶えになってホーリーに付いてきていた。
町内一週くらいだと思っていたら、町の外れの山道に入っていた。
「大丈夫ですか?」
そう言うホーリーはまだ余裕がある様だ。
「ど、どこまで走るの?」
「山頂までです」
もう少しだ。
「が、がんばる……」
山頂に着いたときには、もう朝日が上っていた。
ホーリーは「休んでいてください」とステラに言って、その辺から薪を拾ってきて積み上げた。
それが二つ。
ホーリーは木の棒を二つ持っている。その一つをこっちに寄越してきて、
「アレに向かって打ち込みます」
と、積み上げた木を指さした。
「……へえええ~?」
ホーリーはバシバシと目にも止まらない速さで木の棒で積み上げた木を叩くと、積み上げた木の方が折れていった。
木で木を折ってる。
信じられなかった。
ステラは立ち上がって同じ事をした。
「ええーい!」
ベチンと木の棒を積み上げられた木に当てる。
十分くらいそうしていた気がする。
ホーリーはその様子をしばらく見ていると、
「そろそろ帰りますか」
と言って帰り支度をした。
「ええ?でもまたコレ壊してないよ」
とステラが言うと、
「初めてで壊せるわけ無いじゃないですか」
と言い放った。
「ええ~?」
帰りも走った。
街に帰ると、喫茶店で朝食を摂る。
トーストとベーコンエッグとサラダのセットにコーヒーを付けて、ホーリーと話す。
「毎日あんな事してるの?」
「惑星内にいる間はそうですね。走って剣を振ってます」
「ふうん」
「でも、いきなりでよく付いてこれましたね。途中でおぶっていくつもりだったんですけど」
「私、前は教会付属の孤児院に居て、クルセイダーの訓練を受けてたの。だから、兵士になれるくらいの体力はあるよ!」
そう言って腕を曲げて力こぶを作るポーズを取るステラ。
「ならなかったんですか?クルセイダー」
「うん。筆記試験で落ちた。でも、そのおかげで君に出会えたから、それは良かったかな」
「……それはどうも」
ホーリーが照れているのを感じて、ステラは微笑んだ。
「この後は機甲獣の使い方を教えてよ」
「機甲獣ですか?」
「うん、昨日わかったんだけど、私、予想以上に使い方わかってないみたい」
「クルセイダーの訓練では習わなかったんですか?」
「うん。機動兵器の使い方は習わなかった。機動兵器はクルセイダーになってからだって」
「では、食べ終わったら練習しましょう」
まず実機の性能を確認させてくださいとホーリーが言ったので、工場に預けてあるアレックスに二人で乗って、一通り動かしてみた。
ホーリー曰くこのアレックスに搭載されているAIは相当に頭がいいらしく、その補助が有るからステラはこの機体を扱えているようだ。
「今の状態だと、全部AI任せにしたほうがステラさんよりも強いですね」
「ええー……」
ステラが不満の声を上げる。
それでは自分はなんのために乗っているのか。トリガーを引く係か。
「それに、正規軍仕様なのか、火器やエンジンの性能もハンターが使っているものより良いようです」
「そうなんだ」
「大体のところはわかりました。下手に操縦技術を上げるよりも、シミュレーターで戦術眼を磨きましょう」
そういうわけで、ギルドのシミュレーターを使う事にした。
シミュレーターを協力モードにして、使用機体をアレックスにする。大焦熱のデータは無いという事で、ホーリーは107式偵察機、通称「ヒトツメ」を使う事にした。
ランダムで選ばれたミッションは哨戒任務。
盗賊に狙われている村の近くを30分間哨戒して、敵が居たら追跡して撃破するか、友軍に連絡して応援を呼ぶかして排除しないといけない。
敵は30分間現れないかも知れないし、大部隊で奇襲をかけてくるかも知れない。
索敵や通信を妨害してくるかも知れないし、大型モンスターが乱入してくるかも知れない。
ランダム要素で埋め尽くされたこのミッションを、30分間村を守りながら生き残るのがクリア条件だ。
もちろん実際の哨戒任務は30分なんて短くない。ギルドのシミュレーターの使用時間が一人1時間だから短く設定されているだけだ。
「このデータはハンター仕様なので、いつものアレックスの80%くらいの性能だと思ってくださいね」
と、ヒトツメに乗ったホーリーが言っていた。
ヒトツメはその名の通り大きな単眼が目を引く小型機甲獣で、レドームが陣笠の様に頭に被さっている、足軽のような姿をした機甲獣だ。
強力な索敵能力が特徴で、皇国では徴兵されたパイロットに対してコレを与え、兵役が終わるとなんと武装解除したコレを貰えるらしい。
ステラなりに慎重に索敵しながら進んでいく。
ホーリーはステラに随伴して特に何も言わない。
ただ、ステラが見落として村に向かった敵や奇襲してきた敵を始末するだけだ。
ステラが質問をすると一応教えてくれる。
5体の敵が出現し、ステラはその内3体を見逃していた。20分で大型機の敵が3体の取り巻きを連れて出てきて、更に大型モンスターの乱入を受けた。
「ステラさん逃げてくださいジャミング掛けながら逃げてください村に連絡して全速で逃げてくださいジャミング掛けないと蜂の巣に……あーあ」
ステラが撃破されたので、ホーリーもミッションを放棄して再戦する。
同じ設定で初めて、また最初から始める。
2回目のミッションは、1回目の失敗を踏まえてホーリーが色々口を出してくる。
「レーダーに映ってないけど居ますジャミングされてます自動照準じゃロックしてくれないから自分で照準して撃ってください」
そう言いながらホーリーが3機現れた敵のうちの1機を撃ち落とす。
2回目は30分保ったが、自分一人では無理だったろうとわかる。
他の利用者が居なかったので、延長して沢山のシチュエーションでシミュレーションした。
盗賊基地への強襲偵察、大型モンスターの撃破、モンスターのうろつく地域での哨戒。
使っていてわかったのだが、このAI、ステラのアレックスより圧倒的に気が利かない。
ブースターを吹かす時も出力を自分で調整しないといけないし、武装はちゃんと細かく指定しないといけないし、索敵も細かな指示を入れないと指示した機能しか使わないし、ホーリーに言われるまで自分がジャミングも掛けずに戦っていた事もわからなかった。というか、ジャミングという概念すらステラは知らなかった。
それらを、ステラのアレックスは全部自動でやってくれていたということである。
全部AIに任せていたほうが強い、というのがよくわかった。
機体性能だってそうだ。
ホーリーによればデータ内のアレックスは武装の威力が低いらしく、ステラのアレックスなら抜ける装甲に時々阻まれているそうだ。
AIの性能の低さは格闘性能にも現れていて、格闘戦をしても避けないしモーションが適当で威力が出ない。力任せに手足を振っているだけだ。
また、アレックス自体の弱点として軽いエンジンを採用しているため高機動高火力に対して出力が足りていない。調子に乗って全力で射撃するとエネルギー切れを起こすし、ブースターを吹かしながら主砲を撃っても止まる。
適切なエネルギー管理をすることが必要だとホーリーに言われた。
索敵をし、進行方向や速度を調節し、敵との距離を測って適切な武装を選ぶ。
格闘戦では素早く指示を出し、避けて当てる。
しっかりとした機甲獣の扱い方の基礎を、ステラはこの3時間で学んでいた。
ランダムで起こったイベントが理不尽な内容だったとかでなければ、ステラは安定した戦果を出せるようになった。
「またミッション成功したよ!どう?」
「よく出来ました」
「へへ。褒められた」
本当によくやっている、とホーリーは思う。
ステラが覚えた技術は、3時間のシミュレーション程度でモノにできる物ではない。
2回の実戦経験というアドバンテージが有るにしても、ステラの学習能力は目覚ましいものがあった。
「じゃあもう一回……」
「ええー疲れたよ休憩しようよー」
欲が出てきたホーリーにステラが待ったをかける。
「何言ってるんですかお腹空いてる時にも敵は襲ってくるしむしろそこを狙ってくるんですそれに3時間なんて実際の作戦時間に比べたらすぐですステラさんが失敗した理不尽な状況だって実戦では起こりうるんですあと2時間がんばりましょうそしたらご飯食べていいですから」
ホーリーが力説する。
「はあ……」
朝の鍛錬からの疲労を感じながら、延長の手続きをする。
残りの2時間は集中力が切れたのか、芳しい成績ではなかった。
「ほらーやっぱり休んだほうが効率良かったじゃん」
口を尖らせながらステラがぶーたれる。
「長時間動けるスタミナと集中力を育てるのが大事なんです」
何も間違ったことはしていない、とばかりに眉一つ動かさずホーリーが答える。
「お昼はどこで食べよっか」
と、ステラ。
「ステラさんにお任せします」
「たまにはホーリーがエスコートしてよ」
そう言ってホーリーの尻を軽く蹴る。
お返しとばかりに尻を綺麗なフォームで蹴られた。
ホーリーにとっては軽く蹴ったつもりだったが、コイツの身体能力である。ステラにとっては滅茶苦茶痛かった。
「痛った!」
「では町を一通り歩きましょうか」
痣になってないかな、と尻を撫でながら、ステラはホーリーに付いていった。
昼飯はホーリーの提案でスシバーで食べたが、店から出たホーリーは難しい顔をしていた。
どうも、思っていたのと違ったらしい。
午後は依頼でも探してみようと掲示板を見たが、そこでCランクの昇格試験をまだ受けていない事に気付き、受付嬢に頼んで試験を受けさせてもらった。
Cランクの試験も簡単だ。
数学の試験が分数を使う様になったのと、銃のメンテナンスが出来るかが追加されたくらいである。
それと、面接の質問でアレックスの入手経路と、それに付随してホーリーの事を聞かれた。
「そのホーリー君は、とても強いんですね」
「はい、少なくとも私よりは」
「大きくなったら是非ハンターギルドに、と言っておいてください」
にこやかに受付嬢は言う。
こうして特に問題もなくCランクになったステラは、ギルドに備え付けられた情報端末で仕事を探していた。
この端末はハンター証明証を入れて依頼を検索するもので、証明証から読み取った情報から現在のステラに受けられる仕事だけを表示してくれる。
「何かいい仕事無いかなあ」
ボヤきながら検索していると、携帯端末に連絡があった。
アルクからだ。
「もしもしー?」
『ステラか?今度村の警備をするんだけど、お前も来るか?』
依頼を向こうから誘われた。
自分が必要とされるのに悪い気はしない。
「うん!」
ステラは喜んでOKした。




