フィールドボスに挑む
古びた洋館。マップの端に形成されたダンジョンである。カイは一度ここに来たことがある。それはスキル獲得のためであり、ボスモンスターとは戦っていないのだが。
このダンジョン、ダンジョンといっても扉を開けて二階に上るとすぐボスモンスターが現れる。そんなわけで、ある程度レベルを上げたプレイヤーからは最も狩りやすいボスモンスターとされている。特に戦士系の職業にとっては。
「では行きますよ」
ブランが二階の扉を開ける。ぼやあと霞が現れたかと思うとそれが凝縮して、二体の魔術師のようなモンスターが姿を現す。
『ダブルマジッカー』、それは高い魔法防御力と様々な魔法スキルを使ってくることで有名なボスモンスターである。二体いるモンスターの体力は共有されていて、どちらかを集中攻撃することが定石となっている。緑のローブの方は雷、氷、闇耐性が高く、赤のローブの方は炎、風、光耐性が高い。パーティによってどちらを集中的に攻撃するかが変わってくる。
カイのパーティは当然、緑のローブの方を狙う。
「よーし、いくよー!『獄炎の一撃』!」
ブランはいきなり大技を繰り出す。その理不尽な火力は、体力を一気に2割ほど削った。しかし、ブランは戦士職。MPが低く、『獄炎の一撃』は一度しか使うことができない。ここからはしばらくMPを回復させるために、通常攻撃で削っていく。
「私たちは赤いほうをつついておきましょうか」
ブランがソロで挑むときは、緑の方に攻撃を当てながら、赤いほうから飛んでくる魔法スキルを躱していかなければならない。そのため一周するのに少し時間がかかってしまうのだが、今回は違った。カイも少しは活躍しようと、適当な技スキルで攻撃する。
「『麻痺攻撃』!」
カイの攻撃は赤のマジッカーに当たる。が、ブランが常に体力を削り続けているのでで、どれだけダメージが入ったのかは全く分からなかった。しかし、ヘイトをこちらに向けることは成功した。
「『毒の沼』!」
ノワールが周囲に毒のスリップダメージを与えるフィールドを作り出す。
「ちょ、ちょっと! 私が戦える範囲減ったんだけど!」
「あ、ごめん!」
攻撃は続けながらブランがノワールに言う。ノワールは少し笑いながら謝っていた。
とはいえ、毒のスリップダメージが赤いマジッカーに入っている功績は大きかった。ボスモンスターとはいえ、序盤に狩りに来るようなモンスターだ。状態異常耐性は持っていない。
「よし、『獄炎の一撃』!」
MPがある程度回復したブランは再び放つ。これにより、ぴったりMPがなくなる。次の『獄炎の一撃』を繰り出すにはかなりの時間が必要となるだろう。
そうこうしているうちに、ダブルマジッカーのHPが3割を切る。すると、行動パターンが若干変わる。HPをより減らされた方は、距離をとるようになり、ダメージを受けていない方が積極的に距離を詰めるようになる。
緑の方がブランから距離を取り、赤いほうがブランの前に台頭する。
今度はブランが赤い方と戦うことになる。とはいえ、戦いなれているブランは十分承知している。流石に100体以上討伐しているだけはある。今後はMPが不要のため、使い切ったのだ。スキルを放つタイミングも完ぺきだった。
カイはそのブランの動きに見とれていた。何十周もここを周回していたための動き。相手の攻撃を完全にかわすのではなく、ノックバックや被ダメージが少ない攻撃はあえて受け、その分攻撃する、時間効率重視の戦い方だ。
と、見とれていると、緑のローブから『氷塊』が飛んでくる。カイは間一髪でかわすと、お返しに『旋風』を飛ばす。ノワールはダメージ効率が悪いが、何もしないよりはましと様々な魔法スキルを放っていた。
ダブルマジッカーのHPが1割を切ったとき、二体の体が融合する。すると上空に巨大な真っ黒の弾を出現させた。これがダブルマジッカーの最後の切り札『極大暗黒弾』である。このモーションを始めた3分後、細かい闇属性の弾がフィールド上に振り始める。魔法防御力の高いトッププレイヤーが検証していたが、その落ちてくる範囲はフィールドの90%を超えていた。楽に倒せるから最初に討伐するボスに選ばれがちだが、この技は初心者と中級者を苦しめる。若干初見殺し的な要素である。対処する方法は、降り始める前に倒すか、闇属性の弾を躱すか、もしくはその攻撃を受けても耐えられるだけの体力と魔法防御力があるかである。
しかし、ブランにとって何のことはない。このモードに移行してから3分以内でケリをつけられることはわかっている。最後のラッシュとばかりに防御をせずひたすら攻める。そして、『極大暗黒弾』は降り始めることなく。ダブルマジッカーは光となって消えていった。
「いや、まじで俺何もしてないな……」
「そんなことないですよ。パーティメンバーがいないと、倒した後こうやって会話なんかすることもなく黙々と周回するだけですからね」
ブランがフォローする。つまりそれは戦闘には役に立っていなかったことの証明である。
「はあ。まあいいか。ボスモンスターも始めて倒したし」
カイは獲得した『ボスキラー』のスキルを見て満足そうに笑った。と、ここで『スキルマテリアル』が光っていることに気付く。カイは何だろうと思い使用してみる。するとそこには、
『双魔法の知識』+『???』→『極大暗黒弾』
という表示が現れる。どうやら『スキルマテリアル』は最後に見た所持していないスキルの合成方法を提示してくれるというものだった。
「そういえば、『極大暗黒弾』ってトッププレイヤーが獲得しようと躍起になっているスキルじゃないか」
『極大暗黒弾』はいまだプレイヤーが所持しているという報告はない。モンスターが使ってくる以上、それは固有スキルではなく通常で使えるスキルのはずだがどうやっても獲得できていない。この『ダブルマジッカー』を倒した回数なのかと100回以上討伐しているプレイヤーもいるが獲得したという報告はない。
「確か『双魔法の知識』ってこいつのドロップスキルだったよな」
カイは当然持っている。それもそのはず、『極大暗黒弾』を取得するために、多くのプレイヤーがダブルマジッカーを周回しているのだから、ボスモンスターのドロップスキルにもかかわらず、市場に多く売り出されている。カイがそんなことを考えていると、ノワールが何か見つける。
「あれ、これレアドロップじゃない? ブラン」
「えっ! ほんと!?」
「ほら、『分裂』」
「そっちじゃないよー……」
見つけたものはレアドロップスキル『分裂』であった。
「じゃあこれは、カイさんにあげていいよね?」
「うん、いいよ。あんまり使えるスキルじゃないし」
「えっ、いいのか?ボスモンスターのレアドロップスキルなんてなかなか手に入らないぞ」
「『獄炎の一撃』に比べると何倍も劣りますよー」
そんな会話をしながら洋館から出る。
「それで、この後どうします?」
「私はもう何周か回りたいね。ただ、ソロでもいいかなと思ってるよ」
「俺はちょっと気になったスキルがあるから合成できるか試してみたい」
「え、何ですか!?それって」
ブランが食い気味に聞いてくるので、カイは『スキルマテリアル』の画面を見せる。
「へー。なるほど。それなら私が持っている『双魔法の知識』20個ほど、全部あげますよ」
ブランはダブルマジッカーを何体も討伐している。基本はマナに変えているのだが、今日はまだ売りに行っていなかった。
「まじか。助かる。安く買えるといっても馬鹿にならないしな」
市場に流通しているとはいえ、魔法使い職は所持し得なスキルのため、需要もそこそこある。そのため、そう何個も買えるスキルではない。カイは二人と別れ、再び路地裏へと入っていくのであった。
☆☆☆☆☆☆
技スキル『麻痺攻撃』
・スキル屋で常時購入可能。
《敵を切り裂く攻撃。10%で麻痺付与》
技スキル『旋風』
・スモールスパロウのドロップスキル。
《風属性の遠距離攻撃》
魔法スキル『氷塊』
・雪兎を『アイスⅢ』以上でとどめを刺す。
《氷の弾を飛ばす》
特性スキル『ボスキラ―』
・初めてボスを討伐する
《ボス戦のとき、攻撃力、魔法攻撃力が3%アップ》
特性スキル『双魔法の知識』
・ダブルマジッカーのドロップスキル
《魔法をつかったのち、次の別の魔法を繰り出すときの硬直時間が短くなる》
魔法スキル『分裂』
・ダブルマジッカーのレアドロップスキル




