賞金と登録
「では、賞金2000ボルと、ナロードラゴン素材買取で合計で6000ボル。合計で8000ボル、お収めください」
受付嬢はそう言って100ボル札の10枚束を8つ、寄越してきた。
「お、お金持ちだ……!」
町に帰ったステラ達はハンターギルドの係員を呼び出し、街に持って入るには大きすぎるドラゴンの首とコアを査定してもらった。
その査定結果がコレである。
「それと、工場の人に機種特定の事を聞きましたか?」
「いえ、まだ工場に入ってないです。なんですか、それ」
「工場の人にこの機動兵器はどういう機種ですって証明してもらうんです。それが終わればハンター登録したデータに『こういう機種を持ってます』って記録できますよ」
「そんな事しなきゃいけないんですか?」
「そうしないと偵察機持ってる人が見栄張って主力機持ってますって自己申告したりするので」
「わかりました」
「それと、機動兵器を持ってることと、賞金首を討伐した事でポイントが追加されました。あと一回、採取の仕事でもいいから受ければCランクへの昇級試験が受けられますよ」
新入りであるステラのランクは最底辺のDである。
これはステラが不出来だったとかではなく、どこかの国の特殊部隊が引き抜かれたとかでない限り、新入りは一律Dランクからである。
ランクが上がれば権限も増える。
どんなに優秀な能力を持っていても、ハンターとしての心構えが有るかどうか分からんような奴に権限は渡せない、という事である。
今回の「あと一回依頼を受ければ」というのも、実力は証明されているが、他のハンターとのコミュニケーションや依頼の手続きができるかどうかわからないから一回正式な依頼を受けろ、という事である。
Dランクだけでは仕事ができない。必ずCランク以上の付き添いが必要になる。
DからCに上がれば、同ランク同士で組むことも、一人で仕事を受けることも出来る。フットワークがグンと軽くなる。
「わかりました。まず工場に行ってきますね。それに、相棒と報酬を山分けしないと」
そう言って、報酬の8000ボルを後生大事に懐にしまってギルドから出た。
町の外にはアレックスが佇んでいた。
「ホーリー!報酬をもらってきたよ!うわ、何これ」
アレックスの足元に居たホーリーの周りに数人の人間が倒れていた。
全員無事ではない。
明らかに死んでいる者も居る。
「アレックスを盗もうとした連中です。見張りが私だけだと思って侮っていたんでしょうね」
軍仕様の機動兵器には鍵が付いていない。操縦席に乗り込まれている時点でセキュリティが突破されていることを意味するし、そうなっては鍵など意味がないからだ。それに何より、緊急発進の時に邪魔になる。
だからホーリーが見張っていたのだが、子供一人で守っている機動兵器などならず者たちの格好の餌だ。
普通なら。
ホーリーは普通ではない。
「だからって殺すことはないんじゃないかな?死んでるよね?この人」
近くの、上半身と下半身が別れた男を見ながらステラが言う。
「銃を持っていましたから。殺さないとこちらが危ないです。それに、何人か殺すことで見せしめとなります。この様子を見て、逃げ帰った人が多く居ます」
「でも……」
そりゃこの光景を見たら手を出そうとは思わないだろう。だが、ステラにはやりすぎとしか思えない。
「賞金をもらったんですよね?」
「う、うん。はい、ホーリーの分」
そう言って報酬の半分、4000ボルを渡す。
「随分多いですね」
「素材が6000ボルもしたんだよ!ナロードラゴンはアレでもドラゴン種だから、賞金が安くても狩る人が多いって聞いた!」
「そうですね。では、工場に行きましょうか。これだけ有れば修理もできるでしょう」
「うん!!……その前に、この人達のお墓、立てようか」
アレックスの指で地面を抉り、そこに死体を放り込んで埋め立てた。その辺の廃材を十字に組んで、墓標とした。
(まだ生きてる人も居たんだけどな)
ホーリーはそう思ったが、黙っていた。
悪人どもに遠慮することもあるまい。
「修理費は2000ボルって所だな」
アレックスの損傷を見た整備員は、そう見積もった。
「全身に細々とした傷があるが、ちょっと装甲タイルを付けとけば勝手に直るだろ」
「機動兵器って皆そうなんですか?」
「戦闘機や戦車にも一部の高級機や特殊機体には付いてるが、機甲獣はどの機体にも付いてる。こいつらは人工的に作ったモンスターみたいなもんだからな」
「モンスター、ですか」
「ああ。モンスターコアにコントロールロッドを差し込んで、特殊な金属で身体を生成させるんだ。お前が持ってきたっていうナロードラゴンのコアも、大手企業か軍事施設か、まあどっかのデカイ施設で加工されて、機甲獣のコアにされるんだろうよ」
「あ、それは本で読んだことがあります。自分で倒したモンスターのコアを機甲獣に加工して愛機にするって話」
「まあ、そんな奴もいるな」
「ハンターの冒険録で読みました」
「物語の話かよ」
と整備員は呆れた顔をした。
「それと、機種特定だったな。ハンター証は持ってるか?」
「あ、はい」
財布からハンター証を取り出す。
整備員はそれを見て、近くの情報端末にハンター証に刻印されたステラの名前と登録番号を入力する。
「名前と登録番号……これでよし。後はこっちからハンターギルドの方に送っておく。それと、お前」
整備員がホーリーの方を見て呼びかける。
「いい加減機甲獣の操縦席で寝泊まりするのはやめろ。整備できねえし、食べカスが中に入り込んで故障したらどうすんだ」
「え?何?どういう事ホーリー?」
ホーリーが目をそらす。
「コイツ、自分の機甲獣の操縦席に住み着いてるんだよ。金が無えんだとさ」
ホーリーの代わりに整備員が答えた。
「並の宿屋より安全です」
「お風呂はどうしてるの?着替えとかはあるの?」
ホーリーはうつむいて口をつぐんだ。
「ホーリー?今日から私の部屋に住もうね?」
「はあ……」
ホーリーはイエスともノーとも言えない返事をした。
「君の荷物取りに行こう。操縦席で寝るのはもうおしまい!」
「はあ」
ホーリーの機甲獣の格納庫に行く。
「ここです」
「……あ!私、これに助けられたことある!」
その機甲獣は、ステラが街に来る時に助けてくれた、あの機甲獣だった。
「そうですか?そういえば、そんな事もあったような」
「何ていうの?」
「大焦熱、と言います」
大焦熱はステラのアレックスよりもずんぐりむっくりしていて明らかに大きい。
その上分厚い装甲に包まれていて、いかにも頑丈そうだ。
よく見ると腰の後ろ側、要するにケツから左右2本のアームが伸びていて、その先に大砲が備え付けられていた。コレがまたデカイ。アレックスの全高ほども有るのではないか。
頭から電子装備が3本生えている。その内の2本が特に長く、その様は怪獣の様だ。
皇国軍の重攻撃機甲獣「大焦熱」。
地獄の名を冠するその機体は、いかにも恐ろし気な見た目をしていた。
「こんなの乗り回してるの?そりゃお金もなくなるよ!」
見るからに装甲で耐えて殴り合います、という感じの機体だ。
維持費だけで相当な額が必要だろう。
おそらく、ホーリーの収入はほとんどこれの修繕費に消えているのだろう。
操縦席に入ると、中は意外と広かった。
あくまで意外と、である。中で生活できるほどではない。
その狭い空間の中に、着替えの下着類と、元はテイクアウトの食べ物だったのだろう、紙袋いっぱいに詰められたゴミが数袋と、紙媒体の、文庫サイズの本が数冊、小綺麗に整頓されていた。
きれいなのか汚いのかわからない。
ただ、数日間洗っていないであろうホーリーの体臭と、食べ物の臭いは間違いなく臭い。
さっきまで消毒されたような臭いの整備室の匂いを嗅いでいたので、はっきりとそれがわかる。
とりあえず整備員にゴミ袋を貰って紙袋や破れたりほつれたりした下着類を捨てた。
文庫本の中身を開くと、コミックだった。
ステラの読めない文字で書かれている。
「これ、何語で書いてるの?」
「ヤマト語です」
「どこの言葉?」
「『皇国』の言語です」
「皇国?皇国って、ヤマト皇国の事?君、大国の出身なの?」
ヤマト皇国と言えば、7大国家の一つである。
大国出身なら、この歳で機動兵器を持っているのもおかしくはないのかな、とステラは思った。
ホーリーは知られたくないことを知られた、というように眉をしかめた。
「あ、詮索してるわけじゃないよ?でも、君に興味がないって言ったら嘘になるかな」
「……そうですか」
「あ、興味があるっていうのは変な意味じゃなくてね?だって相棒になるんだし!!」
「相棒、ですか」
「そうだよ。よろしくね、相棒」
ステラが人懐こい笑みを浮かべて言う。
「……どうも」
ホーリーはイエスともノーとも言えない返事をした。
ステラ達の座っている席に厚切りのベヒーモスステーキが運ばれる。
「すごい、私本物のお肉なんて初めて食べるよ…………」
ステラはゴクリ、と唾を飲む。
「食べたこと無いんですか?」
とホーリーが聞いてくる。
ここはハンターギルドの近くにある飲食店。
ハンター向けに精のつく料理が揃っている。
「本物の」肉もチーズも酒も置いてある。
ステラたちは今日の締めくくりとして、ここで食事を摂ることにしたのだ。
「合成肉のミートパイとか豆腐のハンバーグとか、そういうのは食べたこと有るけど、肉のステーキなんて初めてだよ」
「じゃあ、食べましょうか」
「そうだね。天におられる私達の父よ。皆が聖とされますように…………」
「いただきます」
孤児院時代の癖で食事の前の祈りの言葉を唱えていると、ホーリーが「イタダキマス」とだけ言ってステーキにナイフを入れた。それを見て、周りのハンター達が物珍しげなものを見る目でこちらを見ていることに気づき、祈りを中断する。
自分は今日から宇宙を駆ける荒くれ者なのだ。食事の前の祈りなどせずにガツガツと食うのだ。
ステーキにフォークを突き刺し、ナイフで切り分ける。大きめに切り分けたほうが荒くれ者っぽいだろうと少し大きめに切った。
ジュワッと肉汁が出て、中の赤い部分が見える。
(この赤いのって血かな?なんだか怖いな)
恐る恐る口の中に入れる。
肉を頬張ると、初めて食べる味が口の中に広がった。
(これが肉…………でも、なんだか噛みにくいな)
初めて食べる肉の塊は、なんだかゴムのように弾力がある。
肉と一緒に口に入った脂身がなんだか気持ち悪かった。
だが……旨い!!
荒くれ者が集う食堂。下手なものを出せば大変な事になる。この辺りの店は、大体味かボリュームに自信がある。
こんな物を食べていたらそれは強くもなるだろう。
噛めば噛むほど肉の中に閉じ込められた肉汁が出てくる。
夢中になって噛み続けた。
しかし、途中であることに気づいた。
(この肉…………噛んでも噛んでも噛みちぎれない!)
分厚い上に大きく切り分けられた肉は中々飲み込める大きさになってくれない。
「ステラさん」
「ん?」
「さっきから一切れ目を噛んでばかりですけど、噛み切れないんですか?」
「ん、んーん!ふぁじめてだからふぁみしめてるだけ!」
「一回吐き出したほうが良いんじゃないですか?」
ホーリーが訝しげな顔をする。
こんなに人が多い場所でそんなみっともない真似はできない。
ここで吐き出したりしたらその噂が広まって「吐き出しステラ」なんて呼ばれるようになるかもしれない。
ステラは意を決して肉の塊を飲み込んだ。
肉が喉に詰まる。
「ん、んー!んんー!」
「ステラさん!ほら、ジュース!」
差し出されたジュースを一気に飲み、肉を流し込む。
「はは、ねーちゃん、無理すんなよ」
店内が苦笑に包まれる。
「次は小さく切り分けたほうが良いですね」
そういうホーリーの困り顔が、なんだか呆れたように感じられた。
実際にはかなり心配していたのだが、ステラは恥ずかしさでそう感じたのだ。
席に付き、澄ました顔で素知らぬ顔で食事を続けた。
今度は一口サイズに切って食べる。
なんだかさっきよりまずくなった気がする。
「美味しかったですね」
「うん。でも、恥かいちゃったよ」
「掻き捨てましょう」
「うん、そうする」
2人は笑いながらステラの宿に戻った。
「では、今日はもう帰りますね」
「ちょっと待って」
帰ろうとするホーリーを引き止める。
「今日は私の所に泊まるって言ったでしょ」
「あれ、本気だったんですか?」
「冗談だと思ったの?ロボットの操縦席に住んでるなんて、ほっとけるわけ無いでしょ。ほら、行くよ」
そう言って宿に連れて行かれる。
「この部屋だよ」
「お邪魔します」
部屋に入る。
簡素な机に硬そうなベッド。部屋の中は埃臭い。シャワーとトイレがついているだけマシだろう。
いかにも金のない駆け出しが住む狭い安宿という風だった。
(ここに二人で寝るのかな)
ホーリーがそう思っていると、急に後ろから抱きしめられた。
「うわあ!?」
クンクン、と匂いを嗅がれる。
「やっぱり臭い」
ステラが囁くように言った。
「そんなに気になりますか?」
「匂い自体はそうでもないけど匂いの質が・・・・・・くっつくとツンとくる」
そんなに臭うのかな、とホーリーは思った。
「シャワー浴びて」
「はい」
そんなに臭うのなら仕方がないだろう、とホーリーは思った。
シャワー室に向かう。
「脱衣所はないよ。ここで脱いで」
「あ、はい」
帽子とコートを脱ぐ。
ステラの方を向くと、ガン見していた。
「あの、脱ぐんであっち向いててもらえますか」
「そうだね」
ステラが後ろを向く。
服を脱ぎ、シャワー室に入り、蛇口をひねる。
「ぬるいお湯」というより、「冷たくない水」といったようなシャワーが出てくる。
(これで匂い落ちるのかな?)
石鹸を泡立てて入念に洗う。
ステラはホーリーの脱ぎ捨てた服を見ていた。
手に取って、匂いを嗅いでみる。
臭い。
下着を手にとってみる。
やっぱり臭い。
「ホーリー、服も臭いよ」
「そうでしょうね」
シャワー室から声が聞こえる。
「下着まで臭い」
「何を嗅いでるんですか!?」
「パンツは仕方ないけど、シャツは私のを使って」
「私は床で寝るんですから、くっつくと臭うくらいなら別にいいんじゃないですか?」
「何言ってるの?二人ともベッドで寝るよ」
「え」
本当にベッドで二人で寝た。
ベッドが小さいので、ホーリーがステラの上に重なって無理やりベッドに収まった。
ステラの胸を枕にする。
柔らかい。
ステラが頭を載せている枕より柔らかいのではないか。
「顔は可愛いのに、体は可愛くないね」
ステラがホーリーの体を撫でながら言う。
ホーリーの体はよく鍛えられ、密着するとゴツゴツしていた。
「触り方がいやらしいです」
「ホーリーだって私のおっぱい触ってるからお互い様だよ」
「やっぱり床で寝ます」
そう言ってホーリーが起き上がると、ステラはその腕を掴んで、
「ダメ」
と引き止めた。
「お客さんを床で寝かせられないよ」
そう言ってホーリーの手を引く。
再び二人の体が重なる。
「今日一日で色んな事があったね」
「そうですね」
「ハンターになって、君と出会って、機動兵器を手に入れて、賞金首を倒して・・・・・・・」
「今日会ったばかりの男と一緒のベッドで寝るんですか?」
「嫌?」
ホーリーは少し間をおいて、
「悪くないです」
と答える。
「明日も色々ありますよ。もう寝ましょう」
「そうだね。ねえ・・・・・・ホーリー・・・・・・・私、、君を頼っても・・・・・・良い・・・・・・」
今日の疲れが出たのだろう。ステラは言い切らないまま、深い眠りについた。
「大丈夫ですよ」
ホーリーも眠りにつく。
ステラの体は柔らかく、暖かく、寝心地が良かった。
こんなに気持ちよく眠るのはいつぶりだろうか。




