山へと向かう
「ここにいてはそのうち、フィールドの壁に当たって死んでしまうかもしれません。早めに中心地へ移動しましょう」
「そだねー。このフィールドの縮まり方としたら……、うん。この山の道中あたりが中心地になるかなー」
カイたちは少し休むと、中心地に向かって歩いていく。幸いなことにノワールが『消音』を使えるため、三人は足音は気にしなくてもよい。道中、プレイヤーを見つけると、ノワールがそっと魔法スキルを使って倒していった。
そして、数分歩くと、山のふもとへたどり着く。そこから山を登っていく。しばらく歩くと、木が少なくなり、荒野のようなフィールドが開けた。
「あの岩を右に曲がったところが中心地っぽいねー。でも……『チェック』」
そう言うと、ミナミはスキルを使う。ふむふむ、とその道を見ると。
「うーん、いくらか罠が仕掛けてあるねー。どうやらすでに誰かいそうだよ」
「とはいえ、そこに行かないと最後まで生き残れないんだろ? それなら様子だけでも見に行ったほうがいいんじゃないか?」
「まあ、それはそうかもねー。正直ここでじっとしていても100位以内には入れるとは思うけどねー」
三人はこっそりと罠を躱しながら岩の方へ向かう。そしてそこから中心地を覗くと、そこには10人ほどのプレイヤーが立っていた。そのプレイヤーは全員、『光の太陽』のメンバーである。そして、その場を指揮していたのはカイのリアルの友達であるリクであった。
「まじか……リク……」
カイは最小の声でつぶやく。運営から、なるべくフレンドやギルドメンバーは違うグループになると通知されていた。そのためカイもリクやソラは違うグループだと思っていた。実際、ノワールと同じグループだった時点でフレンドとも同じグループになっていても何もおかしくはないのだが。
「知り合いですか?」
「ああ、リアルの友達だ。それにトッププレイヤーの一人でもある」
「戦うの? それなら当然、手伝うけど」
「いや、無理だ。三対一ならやれないこともないかもしれないが、相手は10人以上いる。返り討ちに合うだけだ。それに俺も『分裂』のせいでステータスが半分になってるしな」
『分裂』は使い方次第では結構便利なスキルだが、減ったステータスを戻すには町に戻らなければならない。イベント中の今、半減したステータスを元に戻す方法はない。
その時、運営から通知が来る。どうやら、このグループの生存者が100人を切ったらしい。すると、山の下からおおおおっ!と叫び声が聞こえてくる。そのすぐあと、20人近くが待機している『光の太陽』のもとへと走っていった。
彼らはカイと同じように100位以内を目指していた人たちである。100位以内が確定した今、もうどうなってもいいと集まっていたプレイヤー全員で『光の太陽』に攻め込んでいく。
「うおおおお!!! 一太刀浴びせてやるぞ!!!」
「おう! イベント上位が『光の太陽』で染まるのは面白くねえ!」
突っ込んでいったプレイヤーは設置されていた罠にはまり、爆発して飛んでいく。後続のプレイヤーはそれを見て勢いが止まる。
「お、敵が来たみたいだな。行くぞ!」
リクは仲間たちに号令すると、襲ってきたプレイヤーを返り討ちにしていく。リクの固有スキル『ノクターンバーサーク』は夜の間攻撃力が上昇するというスキルなのだが、それ抜きでもリクは強かった。次々プレイヤーを仕留めていく。そして『光の太陽』のメンバーはだれ一人死ぬことなくその場を乗り切った。
「お疲れ、皆。イベントの残り時間もあと15分くらいだ。ここを死守すれば優勝できるぞ!」
おおおおお!と歓声が沸き上がる。カイたちはその様子を岩の陰で眺めている。やっぱり無理だなと会話をしていると、突然、リクがカイたちのいる岩場の方を見る。
「誰だ! 誰か隠れているな!!」
カイたちは慌てて岩の後ろに隠れる。リクはすぐさま『見破る』を使用する。
「流石に気づかれたか……。『光の太陽』! お前らの隙にはさせんぞ!」
カイの頭上から声か聞こえる。カイは『見破る』を使用すると、そこには黒い衣装に身を包んだプレイヤーが5人、岩の上に立っていた。
「お前らは、『闇の魔術団』のメンバーだな。いいだろう! 勝負だ!」
『光の太陽』と『闇の魔術団』が激突する。人数では倍近くいる『光の太陽』であるが、メンバーに実力者はあまりいない。ほとんどがほかのグループであったり、『闇の魔術団』にこっそりと狩られたりしたからである。
「ダメージを受けたらいったん下がれ! 人数はこっちの方が多い! 丁寧に戦えば負けないぞ!」
「我々の高火力の魔法スキルを食らってもそう言っていられるかな。『イグニス』!」
「スーナ! 盾頼むぞ!」
「はい!!」
炎魔法でも上位の方に位置するスキルを『光の太陽』の盾役はあっさりと受け止める。その隙に、リクは『闇の魔術団』に攻撃を仕掛けていく。争いは激化していく。やがて、『光の太陽』が5人目のメンバーを失ったとき、『闇の魔術団』も最後のメンバーが光りとなって消えていった。
「ふう……。うちも残り6人か……。『闇の魔術団』のメンバーもほぼ狩りつくしただろうからあとは大丈夫だと思うんだがな」
「リク様、MPポーションです」
「ああ、ありがとう。しかし、『ステルス』か。これは『見破る』を使って他にも潜伏しているやつがいないか探した方がいいかもな」
そう言うリクを見てカイたちは再びどうするか、会議を始める。
「まあ、もう突っ込んでもいいんじゃないですか? これ以上待っても何も変わりませんし」
「それもそうだな。作戦なんて意味もないだろうしな」
「いや、ちょっと待って。僕ならもう少しメンバーを減らせるかもしれない」
ミナミはそう言うと、短剣と紫色の液体が入った瓶を取り出す。
「これは、さっき見せた青色の液体の別バージョン。この液体は即死効果。確率は50%だし、多分、あのリクって人は即死耐性くらい持っているだろうから効かないかもしれないけど、メンバーを削ることはできるかも」
それと、とミナミは続ける。
「せっかく、隠れているんだよ。わざわざ全員が姿を現す必要はないと思うんだよねー。だから、ノワールはそのまま隠れていたほうがいいかも」
ああ、わかったとカイとノワールはうなずく。うん、とミナミは短剣を紫色の液体につけると、カイが見た禍々しいオーラが短剣から発せられる。ミナミはゆっくりと足跡がつかないように『光の太陽』のもとへと歩いていく。
そして、一人目、カイたちの方を見ていたメンバーの後ろに立つと、スッと刃を入れる。結果は即死、そのまま光となって消えていく。ミナミはすぐさま別の瓶を取り出して、紫色の液体に短剣をつける。そこから走って、すぐさま、二人目を光に変えた。
『光の太陽』のメンバーは軽くパニックになる。だが、リクだけは違っていた。すぐに『見破る』を使用する。リクの目に一人の少女が映る。その少女は盾役であるスーナのもとへと走っていた。
「スーナ! 守れ!」
「え? はい!!」
盾役の少女は、盾を構える。しかし、構えた先にミナミはいない。ミナミは短剣で刺すと、その子も光に変えてしまった。
「あ、おい! スーナ! ……くそ! みんな! 『見破る』を早く使え!」
そう叫ぶとリクは、ミナミに斬りかかる。ミナミはその攻撃をギリギリのところでかわす。
「不意打ちとはやるな。即死魔法は詠唱音が聞こえてくるからあまり対策しなくていいと思っていたんだが……。アイテムか。やられたな。うちの最高レベルの盾役を持っていくとはなあ。まあそれでも三対一だ」
リクがミナミに向かって言う。それに対して、『光の太陽』のメンバーの一人がリクに言う。
「あの、申し訳ないんだけど……僕、『見破る』つかえないんだよね……」
「すまん。俺もだ」
『光の太陽』とはいえ、全カインのイベントで最高位レイドに挑戦していないプレイヤーも多い。当然そのようなプレイヤーはわざわざ『見破る』のスキルを取っていない。
「えっ? マジで? うーん、じゃあそこで見ててくれ。俺一人でも十分やれるだろう」
リクは剣を構える。ミナミも武器を構える。回避性能はあるとはいえ、ミナミは近接攻撃に向いていない。ミナミはゆっくりと後ろに下がっていく。
リクはその行動に少し、違和感を覚えた。確かに距離をとるのは適切かもしれないが、相手は短剣である。普通の剣相手では距離をとるのは愚策ではないかと。何かあると思い、注意深く彼女を観察する。
すると、彼女の後ろの土が動いた気がした。これはと思い、リクは『見破る』を使用する。
そこには、ゆっくりと近づいて来ようとするカイの姿があった。
「なんだ、カイか。もしかしてこの子、カイのメンバーなのか」
カイは気づかれたか、とそろりと歩くのをやめる。
「ああ、そうだ。どうだ? 結構強いだろ」
「強いというか……まあ、姑息な感じだな」
二人は軽く微笑むとにらみ合った。




