二人の関係
ギルドに帰ると、なんだか大事になっていた。
まず、アルク達が依頼の失敗報告をしていたため、報酬も修理費も弾代も出ない。
そして、救出の緊急依頼を出していたため、救出部隊が出来ている途中だった。今から依頼をキャンセルしても、こいつらの分の報酬は払わなければならない。
極めつけに、ダリルの賞金を貰う段になって、ホーリーが「貴方達も貰う気なんですか?」と言い出した。
確かにダリルはホーリーが一撃で倒した。
他の盗賊はホーリーの大焦熱が出てきたら逃げ出していった。
つまり戦力的にはホーリー一人でなんとか出来た可能性が高い。
ステラとジェシカは捕まっていたところをホーリーに救出されたので、どうこう言える立場ではない。
アルク達だって頼んで救出に連れて行ってもらって、勝手にピンチになっていた。
それに何より、この依頼にホーリーは参加していない。ステラ達が自分でいらないと言って帰らせたのだ。ステラはこの件に対しては、自分達は仲間だと言う資格すらないのだと思う。
一番先に文句をつけたのは勿論アルクだった。
「俺達も一緒に戦っただろ!!だいたいお前のせいで俺の機体が壊れたんだぞ!!!!」
アルクに続いてファミィとヨルンも加勢する。
「ホーリー君、お願い!」
「アルクの言う事にも一理ある。アルクは足手纏いだったかもしれないけど、私達は言われたことをこなした」
「そんなに足手纏いだったか、俺……?」
ヨルンの言い様に、アルクが抗議の声を上げる。
ジェシカもなんとか分け前をもらおうと必死だった。
「そう言わないでくれよ旦那~、な、アタシ達仲間だろ?」
自分より背丈の低い子供を旦那呼ばわりである。
ホーリーは呆れた顔で皆を見て、最後にステラの顔をじっと見た。
お前からは何もないのか、とでも言わんばかりだ。
「うーん、えっと」
なんと言おうか迷った後に出たのは、以下のような台詞だった。
「ホーリー、仲間はずれにしちゃってごめんね?私、まだ貴方がいないとダメみたい」
分け前が欲しい、というようなことは言ってないつもりだった。
今まで君、と呼んでいたのが、貴方、になっていたのに自分でも気づかなかった。
「いいでしょう」
その返事がお気に召したのか、ホーリーのお許しが出た。
「6人で分けると端数が出ますから、余った分はどうしましょうか」
「旦那の取り分ですよ、へへっ」
ジェシカはすっかり三下のようになっている。
「じゃあ皆でカウンターに行こう。全員ハンター証を出すんだ」
と、ジェシカ。
「?賞金は一般人でも貰えるんでしょ?ハンター証が必要なの?」
ステラが疑問を呈す。
「ハンターが賞金首を倒すと評価点も貰えるんだよ。アタシ達、依頼に失敗しただろ?だから評価点が下がる。ステラ達なんかはDランクに戻るんじゃないか?それを少しでも取り戻さないと」
「そっか」
「賞金は山分けでも、評価点は何人でかかっても同じだけ貰えるからな。350000ボルの賞金首を生け捕りだ。依頼失敗の減点を帳消しにできるかもな」
ジェシカは嬉しそうに言う。もしかしたら賞金よりも評価点目当てで山分けを要求したのかも知れない。
真っ二つになったトールハンマーと壊れたシャドウニンジャはアルク達のハンター養成校で買い取ってもらえる事になった。どうやら、独自の整備工場を持っているらしく、パーツに分解して再利用できるそうだ。
一通りの後始末を終えて、解散となった。
アルクが皆で一緒に食事をしようと言い出したが、ステラとジェシカは断った。
「そういうのは依頼成功した時にするんだよ」
「貴方、ホーリーに突っかかるでしょ。一緒にご飯なんてできないよ」
とは言ったが、皆同じ大衆食堂で飯を食うので、結局皆で食事を摂ることになった。というか、ステラとジェシカが座ったテーブルに、アルクが勝手に座った。
せっかくだからと頼んだ大皿のメニューがドカッと大きなテーブルの真ん中に置かれ、それぞれの席に酒と、ホーリーの席には果汁ジュースが置かれた。
「はい、ホーリー。あーん」
「一人で食べられます……!」
ステラとホーリーがいちゃついている。
「アルク、アルク」
ヨルンがアルクに話しかける。
「ん、なんだ?」
「あーん」
ステラ達を見て真似したくなったようだ。
「何だよ急に」
と、アルク。
「「いいからあーん」」
ステラとヨルンがハモる。
ホーリーとアルクが仕方ないなあ、という風に口を開く。
(わ、私も……!)
ファミィもやろうとした時、
「なあ、ステラとジェシカはチームに入ってないのか?」
とアルクが聞いたので、タイミングを逃した。
「アタシは身内でチーム作ったら、賞金首との戦いで壊滅してな……今は一人だよ。やっぱりちゃんとしたプロが入ってないとダメだな」
「私もまだチームに入ってないよ」
二人が答える。
「じゃあ俺達のチームに入ろうぜ!」
「入ったとしてもお前とは組まないぞ」
「私も」
「ちぇ、なんだよ二人共。俺と組むのがそんなに嫌かよ」
「当たり前だ。ていうかお前、私達と組みたくて誘ったのか。ハーレムでも作るつもりか」
「別にそんなつもりじゃ……ただ同じ位のレベルで組んだほうが楽しいかと思ったんだよ」
「私と組んだらホーリーが付いてくるからハーレムじゃなくなるよ」
アルクの勧誘を適当にあしらう二人。
「ステラはいつまでお守り付きで冒険するつもりなんだ?」
と、アルク。
「お守りって……相棒って言ってよ。ね、ホーリー?」
「まあ、お守りになってるのは否定しませんが」
「ちょっと!?」
「そう変な話じゃねえだろ。ベテランに付いてきてもらって戦うハンターなんて珍しくない。アタシだってさっきちゃんとしたプロが居ないとダメだ、って言ったろ?まあ、コイツらの問題は、なんでその役目がこんな子供なのかってところだが、実際実力があるんだからそこはしょうがない」
と、ジェシカが助け船を出す。
「ウチの養成校ならベテランも沢山いるぜ!ジェシカもステラも、それなら文句ないだろ?」
「しつこい男は嫌われるぞ」
「ホーリー、おいしい?」
「悪くないです」
全く乗り気ではない二人。
「そう言えばステラとホーリーはどういう関係なんだ?あれか?名家のお嬢様とそのお付きとかか?」
と、ジェシカ。
「お嬢様だなんてとんでもないよ。私は孤児院出で、ハンターに登録した日にホーリーと出会ったの。皆、ハンター歴は私よりも長いよね?ギルドの中で、この子、見たこと無い?」
ステラが皆に聞く。
「んー?そういえば、見覚えがあるな。賞金首の掲示板によく居たような……あ!あの黒い機甲獣、見覚えがあるぞ!!確かアタシ達が壊滅した時に、助ける代わりに賞金首を狩っていった奴だ!!あれ、お前か?」
「そんな事はしょっちゅうなので、あれ、と言われてもどれの事なのかわかりません」
「あの、私も見かけたことがあります」
と、ファミイ。
「こんな子が一人で居て良いのかなって思ったんですけど、その時はまだ私達も初心者で、よくわからなくて、そんなものなのかなと思って……ごめんなさい!」
「別に謝らなくても……結構色んな人が見てたんだね。誰か助けようって思わなかったのかな?」
「こんな田舎惑星のさらに辺境のハンターなんて、大体がその日暮らしのロクデナシだよ。他人の事になんて気が回らない。実際アタシがそうだったようにな」
「でもこの子、会った時は仕事の報酬を持ち逃げされて困ってたんだよ。夜も、機甲獣の操縦席で寝て、着替えもなくて、お風呂にも入って無くて」
「別に困ってたってほどではないです。あとお風呂は時々入ってました」
ステラの発言をホーリーが訂正する。
「じゃあお前が一緒に暮らしてやればいいじゃないか。今の状態だとどっちが養われてるのかわからないけど」
「うん。そうしてる」
ジェシカの発言に、ステラが前向きになる。
「ホーリー、いつか君を養ってあげられるようになるからね」
ステラがホーリーの頭を撫でながら言う。
「期待しています」
ホーリーは全く期待していない様子で答えた。
宿への帰り道、ホーリーがハア、と溜め息を付いたのに気付いた。
「ホーリー?どうしたの?」
「ああ……特に何も」
「そんなに賞金山分けにするの嫌だった?」
「別に」
「仲間はずれは嫌?」
「別に」
「アルクに何か言われた?」
「別に」
ホーリーはそう言っているがさっきからステラと目を合わせようとしない。
「……何が不満なの?」
「別に気など損ねてはおりませんが」
ツンとした表情でホーリーが言う。
「じゃあどうしたの?溜息ついたよね?」
ホーリーは少し間を置いて口を開いた。
「私達、いつまで二人でいるんだろうって思って」
「え?」
「最初は、ご飯奢ってくれたからその分の恩返しにって、機動兵器の所に案内しただけなんです。それが、相棒って言い出して部屋に連れ込んで一緒に暮らしてるけど、私の訓練に付き合うって言ったり、やっぱり私の助けはいらないって言ったり、私を養うって言い出したり、ステラさんが私をどうしたいのかがわかりません」
「え?う、うーん……」
「ステラさんは私を利用したいんですか?保護したいんですか?」
「ちょ、ちょっと待って」
詰め寄るホーリーをステラが止める。
「私が君をどうしたいかっていうのと、私達がいつまで二人でいるのかって話が、結びつかないよ」
ホーリーはステラにそう言われて、話しづらそうに俯いた。
「その、そこがわからないと、ステラさんとどう接すれば良いのかがわからないというか、これからも他の人に馬鹿にされながら仕事の手伝いをするのかなとか、そうなると辛いというか」
ホーリーは言葉に詰まっている。恐らくホーリー自身もハッキリとした実態のない、不安のようなものなのだろう。そして、それをうまく言語化する事もできない。
「私といるのは嫌かな?」
ステラは悲しそうな顔でそう言った。
「そういうわけじゃないんですけど……」
ステラにはどうしたら良いかわからない。
確かに自分はホーリーに対して不義理なところがあったと思う。
愛想を尽かしてもおかしくない。
でも、何の見返りもなく助けてくれて、頼めば賞金だって山分けしてくれた。
「でも、利用したいのか保護したいのか、っていうのは、ちょっと言い方が悪くないかな?」
「すみません」
「私、利用してるように見えてる?」
「……わかりません」
ホーリーが罪悪感のようなものを感じている隙に、ステラはホーリーの手を取った。
「手、繋いで帰ろっ」
「?いいですけど」
ぎゅうっと手を繋いで帰る。
お互いに温もりと安心感を感じた。
これだ。これが必要なのだ、とステラは思う。
それを離したくないがために、宿への帰り道、ホーリーへの「答え」を準備する。
宿に帰り、一息つく。
なんだか急に眠くなった。
さっきまで考えていた事が霧散しそうになる。
そうなる前に、言おうと決めた。
「ホーリー、さっきの話なんだけどさ」
「はい」
「ホーリーは私といるのは嫌じゃないんだよね?」
「……どうなんでしょう」
「嫌って事?」
イラッとする。疲れのせいか、余計に機嫌が悪くなる。
「そういうわけじゃないんですけど、どうしたらいいかわからなくて、すごく不安で、ドキドキして、いっそ一人になったら楽になるのかなって思ったけど、帰れって言われた時、すごくがっかりして、悲しかったです」
(ふうん)
ステラはホーリーの搾り取るような言葉を聞いて、もう一つ質問をした。
「私がホーリーの事嫌いって言ったらどうする?」
ホーリーはハッとしたような顔をした後、
「嫌いなんですか?」
と覚悟を決めたような目と震えるような声で聞いてきた。
この反応でステラは確信した。
これなら言ってもいいだろう。
「好きだよ」
それを聞いて、ホーリーは安堵した。
「そうですか」
力が抜けているのがステラにもわかる。
「ホーリーは?私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです」
「じゃあ好き?」
「えっと、それは」
「私ね」
ホーリーの隣に座り、手を握りながら言う。
「ホーリーの事、ちょっと怖いけど頼りになるって思う。今はね。でも、最初に出会った時に可愛そうで弱い子で、守ってあげなくちゃって思ってて、それを引きずって君への評価がちょっと狂ってるんだと思う」
「はあ」
「君の方がちっちゃいのもあって、アルク達の前ではカッコつけて自分の方が保護者みたいに言っちゃった。それはごめんね?」
ホーリーが俯く。
「でも、ホーリーは帰れって言われてそのまま帰ったよね?」
ホーリーが顔を上げてステラの方を向く。
「ステラさんが帰れって言ったんじゃないですか」
「でも訓練の時は私の言うことを聞かずにがんばりましょうって言ってたよね?あのくらいの強情さが欲しかったな」
(私、めんどくさい女だな)
ホーリーもそんな目で見ている。
「ホーリー、私の方からも聞くね。君は私をご主人さまにしたいの?私の先生になりたいの?」
ホーリーはまた俯く。
「君はそういう、上下関係みたいなのをハッキリさせたいんだろうけどさ。相棒ってそういうのじゃなくて、対等な関係なんだと思う。お互いに足りないところを補い合う、そんな関係になろ?」
ステラは俯いたホーリーの目を覗き込みながら言う。
「でも、今は君の方が強いし、しっかりしてるし、私なんて居なくていいよねって思う。でも、それでもなんとか君と一緒に居たいんだよ」
自分でも滅茶苦茶な事を言っていると思う。
だがこれがステラの、15歳の少女がなんとか絞り出せる精一杯の言葉だった。
「だから、それまでの間ちょっと協力してくれないかな?今は私の事、足手纏いで見ててイライラするかも知れないけどさ」
ホーリーはなにか思案しているようだ。
お互い、言ったことはぐちゃぐちゃした心の中をそのまま言葉にして出したような、支離滅裂な内容だった。
「私は」
ホーリーが口を開く。
「うん?」
「ステラさんに利用されたいです」
「え?」
「ステラさんの言う事を聞いて、ステラさんのためになる事をして、ステラさんの代わりに死にたいです」
「ちょ、ちょっと待って」
ステラが焦る。
「私の代わりに死ぬって、私はそんな事望んでないよ。私は君と一緒にいたいよ」
「でも、ステラさんの為なら、私は命を賭けられると思うんです」
「それは望んでないって」
「貴方がそういう人だから、自分の全てを捧げようと思ったんです」
「バカ」
「そうです馬鹿です。だからステラさんが私をどう使うか決めてください」
「私だから?」
「そうです」
「でも、それは私が望んでないって言ったよね?ソレにふさわしい人間が、ソレを望んでないって事は、ソレは間違っているということだよ」
幼い時に読んだ冒険譚、「海賊旗のガンボイ」の一節を引用して説得する。
ホーリーはぶつけた思いの丈を否定されて、シュンとなる。
「ねえ、なんで私の事をそういう風に思ったの?」
「わかりません。優しくされれば、誰にでも靡いてたのかも知れません」
「それだけ?」
「それだけのことが出来ない人が、世界にはいっぱいいるんですよ」
──他人の事になんて気が回らない。実際アタシがそうだったようにな。
ジェシカの言った言葉を思い出す。
ステラはホーリーをぎゅうっと抱きしめた。
ホーリーはステラの体温を、女の子特有の体の柔らかさを、仕事終わりで少し臭う体臭を感じる。
「大丈夫だよ。私は君の事、愛してる」
抱きしめられながらのそれは、蕩けそうな一言だった。
ボーッとした、何か宇宙の真理でも悟れそうな一時の後。
「もう……大丈夫です」
「そう?」
そう言ってステラはホーリーから離れる。
「ホーリー」
「はい」
「男の子のそれって……悪い事じゃないんでしょ?」
「!!」
ホーリーの股間が膨らんでいた。
それの意味するところを、ステラは知っている。
ホーリーは赤くなって俯いた。
「いいんだよ。シャワー浴びてくるね」
そう言ってステラはシャワー室に向かった。
ホーリーもシャワーを浴びた後、ステラが待っていた。
なんだかやたらと着崩している。
胸の谷間が見える。
パンツの一部が顔を覗かせている。
その格好で、ベッドの上に女の子座りである。
いつも以上に無防備な気がするのは気のせいだろうか。
「じゃあ、寝ようか」
「はい」
部屋の明かりが消され、二人共ベッドに入る。
「ねえホーリー」
「なんですか?」
「ホーリーがその気になったらさ、私、絶対抵抗できないよね」
弱みを握られた、と思う。
「その時は責任は取ってね」
「バカ」
「うん、バカだね」
ヘヘ、とステラは笑った。




