自分の機体と賞金首
翌朝、ハンターギルドでホーリーと会った後、銃とホバーバイクをレンタルした。
ホーリーによれば、件の遺跡には浮浪者やならず者が住み着いており、身の守りは必要なのだという。
ホーリーが結構マトモな武装をしている事も知った。
懐からゴツいプラズマガンや手榴弾を取り出した時はびっくりした。コイツ、自分よりも金持ってるんじゃないのか、と思ったほどだ。
「あの基地の辺りで賞金首がうろついているので気をつけてくださいね」
受付嬢にそう言われて賞金首の一覧を見た。
賞金首:ナロードラゴン 賞金額2000ボル
ステラの生活水準なら2000ボルも有れば1年は暮らせる。
これでも賞金首の中では低額なようで、3000ボル、5000ボル、10000ボルを超えるような賞金首がずらりと並んでいた。
「気をつけます」
そう言って、ホバーバイクに跨る。ホーリーを後ろに乗せて基地に向かった。
朝の日差しと空気が気持ちいい。
「そういえば、賞金首が出るようになってるみたいだよ。会ったらどうするー?」
「ステラさん一人なら死んでますね……」
「何?君ならなんとか出来るの?」
ステラがムッとする。
「ナロードラゴンくらいなら」
「ナロードラゴンってそんなに弱いの?」
「弱かったら賞金首になりませんよ……でも、賞金首の中ではアレより安いのは滅多に居ませんね」
「ふうん」
ステラにはそれが子供故の万能感のように思えた。
「じゃあ、現れたら守ってね」
そう冗談めかして言うと、ホーリーは、「はい」と真面目くさった声で言った。
しばらく走っていると、旧軍基地の遺跡が見えてきた。
「見えてきたよ」
ステラは遺跡を見て言った。
「そうですね」
ホーリーは空を見て言った。
「急いでください。来ます」
「?来るって何が──」
ステラも気づいた。
空から何かが迫ってくる。
何かが近づいてくる。
速い。すぐに追いつかれる。
ステラがホバーバイクの速度を上げる前に、ソイツはステラ達の眼前に降り立った。
それはゲームから出てきたかのような、典型的なドラゴンの姿をしていた。
予想以上に巨大だった。
ナロードラゴン。
機動兵器で戦うべきとされる賞金首が目の前に居る。
賞金首の額は単純な戦闘力で決まるわけではない。
一般市民へ総合的な危険度・発見して仕留めることへの困難さ等も加味される。
そういう意味では巨体故に物陰に隠れられず、基本的に逃げることが無く、探さなくても向こうから襲いかかってくるナロードラゴンは「倒せるハンターにとっては」狩りやすいと言える。
しかしこいつは単純な戦闘能力は同クラスの機動兵器とタメを張る位は有る。
ホバーバイクに乗った、碌な武装もないガキ二人が立ち向かった所でどうにもならないのはステラでもすぐわかった。
ホーリーがステラの胸元に手を伸ばし、何かの紙を入れる。
「隠し区画の入り口までの地図です」
そう言ってホーリーがホバーバイクを降りる。
「私がコイツの相手をするので、一人で行ってください」
そう言って刀を抜くホーリーの首根っこを引っ掴んでホバーバイクに連れ戻し、一目散に逃げた。
後ろでナロードラゴンがドスン、ドスンと追ってくるのがわかる。
「右に避けてください」
ホーリーの言葉通り右に避けると、さっきまで居た車線に火柱が奔る。
「ひいいっ」
ブレスが掠める。
何回かブレスが掠めたが、直撃はしなかった。
遊ばれているのだろう。
そうやってナロードラゴンに追われていると、いつの間にか遺跡にたどり着いていた。
基地の入り口は破壊されており、そこに滑り込んだ。
ナロードラゴンが入口に向かってブレスを吐く。
おそらくこうやって何人もの獲物を焼き殺してきたのだろう。
二人はなんとか生き残っていた。
「大丈夫ですか?」
そう言うホーリーの頬をステラは張った。
パシンという乾いた音がする。
「バカ!あんなのの相手なんて出来るわけ無いでしょ!何考えてるの!?」
ステラは刀一本でナロードラゴンに立ち向かおうとしたホーリーを叱責した。
「私ならなんとか出来ます」
ホーリーは心外な、という風に憮然とした顔をした。
「ハア、君はゲームとかのやりすぎだよ。危ない事はしないでね?ほら、ちょっと擦り傷が付いてる」
そう言うと、ステラは手を当てた。
暖かな光と共にホーリーの傷が癒えていく。
「回復魔法……」
ホーリーが驚いた。
「ふふん、私、教会付属の孤児院で育ったから、回復魔法が使えるんだ。それで、君が見つけたっていう隠し区画はどこ?」
「こっちです」
ホーリーが案内する。
基地の通路は、無機質な外観に反して変な匂いがした。電源が死んでいて暗い。
浮浪者が住み着いていたのであろう、毛布や食べかすが残っている。ナロードラゴンの生息圏に入ったので住処を移したのだろう。多分これらが臭いの元だ。
進んでいくと、扉が破壊されていた。電子ロックの自動扉で、電源が死んでいるから開けられなかったのだろう。
そこをさらに進み、梯子で下に下り、右往左往して、やっとそこにたどり着いた。
「ここです」
そこにあったのは壁だった。
「この先に隠し区画があるの?」
「はい。この先に空間があります」
そう言ってホーリーは刀を抜いた。
構えて、縦に切る。
その一連の動作が、ステラには見えなかった。暗かったせいだろうか、と思った。
壁を見ると、縦に大きく切り傷が付いていた。
その傷に向かってホーリーがガン、ガン、と殴りつける。
壁がへこみ、切り傷が広がっていく。
人が一人入れる程度の裂け目ができた。
「すごいねー。強化服とか着てるの?」
「強化服は着ていません。コートの下は防護服です」
「じゃあ、戦闘用の義手なの?その歳で大変だね」
「生身ですよ」
ホーリーが心外な、という目で答える。
「う、うそだあ。強化服か義体でもないと軍事施設の壁なんて壊せるわけ無いよ。その刀も単分子ブレードかなんかでしょ?」
「単分子じゃありませんよ。良い刀ではありますが……」
「そうだ!『魔法』でしょ!『王国』では研究が進んでるって聞いてるよ!私知ってるんだから!」
「行きますよ」
いい加減めんどくせえなという目でこっちを見てから、ホーリーは裂け目に潜り込む。
「あ、待ってよお」
進んでいくと、明かりが灯り始めた。
「ここは電源が生きてるみたいですね。警備システムがあるかもしれません。注意してください」
言うが早いか、ホーリーが手でステラを押し止める。
「な、何?」
「ここに赤外線センサーがあります」
「そうなの?」
「踏まないように注意してください」
「うん」
その後も、ホーリーはどうやっているのか、警備システムを見破った。
そういえば、ここに入る時だって、あの壁を破って入った。
壁の向こうにある、見たこともない区画をどうやって見つけたのか。
「これがこの区画の『宝』みたいですね」
そこには、巨大な大鎧が佇んでいた。
機体各所に散りばめられたバーニア。
装甲は薄く、人工筋肉の作り出す筋骨隆々なアスリートのような体型が浮き出ていた。
腰に取り付けられた巨大な主砲。
すぐ傍のウエポンラックにライフルが引っ掛けられている。
白と青で塗られた、青空のような機体。
AMー45S アレックス。
熟練パイロット用の、高機動機甲獣。
ステラは惹きつけられるように、アレックスに向かって歩き出す。
「あ、待ってください!」
「え?」
その瞬間、耳障りな警報が鳴る。
『侵入者を確認。5分以内に退去するか、ICカードを差し込んでください。5分以内に退去するか、ICカードを差し込んでください。侵入者を確認──」
警報とともに警告が鳴り響く。
横のハッチが開き、中から警備ロボットが出てくる。
蜘蛛のような姿勢の対人ロボット。胴体にはレールガンが積まれている。
それが2体迫ってくる。
その時、後ろに居たはずのホーリーが目の前の対人ロボットの、更に奥に居た。
刀を抜いている。
その瞬間、対人ロボット2体がバラバラになり、機能を停止した。
(?!????!???????)
ステラには何が起こったのか分からなかった。
警報は鳴り続けている。
5分経ったらしく、『排除開始。排除開始。DELETE。DELETE。DELETE』という音声が響いたが、ロボットはもう居ない。
「注意してくださいって言いましたよね?」
ホーリーが振り向いて言う。目つきがジトっとしている。怒っているようだ。
「ご、ごめん……」
「早く乗ってください」
「え?え?」
「あれに」
そう言ってホーリーは、アレックスを刀の切っ先で指し示した。
「わ、私が?いいの?」
「私はもう自分のを持ってるので」
「ええ!?持ってるって、機動兵器を!?」
「早く乗ってください」
驚くステラを急かすように、ホーリーがアレックスを指し示す。
「う、うん」
これが、私の物に。
ステラはアレックスの力強さを想像しつつ、操縦席から伸びた縄梯子を伝って乗り込む。
ドン、とホーリーが飛び乗ってくる。
「シートベルトをしてください」
「は、はい」
慌ててシートベルトを付ける。
「なんでいきなり敬語なんですか?」
「い、いいから早く教えて」
ステラの顔が赤くなる。
「じゃあ、このヘッドセットを被ってください」
ウイイン、と大きな機械が頭の上から覆い被さってくる。
「操縦桿を握ってください。次は、起動を選んでください」
言われた通りにすると、頭部のカメラアイからの映像がヘッドセット内に流れ込んでくる。
「あ、操縦席のハッチを閉めてください」
どうやるの、と聞こうとすると、自動でハッチが閉められた。
ディスプレイに大量のERRORの表示。
「エラーって出てるよ」
ステラがそう言うと、ホーリーはエラーをチェックして、
「長く置かれていたせいか、各部に不具合が出てますね……重大な物は無いので帰ってから直しましょう」
と言った。
「ブレイン・マシン・インターフェイスは使ったことがありますか?横のウエポンラックから武装を取ってみてください。」
「横のライフル……」
ステラがそれを意識すると、機体が立ち上がり、視界が横を向き、右手がライフルを掴む。
「じゃあ、歩いてみてください」
「スティックを前に倒してみてください」
言われた通りにするとアレックスが歩きはじめる。が、なんだかギシギシと音がする。
「やはり調子が悪いか……」
「どうやって出るの?」
「格納庫のハッチを壊しましょう」
「ハッチを?」
そう言って格納庫の入口を見ると、赤いマーキングとともに、Lock onと表示が出た。
「ロックオンって出たよ」
「武装を選択して、トリガーを引いてください」
とりあえず、一番威力の高い武装、と思ったら、アレックスは腰のビームキャノンをチャージし始めた。
操縦桿のトリガーを引く。
高出力の粒子ビームが勢いよく放たれる。
ビームがハッチを貫き、格納庫の出入り口に大穴が空いた。
そこから外に出る。
外はまだ昼間で、明るい日差しが見えた。
「町はどっちだろ。あ、レンタルのホバーバイク回収しなきゃ」
ズシン、ズシンと歩くアレックス。
「ん?」
レーダーに反応がある。
それはすぐにこちらにたどり着き、威嚇の咆哮を上げた。
ナロードラゴン。
「このお!さっきは良くも追い回してくれたなっ」
だが今はこっちだって機動兵器持ちだ。
ナロードラゴンがブレスを吐く。
それを回避しようとしたが、上手くいかなかった。
アレックスの薄い腕装甲が削られる。
「それなら……!」
腰のビーム砲を起動させる。
が、チャージしている隙にナロードラゴンが突進してきた。
「うわあっ」
取っ組み合うが、イマイチ踏ん張りが効かない。これも不調が原因である。
それに、ナロードラゴンの方がアレックスよりも体格が良い。万全の状態でも取っ組み合いは難しいだろう。
「落ち着いてください!ナロードラゴンは力押ししかしません。一度距離を取りましょう。格闘で相手の体勢を崩してください」
「わかった!」
グオオオオオオ、とアレックスが唸り声のようなエンジン音を立てる。
ナロードラゴンの腕を受け止め、指先から作業用高振動ブレードの爪を出して食い込ませる。
キックを見舞うと、ナロードラゴンは体勢を崩した。
「今だ!」
距離を取ろう、と思ってスティックを後ろに倒すと、アレックスは飛んだ。
「すごい!私、空飛んでる!」
「喜んでる場合じゃないですよ」
それを追ってナロードラゴンも飛び立つ。
ナロードラゴンがブレスを出しながらアレックスを追いかけて来る。
アレックスの右手に持ったライフルで反撃する。が、ステラはある事に気づいた。
「装甲が…燃えてる?」
不燃物である筈の機甲獣の装甲が燃えて、焦げている。
「ドラゴンのブレスは魔法の炎です。不燃物であっても焼き尽くします」
「これ、消せないの?」
「魔法の力が尽きるか、ステラさんが抵抗できれば」
「抵抗って何!?」
「しょうがないですね。ハッチを開けてください」
「は!?」
ホーリーの言葉に耳を疑う。
空中戦の撃ちあいの最中である。いくら何でも危険すぎる。
「大丈夫です」
「え、ええーい!ままよ!」
ハッチを開ける。
「次はどうするの!?」
とステラが聞くが、返事をせずに、ホーリーは飛び出した。
「はああああああああ!!???」
ステラはホーリーが何をやっているのか、何を考えているのかわからなかった。
空中に放り出されたホーリーはナロードラゴンを捉えると、刀を構えた。
「滅尽砲!!」
ホーリーが刀を振り下ろすと、ナロードラゴンの一部がパックリと割れた。
「グオオオオ!!」
その一撃でナロードラゴンは大きく体勢を崩す。
「嘘お!?」
ステラは目の前で起こったことが信じられなかった。
しかしその隙にレーザーライフルを構え、腰の大型粒子ビーム砲をチャージする。
ダウンしたナロードラゴンは空を飛んで体制を立て直し、なおも向かってくる。
フルチャージした粒子ビーム砲。両手でしっかり構えたレーザーライフル。ついでに肩の、ミサイル迎撃用の小型レーザー砲。
全力の一斉射撃でナロードラゴンを迎え撃つ。
5つの光条に貫かれ、その巨体が落ちていく。
しかし、アレックスの方もエネルギーダウンしたらしく、落ちていく。
「うわっ!」
いや、好都合だ。
「ホーリー!!」
落ちていくホーリーを追いかけ、アレックスの手で受け止める。
ハッチを開けてホーリーを中に入れる。
その時、ズウウン、とアレックスが着地した。
ハッチを閉めて操縦席の慣性制御システムを起動させるのが遅れていたら潰れていたであろう。
「良かった……」
安堵と共にホーリーを抱きしめた後、その頭を思い切り殴る。
「バカ!!バカ!!このバカ!!私が間に合わなかったらどうするつもりだったの!?」
ポカポカと殴られながら、ホーリーは
「心配してくれたんですか?」
と言った。
「当たり前でしょ!?もうこう言う事はしないって約束して」
「善処します」
「もう……」
ステラはナロードラゴンを見た。
「もう起きてこないよね?」
「一応解体しておきましょうか」
「そうだね」
高振動ブレードの爪を出してナロードラゴンの死体を解体していく。
2000ボルの賞金首を仕留めた。
この事はステラにとって大きな成功体験となる。




