決戦、次元龍ムゲン!!
ギルドに呼ばれたので来てみると、大忙しの様子だった。
「何かあったんですか?」
「この前、モンスターのボスが代替わりしたって言う話をしたじゃないですか。それが、移動してるんですけど、この街に向かって真っすぐのルートを通ってるんです」
「それって……」
「防衛線を張ります。会議室に来てください」
会議室なんて初めてだった。
円形の椅子とテーブルに、中心に立体映像の投射装置が付いている。
椅子があるが、座っているハンターは誰も居ない。こんな状況で、椅子に座ってふんぞり返る奴が居たらそいつはぶっ飛ばされるだろう。
立体映像でモンスターの映像が流れて来る。
ソイツは黒い龍の様な姿をしていた。
翼はなく、ずんぐりとした体型をしている。
鼻面から頭にかけて、何本か角が生えている。
「似てる……」
ステラが呟く。
ホーリーを見ると、やはり心当たりがあるらしく、青い顔をしていた。
そう、黒龍は大焦熱にそっくりだったのだ。
黒龍がブレスを放つと、まず空間が割れて、大爆発を起こす。これも大焦熱のフェイズ砲そっくりだ。
「これ……ムゲンじゃねえか?」
「なんでこんなところに……」
次元龍ムゲン。
ステラも聞いたことがある。ヤマト皇国に時々現れる災厄であり守護神。
ハーン大船団も、ガンエデン合衆国も、ヤマト公国と戦争をした国はムゲンに撃退させられている。
「待ってくれよ。ムゲンってのは、惑星サイズのモンスターなんだろ?なんでこんなに小さくなってるんだ?」
「おそらく、これはムゲンの細胞の一辺が変化したものだと思われます」
「細胞だけでボスモンスターになっちまうのか」
「今はこのサイズで済んでいますが、過去に成長してムゲンの亜種になったという話も聞きます。そうなれば、この町どころか、この星、いえ、この銀河に被害が及びます」
「今のうちに叩いておかないと、って事か」
「はい。幸い移動速度はそんなに速くないので、政府軍と共に作戦本部と防衛線を敷きます。まずはその設営にあたってください。追って指示しますので、今のところはこれで解散します」
皆が解散した後、ステラはホーリーを人気のない所に連れ出した。
ホーリーがばつの悪そうな顔をする。
「ホーリー、これから質問するけど、言いたくなかったら言わなくていいからね?」
「はい」
「君はあのムゲンと関係があるの?」
「多分」
「多分?」
「ムゲンと戦ったのは遠い銀河の話で、次元断層のブレスにやられたと思ったら、運よく次元の裂け目に綺麗に嵌ったみたいで、この星域まで飛ばされてきたんです」
「そう……なんで戦ってたのかな?」
「私はその為に大焦熱を与えられました。ムゲン本体は倒せましたが、細胞の一辺に食いつかれて」
「大焦熱ってムゲンによく似てるよね?ムゲンのコアを使ったりしてるの?」
「ムゲンにコアはありません。ムゲンの素材を使ったりしてるけど、似せているだけです」
「そう……で、なんで君みたいな子が、あんなマシンを操って戦っているのかな?」
そう、出会った時、仲間になろうと言った時、まず最初に聞かなければならなかった事。
お前は何者なのか。
今まで後回しにしていた事を今聞いた。
「私、囚人兵だったんです」
囚人兵。時代遅れの産物だ。
罪人であるが故に信頼できない兵士。
危険な任務を押し付けられても、すぐ逃げだそうとして使い物にならないという。
「何か悪い事をしたの?」
「言わないとダメですか?」
「ううん、言いたくなかったら言わなくていいって最初に言ったでしょ。で、あいつに勝てると思う?」
「私と戦った時よりも成長しています。倒せるかと言うより、今倒さないと惑星ごと破壊する様な兵器を持ち出すことになるかもしれません」
「そう……じゃあ、頑張らないとね!」
そう言って、ステラは去って行った。
「あの」
それをホーリーが呼び止める。
「私、人を殺しました」
意を決して言った、と言う感じだった。
「君の犯した罪の事?」
「はい」
「君が人を殺したところなんて、何度も見てるよ」
「そう……ですね」
ホーリーはお前は普段から人殺しだ、と言われたような気がした。
「私が許します」
そう言って、ステラはホーリーの頭に手をかざし、心を落ち着ける魔法を使った。
本来は混乱した味方を回復するための魔法だが、ホーリーは心のつかえが少し取れた気がした。
防衛線はすごい事になっていた。
機甲獣だけでなく、陸上戦艦、ホバーヘリ、戦闘機、揚陸艦まで用意されている。
空の果てには軍艦まで浮かんでいた。
この星の戦力だけでなく、ムゲンの情報を聞きつけた後ろ盾の大国や、教会のクルセイダーまでもが集まっていた。
ただし、空の軍艦はムゲンを倒すためだけにいるのではない。
もしもムゲンが倒せなかった時、この星ごと始末するための軍艦である。
「すごい事になってるねー」
「これで倒せればいいんですが」
これで倒せなかったら終わりだ。その時はあの軍艦がこの星を始末するのだ。
「あ」
遠くにアルクがいた。囲んでいる女の子が増えている。
いや、元々普段から組んでいるのがファミィ達なだけで彼の周りには女が多いのかもしれない。
アルクも気づいたようだが、声をかけづらいようだ。
ステラもあえて知らんぷりをする。
「ステラ!ステラじゃないか!」
そこへジェシカが声をかけて来る。
空気を読めよ馬鹿野郎。
「私もハンター養成校に入ったんだ!お前も入らないか?」
「養成校って、初等部とかある?」
「あっ……そうか、ホーリーがいるんだったな。お前たちも防衛か?」
「うん」
他の女子たちがこちらを厳しい目で見て来る。
またライバルが増えるのか、とでも言いたげだ。
「お互い頑張ろうぜ!じゃあな!」
そう言ってジェシカはアルク達の所に戻って行った。
ハンター養成校は数あるが、あいつらがいる養成校には行かないでおこう、と思ったステラだった。
やがて、防衛線にムゲンが近づいた。
まずは戦闘機によるヒット&アウェイ攻撃。
戦闘機とは言ってもそのサイズは宇宙でも活動できるように機甲獣よりデカく作られている。
火力も機動力も申し分ない戦場の王者である。
勝ちにこだわりさえしなければ撃墜まではされないだろう、そう思われていた。
しかし、何機かがムゲンのブレスにやられた。
薙ぎ払われたフェイズ砲は、次元を引き裂き、防衛線からでも見える大爆発を引き起こした。
機甲獣による包囲網に、戦車とホバーヘリによる援護が入る。
機甲獣がムゲンに集る虫の様に見える。
機甲獣の近接攻撃が鱗に食い込むだけで、砲撃は意にも介していない。
ブレスで包囲網があっさりと破壊される。
攻撃を防いでいる様子を、誰かが「破壊を破壊していやがる」と表現した。
破壊を破壊する。
確かにバリアの基本は破壊行動に対してより高いエネルギーをぶつけて防いでいる。
もしその様な生体機構をムゲンが持っていたとしたら。
そして、それは訪れた。
雲霞の如く押し寄せてくる敵が鬱陶しかったのだろう。
ムゲンは体中から「黒い霧」の様なものを出した。
恐らくこれがムゲンにとってのバリアの様なものなのだろう。
それに包まれた機体は崩れ去って行った。
『第一陣、突破されました……いえ、交戦中の機体が一機……何この機体……登録されてない……』
ホーリーの大焦熱は最前線で戦っていた。
「黒い霧」にも耐えて、戦っている。こちらもバリアで「破壊を破壊した」のだ。
『ホーリー!!』
ステラが最終防衛ラインから呼びかける。
自分の傍にいると思っていたのにあんな所にいるとは。
ムゲンを呼び寄せたのは自分だと思っているのだろう。
そしてそれはおそらく当たっている。
意にも介さない筈のムゲンが、躍起になって大焦熱を倒そうとしている。
大軍を消滅させるブレスをたった一機の機甲獣に放っている。
『私達も前線を押し上げるべきだと思います!』
ステラが提案する。
『……彼が削った所を、2陣3陣で仕留める』
『見殺しにするんですか?』
『我々が行ったところで一網打尽にされるだけだ』
皆もそうだと思っているのか、異を唱える者はいない。
『俺は行くぞ』
そう言ったのはアルクだ。
『アルク!』
『行くぞ皆!』
『しょうがないなあ!』
『わかったよ』
『止めても聞かないもんね!』
そう言ってアルク達が飛び出す。
『皆、ありがとう!』
ステラもそれに続く。
『黒い霧に耐えられそうにない奴は砲撃をしろ。アレは頭の辺りは覆えないみたいだ。頭を狙え』
アルクの指示が的確な事に、ステラは驚いた。
『アルクの所かあ。あそこ美人が多いんだよなあ』
『貴重なおっぱいが……』
そう言ってハンター達が前に出る。
『ハンター達に後れを取るな!!』
クルセイダー部隊も続く。
自分に群がる敵達を一掃しようとしたムゲンが大焦熱から目を離した時。
『滅尽砲!!』
大焦熱の大技が決まり、ムゲンが膝をつく。
「グオオオオオオ!!」
『……揚陸艦を前に出せ』
軍幹部のその言葉と共に、揚陸艦部隊がムゲンの元に向かう。
『ワッサン砲、用意!!』
ワッサン砲。元々いたモンスターのボス用に、要塞砲を揚陸艦に埋め込んだ巨大砲である。
『射線上にいる機体に信号を送ります。避難してください』
『照準用意。撃てます!』
『撃てー!!』
巨大なフェイズ砲が、ムゲンを次元断層に包み込む。
全てを破壊するはずのフェイズ砲に、それでもムゲンは耐えた。
鱗と皮膚が剥げ、筋肉と血管が剝き出しになって、マグマの様な血を吹き出しながらまだ立っていた。
そして、皮膚が再生を始める。赤くなった体がまた黒く染まっていく。
『エネルギーダウン、次の発射まで30分かかります』
『これでもか…』
『……ん?』
ステラはムゲンの皮膚が剥がれたことによって剥き出しになった、鼻面に刺さっている何かを見つけた。
『アレ何?』
『ん…?何だ?』
『弱点か何かか?』
皆が口々に言う中、ホーリーは叫んだ。
『俺の……剣!!』
ホーリーの一人称が急に「俺」になった事にステラが驚きつつ、アレを取ればどうにかなるかもと思ってムゲンの頭に向かった。
大きな刀だった。
ズルリ、と抜くと、大量の、溶岩の様な血が噴き出した。
『うわっ』
この血も当たったら危なそう、と避ける。
『ホーリー、これ!』
『ありがとうございます!』
奉納刀「煉獄」
大焦熱を「守護神」に見立てて作られた特殊な宝剣である。
魔動力学も応用したその刀の威力は、今まで大焦熱が使っていた大太刀とは比べ物にならない。
それを持って、ホーリーは大焦熱をムゲンの鼻面に向かわせる。
ムゲンがブレスを放とうとする。
あの時と同じだった。
自分はまた負けるのだろうか。
それでもいい。
この一撃で、終わってもいい。
その時、ムゲンの口にビームの奔流が放たれた。
アレックスの主砲だ。
それによりムゲンのブレスが中断される。
ホーリーはそこを逃さなかった。
『滅尽砲!!』
次元流。
示現流を元にしたヤマト皇国の軍隊格闘技。
その達人の一撃は戦艦の装甲をもぶち抜く。
その威力を「砲」に例えて、「滅尽砲」と呼んだ。
その一撃が、大焦熱のパワーと、煉獄の威力でもって放たれる。
ムゲンの頭は吹き飛び、その体はくずおれた。
ムゲンの、倒れた体が崩れていく。内包されたエネルギーが解放されていく。
誰かが叫んだ。
『皆、逃げろー!!』
ムゲンの体は大爆発を起こした。




