合い言葉は愛言葉
なろうラジオ大賞7参加作品
町はずれの人通りが少ない一画にポツンとボロボロの長屋が建っていた。
インターホンが無く中の人に来訪を知らせるにはノックしかなかった。
コンコンコン コンコン
これは自分だけがする特別なノック。
すぐに扉の向こう側に人の気配が感じられた。
「愛子お姉さんは?」
「…とってもかわいい」
「カナエくんはわたしが?」
「…だ、大好きです」
扉越しの問いかけに答えたあと、鍵が開く音と共に扉が静かに開かれる。
扉の影から、長身で腰まで伸びる黒髪を携えた女性が立っていた。
切れ目で鼻筋の通った端正な顔立ち。
キツネが化けた美女と形容しても差し支えない雰囲気があった。
「やぁいらっしゃい」
薄く微笑むを湛えるお姉さんの顔にドギマギしながら「こんにちは」と顔を伏せながら答える。
畳の間に通され正座をして待っていると、カップを二つ持ったお姉さんが台所からやって来た。
「はいどーぞ」
「ありがとうございます」
両手でカップを受け取りお茶をすすったあと、ボクはお姉さんに言葉を向ける。
「あの合い言葉なんとかなりませんか?」
「なにがかな?」
「恥ずかしいというかなんというか」
「そうか君はわたしを可愛いと思ってないし好きではないんだね」
「その言いかたはずるいですよ…そもそも普通に入れてください」
「君が普段からああいうことを言ってくれるならいいよ」
「な、なんでですか⁉ボクとお姉さんは友達?みたいなものですし、恋人ならまだしも…」
「じゃあそういう関係ならいいんだね?」
お姉さんはボクに近づきそっと押し倒す。
畳の上に仰向けになったボクをお姉さんが笑みを浮かべながら見下ろす。
「だ、だめですよ!だって…」
「だって?」
「ボク…女ですよ?」
「関係あるのかな?」
意に介さないといった様子のお姉さんに驚き思わずボクは目を見開いてしまう。
その姿にお姉さんは思わず噴き出した。
「アハハハ!ごめんごめん、ちょっとからかいすぎた。わたしが道で倒れているところを助けてくれた恩人に失礼だったね」
ボクは一月前、人気の少ない道で倒れているお姉さんと出会った。
正直一目ぼれだった。
これがきっかけで足しげくお姉さんのもとへ通うようになった。
そしてこれからもお姉さんに会いに来るだろう。
愛言葉と共に―




