薬売り
「ゲホッ、コホッ」
町外れの小さな休憩所に咳き込む一人の青年。その咳き込みを聞いた一人の少女が青年へと近付く。
その少女は背に肩幅より少し小さめな木箱を背負っている。
「お兄さん、風邪?」
「あぁ、町で流行り風邪のようでね」
「風邪にとってもよく効くお薬が有るけど、買いませんか?」
「…薬師のお嬢さんか。なら、俺の分を一つと知り合いにもあげたいから幾つか売ってくれるかい?」
「有難う」
黒髪をお下げにした少女はにこりと微笑み、背負っていた木箱から薬を幾つか取り出した。
「お嬢さんは家の人の手伝いかな」
「この年齢では…珍しいですか?」
「15にも満たないように見えるからね、聞いてみただけだよ」
「ふふ、お手伝い」
「そうか、有難う…助かるよ」
青年はお金と引き換えに薬を受け取ると手を軽く振って家路に就いた。少女はにこにことした表情のまま手を振り、降ろした木箱をもう一度背負うと歩き出す。
「効果は直ぐ…直ぐですよ、お兄さん」
にんまりとした笑顔を貼り付けたまま少女は呟いた。
「おお!飲んで直ぐ治ってしまった」
先程少女から薬を買った青年は家に帰るなり水でごくりと飲み込む。ずっと続いていた咳も止み、怠く感じていた体の不自由さも無くなり明るい表情を浮かべる。
早速、幾つか買っていた薬を周りの風邪が酷いと寝込んでいる友人や隣近所へと渡し歩いた。
だが、その日の夜…異変は起きた。
「う…おぇっ、ゲホッ!」
急な吐き気と目眩に襲われ倒れ込む。
夕方に飲んだ薬の反動のせいなんだろうかと思いながら洗面器に顔を突っ込む。洗面器の中には赤黒い肉片が混ざり見える。どうも口の中もイガイガし気持ちが悪い。そう思っていると急な込み上げに勢いよく吐き出す。
「がっ、は!ぐっ…」
目の前に飛び散る赤。アカ、あか…。
朱で床が染まっていく。何が起きたのかは青年には分からなかった。
「ちょっと!あんたに貰った薬で旦那が…きゃああ!!!」
ドタドタとけたたましい足音を立てて隣人が家の中に上がってくる。けれど、今の青年の惨状を見てか腰を抜かして座り込む。
それもそのはずだ。鼻血を出しながら口からは血を吐き、床にはぬらりと血で赤黒く光る肉片が飛び散っているのだ。その肉片が体内の臓器なのかは分からない。けれど、生々しい肉の塊はあちこちに散乱している。
「ぎゃあ!」
「うわっ」
「ゴボッ、うぇ…」
「ぐっ、はぁ」
町のあちこちから悲鳴と嗚咽、そして血の臭いが漂う。その惨状は感染したウィルスが人々を蝕んでいくようにも見えた。
「よく効くお薬、とは言ったけれど…治る薬とは一言も言っていないよ、お兄さん…」
町からの阿鼻叫喚を聞きながら少女は鼻歌を唄う。くすくすと可笑しそうに、愉快そうに嗤う。
「見知らぬ薬師からお薬を貰うときは…気を付けなきゃ」
感染する死の連鎖を一通り見ると少女は歩き出す。次の町ではなんのお薬を売ろうか?
そんな事をぼんやり考えながら。




